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間章 春前
SS:ゆいとみさきと将来の夢
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ぽんぽこ保育園では、今日もたくさんの園児が楽しく騒いでいる。
昨今、幼児施設からの騒音にクレームを入れる心に余裕の無い都会人が話題になったが、そんなもの都会から外れた場所にあるぽんぽこ保育園には関係ない。
「まったく、すこしはしずかにできないのかしらっ」
文句を言うのは、彼女くらいのものである。
彼女の名前は戸崎(とさき)ゆい。
少し短い髪を可愛らしく二つ結びにした女の子は、それを小さく揺らして頬を膨らませる。
「まったく?」
ゆいと机を挟んだ位置に座るみさきは、きょとんと首を傾けて少し長い髪を揺らした。
机の上には算数ドリル(2年生)とノートが並べられていて、二人は今日も仲良く勉強している。
まったく、みさきは掛け算も出来ないのね、と得意気な顔をするゆいが、割り算を覚えたみさきにライバル心を燃やすのはまだ少し先の話。
まずは9×9を覚えるのよ、と元気に言うゆいの顔をじーっと見るみさき。
「なに?」
じーっとゆいの顔を見るみさき。
「なにかついてる?」
「ゆいちゃん、しょうらいのゆめ、なに?」
無垢な瞳で問われたゆいは、まぁと目を輝かせる。
むふんと鼻を鳴らして立ち上がると、えっへんと腰に手を当てて言った。
「ぐもんね!」
「ぐみ?」
「そーそー、しょうらいはグミみたいなおいしいレディーに……なりません! ぐもん!」
言葉の意味を聞いたつもりだったみさきは、思わぬノリツッコミに眉をしかめる。
「まったく、いちにんまえのレディーをめざしてるっていってるでしょ!」
「めざす?」
理解できるキーワードから意味を類推しようとするみさき。
「そう! そのために、ならいごとだってしてるんだからっ」
「ならいごと?」
「レディーのたしなみ!」
機敏な動きで椅子に座り、タタタンと指で机の上を撫でる。
「ピアノ! おんがくはレディーのたしなみ!」
「ぴあの?」
「うん! あ、そうだ! みさきにきかせてあげる!」
確かお昼寝するところに置いてあったはずだ。
立ち上がったゆいは、きょろきょろと首を振って保育士を探す。
「……せんせー、せんせー、ママじゃなくて、せんせい……」
すー、はー。
「ママ! ピアノつかってもいいですかっ、はっ、れんしゅうしたのに!?」
子供らしく元気に騒ぐゆいを見て、子供らしからぬみさきはパチパチと瞬きをした。
果たして、困り笑顔を浮かべた保育士が監督する中で、ゆいによるミニコンサートが始まる。
椅子に座り、ペダルに届かない足を揺らしながら、ゆいは得意気な笑みを浮かべた。
「……きょくもくは、エリーゼをふんじゃった」
混ざってるよ! と心の中で思いながら、保育士は拍手をする。
何が始まるのだろうとドキドキするみさきの前で、ゆいは第一音を鳴らした。
彼女が弾き始めたのは、エリーゼのために。
小さな手を一生懸命に動かした見事な演奏に、みさきはもちろん保育士も息を飲んだ。ペダルを使えず指も届かないせいで、少し音が飛んでいるように聞こえるが、とても5歳とは思えないような演奏だった。
エリーゼは、静かなアルペジオに何処か寂しい響きのある音を乗せて奏でる曲だ。しかし、あるところで曲調が一転する。弾むようなリズムと共に、次々と音が奏でられるのだ。それを見事に演奏したゆいを見て、思わず保育士の口が開いた。
果たして見事に弾き切ったゆい。
惜しみない拍手を送る保育士につられて、みさきもパチパチと手を叩いた。
ゆいは満足した表情で椅子から降りて、えっへんと鼻を鳴らす。
「レディーのたしなみ!」
その姿が、みさきにはとてもキラキラして見えた。
昨今、幼児施設からの騒音にクレームを入れる心に余裕の無い都会人が話題になったが、そんなもの都会から外れた場所にあるぽんぽこ保育園には関係ない。
「まったく、すこしはしずかにできないのかしらっ」
文句を言うのは、彼女くらいのものである。
彼女の名前は戸崎(とさき)ゆい。
少し短い髪を可愛らしく二つ結びにした女の子は、それを小さく揺らして頬を膨らませる。
「まったく?」
ゆいと机を挟んだ位置に座るみさきは、きょとんと首を傾けて少し長い髪を揺らした。
机の上には算数ドリル(2年生)とノートが並べられていて、二人は今日も仲良く勉強している。
まったく、みさきは掛け算も出来ないのね、と得意気な顔をするゆいが、割り算を覚えたみさきにライバル心を燃やすのはまだ少し先の話。
まずは9×9を覚えるのよ、と元気に言うゆいの顔をじーっと見るみさき。
「なに?」
じーっとゆいの顔を見るみさき。
「なにかついてる?」
「ゆいちゃん、しょうらいのゆめ、なに?」
無垢な瞳で問われたゆいは、まぁと目を輝かせる。
むふんと鼻を鳴らして立ち上がると、えっへんと腰に手を当てて言った。
「ぐもんね!」
「ぐみ?」
「そーそー、しょうらいはグミみたいなおいしいレディーに……なりません! ぐもん!」
言葉の意味を聞いたつもりだったみさきは、思わぬノリツッコミに眉をしかめる。
「まったく、いちにんまえのレディーをめざしてるっていってるでしょ!」
「めざす?」
理解できるキーワードから意味を類推しようとするみさき。
「そう! そのために、ならいごとだってしてるんだからっ」
「ならいごと?」
「レディーのたしなみ!」
機敏な動きで椅子に座り、タタタンと指で机の上を撫でる。
「ピアノ! おんがくはレディーのたしなみ!」
「ぴあの?」
「うん! あ、そうだ! みさきにきかせてあげる!」
確かお昼寝するところに置いてあったはずだ。
立ち上がったゆいは、きょろきょろと首を振って保育士を探す。
「……せんせー、せんせー、ママじゃなくて、せんせい……」
すー、はー。
「ママ! ピアノつかってもいいですかっ、はっ、れんしゅうしたのに!?」
子供らしく元気に騒ぐゆいを見て、子供らしからぬみさきはパチパチと瞬きをした。
果たして、困り笑顔を浮かべた保育士が監督する中で、ゆいによるミニコンサートが始まる。
椅子に座り、ペダルに届かない足を揺らしながら、ゆいは得意気な笑みを浮かべた。
「……きょくもくは、エリーゼをふんじゃった」
混ざってるよ! と心の中で思いながら、保育士は拍手をする。
何が始まるのだろうとドキドキするみさきの前で、ゆいは第一音を鳴らした。
彼女が弾き始めたのは、エリーゼのために。
小さな手を一生懸命に動かした見事な演奏に、みさきはもちろん保育士も息を飲んだ。ペダルを使えず指も届かないせいで、少し音が飛んでいるように聞こえるが、とても5歳とは思えないような演奏だった。
エリーゼは、静かなアルペジオに何処か寂しい響きのある音を乗せて奏でる曲だ。しかし、あるところで曲調が一転する。弾むようなリズムと共に、次々と音が奏でられるのだ。それを見事に演奏したゆいを見て、思わず保育士の口が開いた。
果たして見事に弾き切ったゆい。
惜しみない拍手を送る保育士につられて、みさきもパチパチと手を叩いた。
ゆいは満足した表情で椅子から降りて、えっへんと鼻を鳴らす。
「レディーのたしなみ!」
その姿が、みさきにはとてもキラキラして見えた。
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