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第29話 RTAチャレンジ 3
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:なんか枠たってる
:何の枠?
:え、これ今日もやんの?
深夜3時。
今宵も始まるミーコの配信。
現在、待機室にぽつりぽつりとコメントが投稿されている。
:12時間配信した日に3回行動だと???
:流石に寝てくれ……
:ミーコ複数人説
:この生活が五日間続くってコト?
視聴者達はざわざわしていた。
理由はミーコの行動を仕事に置き換えれば分かる。
彼女は午前8時から12時間の業務を行った後、一時間程度のプレゼンを行った。普通に考えれば、今日はゆっくり休み、明日に備えるような働き方である。
しかし、プレゼンから五時間。
何事も無かったように業務を再開。
この生活が最大で一週間続く。仮に所定労働時間を8時間とした場合、僅か一週間で30時間の残業を行う計算になる。ミーコの配信には週休という概念が存在しないため、残業時間として考えれば月に200時間を上回る。
多くの視聴者達はざわつき、ごく一部は親近感を覚えていた。
やがて画面が切り替わり、にこにこ笑顔の猫耳少女が現れる。
『おはよぉ……ふぁぁ』
:かわいい
:寝起きかな?
『起きれたぁ……』
:何時間寝たの?
『……三時間くらい?』
:えぇぇ……
:体壊すでほんま
彼女は眠そうに目を擦る。
その動きはアバターに反映されず、目を閉じたり開いたりする動きとなった。
:ウインクたすかる
:眠そうw
すぅ、と息を吸い込む音。
ミーコは自他共に眠気を吹き飛ばすような声で言う。
『反省会~!
はっじまるよぉ~!』
:いぇぇぁぁ!!
:ふぅぅぅ!!!!
過去の配信――がんばれ……って、言って欲しい……を知る者達は、ミーコの想いに応えてコメント欄を盛り上げた。
:反省会って何するの!?
『ふむ、良い質問じゃな』
精一杯の理事長ボイス(低音)。
『諸君はPDCAサイクルをご存知かね』
:プラン!(計画)
:ディレイ!(遅延)
:キャンセル!(中止)
:アポロージーズ!(謝罪)
『えぇぇ……?』
:困惑してて草
:なんだこの謎の一体感
普通の人々が寝静まった時間。普通じゃない者達……あるいは普通になれなかった者達の愉快なやりとり。それは、まるで初見組に「楽しみ方」を示しているかのようだった。
ミーコという、まだまだマイナーな存在と戯れるコメントを見て、また一人、その会話に参加する者が増える。
今後もっと視聴者が増えた場合、このような会話は難しくなることだろう。しかし今は、偶然にも、マイナーであることの利点が活きている。
ミーコ学園の生徒数は激増した。
しかし、その多くは「話題になった」ことが理由で入学した者達であり、真夜中の配信に現れるようなことは滅多に無い。
真夜中の配信。
その効果は、生徒数の下一桁が動く程度。
数字だけを見ればコスパ最悪。
でもそれは、決して小さな数字ではない。
* 二日目 *
『RTAチャレンジ2日目!
始まるよ~!』
午前8時。
ミーコは今日も元気に配信を開始した。
『よ~!』
一人やまびこ。
:テンションたっかw
:アーカイブ見てたら深夜に追加行動してて草
『む~? これ、どうやるのかな?』
早速、二日目の挑戦が始まった。
今回挑むゲームは『岩親父』。半裸のおっさんが様々な障害物を避けながら大きな岩を転がすだけの内容である。
『なるほど!』
ミーコは今回も初見プレイ。
手探りで操作方法を学び、五分かけて岩を転がす方法を覚えた。
『ほぇ~、障害物を避けるゲームかぁ』
このゲームは非常にシンプルである。
しかし、シンプルだからこそ難しい。
『みゃあぁぁぁぁあ! 待ってぇぇぇぇ!!』
常に坂道を上る必要があり、少しでも操作を誤れば、岩が落下する。目標タイムが「2時間」ということからも分かるように、このゲームは非常に長い。
2時間弱、集中力を維持する必要がある。
たった一度のミスで数十分から数時間分の進捗が失われる仕様となっており、落下がプレイヤーに与える精神的な苦痛は、すごく、でかい。
『止まってぇぇぇぇぇ!!!』
叫びながら岩を追いかける。
しかし、岩は無常にも全ての障害物を避け、スタート地点まで戻った。
『……どう、して』
午前11時。
ミーコ、二度目の全ロス。
数時間の努力が水の泡。
またスタートからやり直し。
:wwww
:かわいそうwww
:がんばれ~
:流石に今回は無理か?
現在の視聴者数、二百人ちょっと。
数万人を集める有名配信者と比較すれば端数みたいな数字だが、前日と比較すれば二倍になっている。そんな二百人は、ミーコの悲鳴を聞いて愉悦に浸っていた。
:草
:悲鳴たすかる
:かわいい
『むにゅぅぅぅぅぅぅぅ!!』
ミーコはヒトの言葉を失った。
『ぬぁぅ!』
プレイ再開。
『ぬぅ、ぬぉぅあ!? ぬぉぉっ、ぬぅ……』
:ミーコ……
:鳴き声かわいい
こんな調子でプレイを続ける。
そのまま時が流れ、午後四時。
『やったぁ! やったよ皆ぁ! やったぁ!』
ミーコ、1回目の完走。
開始から8時間という激闘であった。
:おめでと~!
祝福の声。
それをたっぷり浴びた後、ミーコは息を吸って言う。
『あと四時間で六時間削らなきゃ……』
:(;゚Д゚)?
:( ゚Д゚)?
:草
ミーコは目をグルグルさせながら挑戦を再開した。
『たのしぃ~』
:あっ
:壊れちゃった……
:かわいい
そして本番。「ミーコ♡ 悲鳴ちょうだい♡」という団扇を装備した真希による実況という名の妨害を受けながらも、ミーコは2時間という目標に対して1時間59分という劇的なクリアタイムを記録したのだった。
:何の枠?
:え、これ今日もやんの?
深夜3時。
今宵も始まるミーコの配信。
現在、待機室にぽつりぽつりとコメントが投稿されている。
:12時間配信した日に3回行動だと???
:流石に寝てくれ……
:ミーコ複数人説
:この生活が五日間続くってコト?
視聴者達はざわざわしていた。
理由はミーコの行動を仕事に置き換えれば分かる。
彼女は午前8時から12時間の業務を行った後、一時間程度のプレゼンを行った。普通に考えれば、今日はゆっくり休み、明日に備えるような働き方である。
しかし、プレゼンから五時間。
何事も無かったように業務を再開。
この生活が最大で一週間続く。仮に所定労働時間を8時間とした場合、僅か一週間で30時間の残業を行う計算になる。ミーコの配信には週休という概念が存在しないため、残業時間として考えれば月に200時間を上回る。
多くの視聴者達はざわつき、ごく一部は親近感を覚えていた。
やがて画面が切り替わり、にこにこ笑顔の猫耳少女が現れる。
『おはよぉ……ふぁぁ』
:かわいい
:寝起きかな?
『起きれたぁ……』
:何時間寝たの?
『……三時間くらい?』
:えぇぇ……
:体壊すでほんま
彼女は眠そうに目を擦る。
その動きはアバターに反映されず、目を閉じたり開いたりする動きとなった。
:ウインクたすかる
:眠そうw
すぅ、と息を吸い込む音。
ミーコは自他共に眠気を吹き飛ばすような声で言う。
『反省会~!
はっじまるよぉ~!』
:いぇぇぁぁ!!
:ふぅぅぅ!!!!
過去の配信――がんばれ……って、言って欲しい……を知る者達は、ミーコの想いに応えてコメント欄を盛り上げた。
:反省会って何するの!?
『ふむ、良い質問じゃな』
精一杯の理事長ボイス(低音)。
『諸君はPDCAサイクルをご存知かね』
:プラン!(計画)
:ディレイ!(遅延)
:キャンセル!(中止)
:アポロージーズ!(謝罪)
『えぇぇ……?』
:困惑してて草
:なんだこの謎の一体感
普通の人々が寝静まった時間。普通じゃない者達……あるいは普通になれなかった者達の愉快なやりとり。それは、まるで初見組に「楽しみ方」を示しているかのようだった。
ミーコという、まだまだマイナーな存在と戯れるコメントを見て、また一人、その会話に参加する者が増える。
今後もっと視聴者が増えた場合、このような会話は難しくなることだろう。しかし今は、偶然にも、マイナーであることの利点が活きている。
ミーコ学園の生徒数は激増した。
しかし、その多くは「話題になった」ことが理由で入学した者達であり、真夜中の配信に現れるようなことは滅多に無い。
真夜中の配信。
その効果は、生徒数の下一桁が動く程度。
数字だけを見ればコスパ最悪。
でもそれは、決して小さな数字ではない。
* 二日目 *
『RTAチャレンジ2日目!
始まるよ~!』
午前8時。
ミーコは今日も元気に配信を開始した。
『よ~!』
一人やまびこ。
:テンションたっかw
:アーカイブ見てたら深夜に追加行動してて草
『む~? これ、どうやるのかな?』
早速、二日目の挑戦が始まった。
今回挑むゲームは『岩親父』。半裸のおっさんが様々な障害物を避けながら大きな岩を転がすだけの内容である。
『なるほど!』
ミーコは今回も初見プレイ。
手探りで操作方法を学び、五分かけて岩を転がす方法を覚えた。
『ほぇ~、障害物を避けるゲームかぁ』
このゲームは非常にシンプルである。
しかし、シンプルだからこそ難しい。
『みゃあぁぁぁぁあ! 待ってぇぇぇぇ!!』
常に坂道を上る必要があり、少しでも操作を誤れば、岩が落下する。目標タイムが「2時間」ということからも分かるように、このゲームは非常に長い。
2時間弱、集中力を維持する必要がある。
たった一度のミスで数十分から数時間分の進捗が失われる仕様となっており、落下がプレイヤーに与える精神的な苦痛は、すごく、でかい。
『止まってぇぇぇぇぇ!!!』
叫びながら岩を追いかける。
しかし、岩は無常にも全ての障害物を避け、スタート地点まで戻った。
『……どう、して』
午前11時。
ミーコ、二度目の全ロス。
数時間の努力が水の泡。
またスタートからやり直し。
:wwww
:かわいそうwww
:がんばれ~
:流石に今回は無理か?
現在の視聴者数、二百人ちょっと。
数万人を集める有名配信者と比較すれば端数みたいな数字だが、前日と比較すれば二倍になっている。そんな二百人は、ミーコの悲鳴を聞いて愉悦に浸っていた。
:草
:悲鳴たすかる
:かわいい
『むにゅぅぅぅぅぅぅぅ!!』
ミーコはヒトの言葉を失った。
『ぬぁぅ!』
プレイ再開。
『ぬぅ、ぬぉぅあ!? ぬぉぉっ、ぬぅ……』
:ミーコ……
:鳴き声かわいい
こんな調子でプレイを続ける。
そのまま時が流れ、午後四時。
『やったぁ! やったよ皆ぁ! やったぁ!』
ミーコ、1回目の完走。
開始から8時間という激闘であった。
:おめでと~!
祝福の声。
それをたっぷり浴びた後、ミーコは息を吸って言う。
『あと四時間で六時間削らなきゃ……』
:(;゚Д゚)?
:( ゚Д゚)?
:草
ミーコは目をグルグルさせながら挑戦を再開した。
『たのしぃ~』
:あっ
:壊れちゃった……
:かわいい
そして本番。「ミーコ♡ 悲鳴ちょうだい♡」という団扇を装備した真希による実況という名の妨害を受けながらも、ミーコは2時間という目標に対して1時間59分という劇的なクリアタイムを記録したのだった。
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