マイナーVtuberミーコの弱くてニューゲーム

下城米雪

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第20話 ぐっばい

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 世界が静寂に包まれる時間。
 彼女は今宵も元気に早起きした。

「んー?」

 体を起こし、瞼をこすりながら首を傾けた。
 何か夢を見ていたような気がする。でも全く思い出せない。

「ふぁー」

 欠伸をすると夢の記憶が完全に消えた。
 そのまま眠そうな表情で虚空を見つめる。

「お-?」

 ふと疑問が生まれた。
 大切なことを忘れているような気がする。
 
「……ふぁっ!?」

 それを思い出すと同時に飛び起きた。
 慌ててパソコンを起動して現在時刻を確認。

「……セーフ」

 ホッと胸をなでおろす。
 
「起きられて良かったァ……」

 最後の記憶はコラボ配信。
 少しだけ横になるつもりが華麗に入眠。

 寝坊の可能性に怯えたが、特殊な訓練を受けた自律神経くんに救われた。

 配信開始予定時刻の三分前。
 彼女は素早く家の中を駆け回る。

 洗顔、うがい、コップとお茶の用意。
 マイクの位置調整。ヘッドホンを装備。

 これで準備完了。
 あとは配信開始ボタンを押すだけ。

「あれ?」

 ふと違和感を覚えた。
 なんだか体が重たいような気がする。

 あと、ちょっと熱いかも。
 しかも脚の付け根が絶妙に痛い。

「寝ぼけてるのかな?」

 理由を考える。
 数秒後、きっぱり諦めた。

 両手を頬に当て、深呼吸。
 そして気持ちを「ミーコ」に切り替える。

『第89回、反省会、始まるよ~!』

:舞ってた
:いぇぇぇあぁぁぁぁ!
:89回も行ってたっけ?

『ミーコのソロプレイも含みます』

:1日2回以上やんけ
:えらい!

『うむ、くるしゅうないぞ』

:草
:謎の強者感ある

『そんなことよりも!』

:はい

『コラボ、見た?』

:見たぜ!
:最高だった
:かわいかった

『そっか……見られたか……』

:良かったよ!
:間違いなく神回だった

『……全然喋れなかった』

:それはそう
:台本でしょ?

『台本など無い。あれがミーコの全力』

 四天王は反応に困った。

『悔しい~!』

 ミーコは机をぺちぺち叩いた。
 
『お茶飲む~!』

:情緒がミーコって感じ
:実家のような安心感ある

『なんか今日めっちゃ喉乾くかも』

:お兄様ガチ勢、湿度あげて
:それはどういう要求ですの?
:よし、上がったな
:今ので!?

『存在がもう湿度高いよね』

:ミーコまで!?

 今宵もミーコ達は開幕からケラケラ笑った。
 その間、彼女は何度も座り方を変える。絶妙に脚が痛かった。

『感想くれ!』

 下半身の不快感を無視して配信を続ける。

『間違えた。今の無し』

 少し考えて。

『悪い所があったら教えて! 直すからァ~』

:なんで言い直したのw

『まずは形から真似してみようかなって』

:誰の真似?

『一番トーク上手いと思った人』

:誰だ?
:Vだよね?

『国内一位のⅤだよ』

:ヒント刻むねぇ
:今の一位って誰だ?

『ホロライブで一番重い女』

:把握した
:覚え方が草なんよ

『他の女よりミーコのことを考えて』

:はい
:突然外れるはしご

『ミーコは今、燃えてます。
 鉄は熱いうちに……なんだっけ』

:打ちのめせ

『そうそれ』

:草

『燃えてるミーコを打ちのめせ!』

:言い方
:質問とかでも良い?

『かもぉん!』

:テンションかわいい
:なんでパン嫌いなの?

『パンかぁ……』

 ミーコは当時の気持ちを思い出す。

『パンは食べ物じゃなくて武器だよね』

:草
:朝食パン派のワイ、膝から崩れ落ちる
:武器が無ければパンで殴ればいいじゃない
:フランス革命はパンで起きた?

『嫌いとかじゃなくて、魂が拒絶する』

:アレルギー?

『トラウマ。口に入れるとゲロ出ちゃう』

:割と深刻だったわ
:この話やめよっか

『ごめん。空気悪くなっちゃったね』

:お兄様ガチ勢が腹を切って詫びます
:最近この扱い多くありません?
:わたくし、いつサンドバックになりましたの?

『サンドバックとサンドイッチって似てるよね』

:そうですわね

『サンドイッチ、大好物だったのにな……』

:腹を切って詫びます
:草
:好きなおにぎりの具は?

『鮭』

:あれ!?
:嫌いじゃなかったの?

『悪いが、あれは噓だ』

:なぜそんな噓をw

『言い当てられて怖くなっちゃった』

:草
:かわいい
:まぁ確かに不審者だったw

『コミュ強の圧を感じたよ。
 おかげで今脚がメッチャ痛い』

:なんでw

『膝にコミュ力を受けてしまってな……』

:コミュ力(物理
:あー、わかるかも

『あの人なんであんなに喋れるんだろ……』

:ゆーてベテランだからね
:ミーコも可愛くて良かったよ!
:伸びしろ伸びしろ

『伸びしろ!』

:伸びしろ!
:伸びしろ!
:伸びしろ!

『そうだ聴いて。ミーコあれでもメッチャ会話の練習したんだけど、ママが練習相手になってくれたの。メッチャ優しかった。好き』

:ミーコ騙されないで
:その女はポエマーです

『むしゃピョコさんポエムも書くの?』

:激痛ですわよ

『げきつう?』

 ミーコは「専門家(通)かな?」と思った。
 誤字はよくあることだ。わざわざ指摘しない。
 
『後でラインしてみようかな』

:やめたげて
:きっと喜びますわよヘ(゚∀゚ヘ)アヒャ

『なんでその顔文字なの』

 ミーコはケラケラ笑った。

:ちょっと良いか?

『良いよ』

:この時間、マジで生き甲斐だと思ってる

『突然の告白』

:毎回ほんと楽しい
:有名になった後も続けてくれて嬉しい

『どうしたどうした』

 珍しく本気トーンで褒められている。
 ミーコが照れていると、

:だから、終わりにするべきだと思う

『……え?』

:俺達は嬉しい
:でもミーコのためにならん
:ミーコ学園で配信するべき

 それは極めて合理的な提案だった。
 どれだけ四人を喜ばせたところで、ミーコのファンは増えない。百万人という目標を達成するためには、こんな場所で時間を使うべきではない。

 だけど、言葉が出ない。
 突然の提案を受けて頭が真っ白になった。
 
 この時間を大切に思っている。

 気の置けない関係。
 リラックスして会話できる唯一の時間。

 失うなんて考えられない。
 それは視聴者達も同じだった。

 人々が寝静まる時間。
 こんな時間にケラケラと笑えば、生活リズムが崩れる。普通の生活を送ることは不可能だ。

 しかし四天王の四人は、九割以上の出席率を誇る。要するに、そういう生活をしても問題にならない人だけが集まっている。

 気持ちは同じだった。
 この時間は、宝物のようなものだ。

 しばらくの間コメント欄は沈黙した。
 やがて、ぽつりとコメントが投稿された。

:わたくしは賛成します

 あっさりとしたコメント。
 送信ボタンを押す瞬間の感情は、決して伝わらない。

:ついにユラティブ卒業か
:さよなら、ポリゴン数が少なそうな猫耳

 そのコメントを見て、残る二人も後に続いた。
 深刻にならないように。あえて、あっさりとした言葉を選んだ。

『…………』

 ミーコは唇を噛み、鼻をすすった。
 その音はマイクを通じて四人に届いた。

:さっさと百万人集めてワイに映画作らせろ
:切り抜きは任せてくれ
:かわいい連投選手権1位になります
:いつかわたくしが本当のママになりますわ

 四人の手が背中を押す。
 あまりにも新鮮な熱が全身を震わせる。

 初めての感触ではない。
 それはミーコが生まれる直前の出来事。

 彼女は自覚した。
 ずっと、この熱を感じていたのだ。

 世界で一人だけだった。
 彼女の味方は、たった一人だった。

 思いは溢れている。
 伝えたい感情は無限にある。

 だけど、ひとつも言葉にならない。

 口を開く度、嫌だと叫びそうになる。
 失うことを意識した時、気が付いたのだ。

 この時間は、唯一の成果だ。
 長いヒキニート生活の中で、ただひとつだけ、彼女自身の力で作り上げた。

 これを失えば何も残らない。
 そんな風に思えて仕方がなかった。

 違う。違う。違う。
 本当は分かっている。

 この四人は、ずっと前を歩いていた。
 ミーコの手を引っ張ってくれていた。

 その手が背中に回った。
 その意味が、今の彼女には分かる。

 期待されている。
 応援されている。

 奇跡だ。
 最近、夢みたいな出来事ばっかりだ。

 だけど、ここはゴールじゃない。
 この先を望むならば、前に進まなければならない。

『……』

 待って。

『…………』

 ちょっとだけ、待って。

 長い沈黙の中。
 心の中で叫んだ。

 当然、伝わらない。
 しかし四人は静かに待った。

 聞きたいからだ。
 初めて、心から応援したいと思った相手の言葉を。

 スゥゥゥゥゥ、と息を吐き出す。
 長く、長く、今を引き延ばすかのように。

 顔を上げる。
 ほんの少し、空気を吸い込む。

 息を止めた。
 それを、溢れ出る想いと一緒に、

『……ぐっばい』

 たった四文字の、音に変えた。

:推し続けるよ!
:ミリオンミーコを見せてくれ!
:まぁ明日もコメントしますけどね
:駆け抜けてくれ!

 歪んだ視界に文字が映る。
 その裏側にある熱を握り締めて、彼女は配信を終えた。

 一分、二分、動かない。
 
 何もしていないわけではない。
 今この瞬間に感じた熱を魂に刻んでいる。

「……くらくらする」

 多分、風邪だ。
 横になりたい。なるべきだ。

 始めるのは、今じゃなくて良い。
 明日から頑張る。焦る必要は無い。

 ──その結果が、この十年間だ。

「やるぞぉ」

 へにょへにょした声。
 鼻をすすって目を拭う。

 休むのは、がんばった人の特権だ。
 自分はまだまだ全然がんばれてない。
 
 だから、やる。
 一秒を惜しむ。

 それに、全然つらくない。
 こんなの苦しいうちに入らない。

 お兄ちゃんも言ってた。
 体が動く間は平熱だって。

「むー」

 今の目標はコミュ強になること。誰とでも上手に会話できるようになること。配信を見てくれた人みんなが楽しい気持ちになれるようなトーク力を身に付けること。

「トークデッキ?」

 上手な人の配信を見る。
 その技術を魂に刻みながら、いっぱいメモを作る。

「むー」

 難しい。
 学ぶ程、遠い。

 あと足が痛い。
 椅子に座るポジションが落ち着かない。

 体も、なんか、めっちゃ熱い。
 毎日これなら暖房なんていらない。お得だ。

「この話、他の配信でも……」

 ぶつぶつと呟きながら続ける。
 
「……お茶、もう無い」

 補充するため席を立つ。

「おっとっと……」

 ふらふらする。
 転びそうになった。
 
 立ち直る。
 てくてく歩いた。

 途中、兄のことが頭に浮かぶ。
 お茶を取ってと甘えたくなった。

 ふと思った。
 同時に声が出た。

「……お兄ちゃんも、こうだったのかな」

 何度も思ったことがある。
 どうして、お兄ちゃんばかり成功するのだろう。

 同じ家に生まれた。
 兄妹なのに、全然違う。

 きっと、がんばったのだ。
 レベル9999になるまで。

 ずっと。一人で。

 とんでもないことだ。
 お兄ちゃん付きでも大変なのに……。

 やっぱり、すごい。
 体が動く間は平熱とか言う人は一味違う。

 そうだよ。体調を崩した日もあったはずだ。
 そんな時……今の私みたいに、ふらふら歩いたのかな。

「……あれ」

 なんか涙が出た。
 今世紀最大の謎だ。

「たらららったらーん」

 レベルが上がったみたいな音。
 次なるミーコを祝福するファンファーレ。

「コミュ強に、なるぞー!」

 誓いの言葉を口にして。
 ミーコは、今宵もレベル上げに勤しんだ。
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