マイナーVtuberミーコの弱くてニューゲーム

下城米雪

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追憶3

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 ズルい。インチキだよ。
 ズルだ。ズル。ズル。卑怯者。

 なんで、なんでそんな。
 私は、わた、私はこんな。

 暗い。痛い。辛い。寂しい。
 こんな、あ、こんな、なのに。

 お前ばっかり。
 お兄ちゃんばっかり、上手く行くの?

 
 ──ああ、これは夢だ。


 直ぐに分かった。
 だって、自分が見える。

 狭い円の中、ひとりきり。
 一歩も動かない。わぁわぁ叫んでる。

 ガラスを引き裂くみたいな音。
 血と涙を同時に吐き出したみたいな声。

 分かるよ。その気持ち。
 よく分かるよ。その痛み。

 全部が憎らしかった。
 何もかも妬ましかった。

 私は、お兄ちゃんにさえ嫉妬していた。
 世界でただ一人の味方さえも遠ざけていた。

 こんな風に。
 一歩も動かず、叫んでた。

 ──違うよ。

 声は出ない。

 ──ズルくないよ。

 息もできない。

 不意に声が聞こえた。
 雑多な街を歩いた時みたいな音だった。
 
 私が悲鳴を上げた。
 丸くなって、ぷるぷる震えている。

 私はぼんやり周囲を見た。
 両隣にエスカレーターがあった。

 制服を着た顔の見えない人々。
 ケラケラと笑い合いながら上ってる。

 あの場所に行きたい。
 でも、それはできない。

 道が無い。
 右も、左も、前も、後ろも。

 断崖絶壁。
 跳んでも投げても届かない。

 ぼんやり見る。それだけ。
 景色は変わる。どんどん遠くなる。

 最初は近くにあった。そのはずだった。
 でも今は違う。いつの間にか、豆粒だ。

 ああ、ああ、なんて、酷い。
 気が付いた時には、もう全部が手遅れ。
 
 私はどこにも行けない。

 膝を抱えて泣き続けるだけ。
 それに飽きたら、奈落の底に飛び込むだけ。

 とても真っ暗な場所。
 だけど、どこか心が安らぐ闇の先。

 何があるのかな。
 きっと何も無い。
 さぞ、心地良いことだろう。

 ──眩しい。

 ふと顔をあげた。
 とても細い糸が目の前にあった。

 キラキラと輝いている。
 宝石みたいで、思わず手を伸ばした。

 誰かの声が聴こえた。
 とても安心できる声だった。

 糸を強く握り締める。
 次の瞬間、身体が浮かび上がった。

 突然、身体が重たくなった。
 糸を握る手に力を込めるけれど、ズルズルと滑ってしまう。

 ふと下を見る。
 私が、ぶら下がっていた。

「……」

 思わず、笑い声が出た。 
 とても皮肉に満ちた夢だと思った。

 私は泣いている。
 私は怯えている。
 私は叫んでいる。
 私は妬んでいる。
 私は──

「大丈夫」

 初めて、声が出た。

「見てて」

 切り離せたら、どれだけ楽だろう。
 切り捨てたら、どれだけ身軽になるのだろう。
 どれだけ私が上を向いても、いつだって過去が足を引っ張る。

「……私、強くなるよ」

 だから、もっと強く糸を握り締める。
 重たい過去を全部背負って上に行くために、歯を食い縛る。

 辛い。もう無理だよ。
 休みたい。手の感覚が無い。

 なんの意味があるの?
 この先に何が待ってるの?

 コスパ悪いよ。
 諦めて、楽になろうよ。

「うるさい」

 思い切り身体を持ち上げる。
 全身全霊で、血反吐を吐いて、ほんの数ミリだけ。

 景色はさっぱり変わらない。
 ただ疲れただけ。終わりは見えない。

 それでも、やめない。
 もう一度、ほんの数ミリ、上に行く。

 ──何のために?

 決まってる。
 私には、理由がある。

 ──そんなの、意味無いよ。

 本当に、ひどい夢だ。
 弱い私が囁き続けている。

 諦めろ。
 諦めろ。
 諦めろ。 
 諦めろ。

「……やだよーだ」

 へにょへにょした声で言い返した。
 どういうわけか、身体の内側から無限に力が湧き出てくる。

 ……ああ、そっか。
 だから私は、こんな夢を見てるのか。

 多分、もうちょっとで目が覚める。
 分かるんだ。体が熱くて、とても痛いから。

 あの時も同じだった。
 全身が溶けてしまいそうな高熱の中、私は──
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