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第二章 仕事と子育て
またまたまた父母の会に参加した日
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次の週の土曜日。再び開かれた父母の会。
少し話したい事があって、俺は先週と同じように入り口の前で戸崎結衣を待っていた。
前回と同じく、予定された時刻まで残り五分となったところで駐車場の出入り口前に一台のタクシーが止まった。そこから現れた戸崎結衣は、俺の姿を見るとあからさまに嫌そうな表情をして、俺の横を通り抜ける軌道で歩き始めた。俺は戸崎結衣の進路に立って、元気よく挨拶する。
「よっ、一週間振りだな!」
彼女は足を止めて、溜息まじりに言った。
「……何してるんですか? 貴方のことは呼んでませんよ」
呼ばれてなかったのかよ。
「あと話しかけるなって言いましたよね? もう覚えていないんですか?」
……相変わらずきっついな、別に気にしねぇけど。
とりあえず、やる事はひとつだ。
「悪かった」
「は?」
「保育園の前で話をした時、何か気に障ることを言っちまったんだと思う。それが何か教えてくれとは言わない。ただ、謝らせてくれ」
軽く、頭を下げた。
これは兄貴の店で学んだことだ。頭のおかしいヤツですら理由無く怒ったりはしない。それがまともな人間であれば尚更だ。だから、こいつが怒っているのには理由があるのだろう。
俺にはそれが分からない。だけど、分からないことと考えない事は違う。
果たして、彼女は――
「は?」
はい、二度目の「は?」いただきました。
いいだろう、そっちがその気ならこっちにも考えがある。
「……そうか。いや、いいさ。直ぐに許してくれなんて都合のいいことは言わない」
「ほんとですよ。ちょっと正気を疑う発言でしたね、今のは」
……そこまで言うか?
「あーやだやだ、本当に無駄な時間でした不愉快です。まったく、ほんとに、ほんとにまった――く、くぅぅぅ……誰ですか!? こんなところに柱なんて置いたの! 文句言ってやりますっ、市役所ですか? 市役所に行けばいいんですか!?」
……なんだ、この……なにしてんだこいつ。
勝手に柱に頭をぶつけて、額を抑えてブーブー怒ってやがる。
「うるさい! こっち見ないでください!」
「何も言ってねぇよ……」
ほんと面白いなこの人。てか、あの会議を見せられた後でこんなガキみたいな姿を見せられて、俺はいったいどうりゃいいんだ?
「……大丈夫か?」
「大丈夫ですっ、もう行くのでっ、あと貴方のことは呼んでないので!」
ドシドシ地面に八つ当たりをしながら、彼女は会議室に向かった。
やれやれと溜息を吐いて、後に続く。
「呼んでないって言ってるじゃないですか!」
「いやいや、俺もみさきの為にだな……」
「いいです私がやります」
「待て待て、みさきも楽しみにしてるんだよ。りょーくん人形劇やるよって話しちゃったんだよ」
「自業自得ですね。いいからついてこないでください」
「いやだ、意地でも会議に参加する」
「子供ですかっ」
おまえが言うな。
「まぁいいです。どうせ今日も何ひとつ喋らせませんからっ」
と言って、取っ手を引き千切るくらいの勢いでドアを開けた。
「戸崎さん!」
「ゆいぽんっ!」
その瞬間、部屋の中に居た女性二人が彼女に飛び付く。
「お、おはようございます。どうしましたか?」
そう、これが俺の考えだ。
ふははは覚悟しろ戸崎結衣。あることないこと吹き込ませてもらったぜ。こいつらマジでしつこいからな、せいぜいウンザリするがいいさ!
「戸崎さんっ、話は聞きました……大変でじだねええぇぇぇ!」
「え、はい。大変でした」
ピアスの人が彼女の両手を掴んでブンブン上下に振り回す。流石のあいつも、この突然の出来事には面食らっているようだ。
間髪入れず、横からノンピアスの人も声をかける。
「ゆいぽんっ!」
「ゆ、ゆいぽん?」
「ゆいぽんっ!」
「はい、ゆいぽんです」
「ゆいぽんんんん!」
「黒川さん、いったいどういたんですか? 風見さんも、いったん落ち着いてください」
ぎゃははは、戸惑ってる戸惑ってる。
「……はい、そうですね……いろいろ、いろいろなことがありました」
戸惑って……あれ?
「でも……大丈夫です」
「……戸崎さん」
「……ゆいぽんっ」
え、あれ、落ち着いてる? そんな簡単に?
「では、会議を始めましょう」
「「はいぃ!」」
……うそ、だろ。
すたすたと、戸崎結衣はホワイトボードの前まで歩く。
そしてペンを持って振り向くと、俺の方を見た。
その得意気な目を見て、俺は急に冷静になる。
……なんかこれ、ガキどうしのケンカみたいだな。
座ろう。
とぼとぼ歩いていつもの席に座ると、今日も今日とて存在感の……いや、今日も活力に満ちた顔をしたてっちゃんが、軽く会釈をした。
少し戸惑いながら会釈を返して、てっちゃんから目を逸らす。
その先では、涙を堪えて歯を食いしばる二人の姿があった。
「今日の議題は――」
そして、戸崎結衣は先週と同じように話を始めた。
俺は気持ちを切り替えて、今日こそは何か意見してやると集中する。
次の瞬間。
「――こぉぉんにちはぁ~」
気持ち悪いほど機嫌の良い挨拶と共に現れたのは、佐藤だった。
「みなさんに、いいお知らせを持ってきましたわよぉ~」
嫌な予感しかしない。きっと全員がそう思った。
果たして、佐藤は悪い期待を裏切らない。
「当日、なんと五十人の子供達が人形劇を見に来ることになりましたぁ~。いろんな人に声をかけましたの。保護者の方々は参加しない事になっておりますけれど、戸崎さんなら大丈夫ですよね? 当日わたくし暇ではないので、大っ変心苦しいですが参加できません……では、あとは任せましたよ。よろしくおねがいしま~す」
言いたい事だけ早口に言って、佐藤は部屋から出ていった。
沈黙。俺は開けっ放しにされたドアを見ながら、努めて冷静に考える。
たしか、ぽんぽこ保育園に通っている園児は全部で三十人くらいだったはずだ。となると、外からも人を呼んでいるってことになる。そんな遠い所からガキが一人でテクテク歩いてくるってのは考えにくい。保護者は参加しないとかどうとか言ってたが、どう考えても子供だけってのはありえない。
つまり、人が増えるだけだ。
なんだ盛り上がっていいじゃねぇか。佐藤のくせに良い仕事しやがるぜ。
「言い忘れてましたぁン! 子供達はバスで来ますのでぇ~、その辺りは私がやっておきますわ。その後の事は任せましたよ~? ではでは~」
ぬるっと再登場して、即座に去って行った。
……なんだ今の動き妖怪かよ。
えっと、つまりどういうことだ?
マジでガキだけが五十人集まって、保護者はいなくて、つまりガキを大人しくさせるのは俺達の仕事で……は? ただでさえ大人しく見てられないガキが五十人? 無茶苦茶だろ。
「ほんっと、あのおばさん余計なことしかしませんね……」
ぼそりと、ノンピアスの人が呟いた。
「……戸崎さん、どうします?」
ピアスの人が助けを求めるような目で問いかけた。
その視線を受けて、戸崎結衣は、
「保育士の方々に協力してもらいましょう。私から連絡しておきます」
と、笑顔で言った。
「いや待て、保育士って何人いるんだ? 流石に五十人の子供を数人でまとめるのは無理があるだろ」
「なら受付係さんも手伝ったらいいんじゃないですか?」
何も間違ってねぇけど、もうちょっと優しく言ってくれてもいいんじゃねぇかな?
「……分かった」
「はい。人手が足りなそうなら、その時にまた考えましょう。では、会議を再開します」
まるで佐藤の登場など無かったかのように振る舞う戸崎結衣。その姿を見て、もとより彼女に好意を持っていた二人は、よりいっそ熱い眼差しを送っていた。
俺は、相変わらず惚れ惚れするような手際の良さで会議を進める戸崎結衣を見て、ちょっとした違和感を覚えた。
だけど、それが何かは分からなかった。
少し話したい事があって、俺は先週と同じように入り口の前で戸崎結衣を待っていた。
前回と同じく、予定された時刻まで残り五分となったところで駐車場の出入り口前に一台のタクシーが止まった。そこから現れた戸崎結衣は、俺の姿を見るとあからさまに嫌そうな表情をして、俺の横を通り抜ける軌道で歩き始めた。俺は戸崎結衣の進路に立って、元気よく挨拶する。
「よっ、一週間振りだな!」
彼女は足を止めて、溜息まじりに言った。
「……何してるんですか? 貴方のことは呼んでませんよ」
呼ばれてなかったのかよ。
「あと話しかけるなって言いましたよね? もう覚えていないんですか?」
……相変わらずきっついな、別に気にしねぇけど。
とりあえず、やる事はひとつだ。
「悪かった」
「は?」
「保育園の前で話をした時、何か気に障ることを言っちまったんだと思う。それが何か教えてくれとは言わない。ただ、謝らせてくれ」
軽く、頭を下げた。
これは兄貴の店で学んだことだ。頭のおかしいヤツですら理由無く怒ったりはしない。それがまともな人間であれば尚更だ。だから、こいつが怒っているのには理由があるのだろう。
俺にはそれが分からない。だけど、分からないことと考えない事は違う。
果たして、彼女は――
「は?」
はい、二度目の「は?」いただきました。
いいだろう、そっちがその気ならこっちにも考えがある。
「……そうか。いや、いいさ。直ぐに許してくれなんて都合のいいことは言わない」
「ほんとですよ。ちょっと正気を疑う発言でしたね、今のは」
……そこまで言うか?
「あーやだやだ、本当に無駄な時間でした不愉快です。まったく、ほんとに、ほんとにまった――く、くぅぅぅ……誰ですか!? こんなところに柱なんて置いたの! 文句言ってやりますっ、市役所ですか? 市役所に行けばいいんですか!?」
……なんだ、この……なにしてんだこいつ。
勝手に柱に頭をぶつけて、額を抑えてブーブー怒ってやがる。
「うるさい! こっち見ないでください!」
「何も言ってねぇよ……」
ほんと面白いなこの人。てか、あの会議を見せられた後でこんなガキみたいな姿を見せられて、俺はいったいどうりゃいいんだ?
「……大丈夫か?」
「大丈夫ですっ、もう行くのでっ、あと貴方のことは呼んでないので!」
ドシドシ地面に八つ当たりをしながら、彼女は会議室に向かった。
やれやれと溜息を吐いて、後に続く。
「呼んでないって言ってるじゃないですか!」
「いやいや、俺もみさきの為にだな……」
「いいです私がやります」
「待て待て、みさきも楽しみにしてるんだよ。りょーくん人形劇やるよって話しちゃったんだよ」
「自業自得ですね。いいからついてこないでください」
「いやだ、意地でも会議に参加する」
「子供ですかっ」
おまえが言うな。
「まぁいいです。どうせ今日も何ひとつ喋らせませんからっ」
と言って、取っ手を引き千切るくらいの勢いでドアを開けた。
「戸崎さん!」
「ゆいぽんっ!」
その瞬間、部屋の中に居た女性二人が彼女に飛び付く。
「お、おはようございます。どうしましたか?」
そう、これが俺の考えだ。
ふははは覚悟しろ戸崎結衣。あることないこと吹き込ませてもらったぜ。こいつらマジでしつこいからな、せいぜいウンザリするがいいさ!
「戸崎さんっ、話は聞きました……大変でじだねええぇぇぇ!」
「え、はい。大変でした」
ピアスの人が彼女の両手を掴んでブンブン上下に振り回す。流石のあいつも、この突然の出来事には面食らっているようだ。
間髪入れず、横からノンピアスの人も声をかける。
「ゆいぽんっ!」
「ゆ、ゆいぽん?」
「ゆいぽんっ!」
「はい、ゆいぽんです」
「ゆいぽんんんん!」
「黒川さん、いったいどういたんですか? 風見さんも、いったん落ち着いてください」
ぎゃははは、戸惑ってる戸惑ってる。
「……はい、そうですね……いろいろ、いろいろなことがありました」
戸惑って……あれ?
「でも……大丈夫です」
「……戸崎さん」
「……ゆいぽんっ」
え、あれ、落ち着いてる? そんな簡単に?
「では、会議を始めましょう」
「「はいぃ!」」
……うそ、だろ。
すたすたと、戸崎結衣はホワイトボードの前まで歩く。
そしてペンを持って振り向くと、俺の方を見た。
その得意気な目を見て、俺は急に冷静になる。
……なんかこれ、ガキどうしのケンカみたいだな。
座ろう。
とぼとぼ歩いていつもの席に座ると、今日も今日とて存在感の……いや、今日も活力に満ちた顔をしたてっちゃんが、軽く会釈をした。
少し戸惑いながら会釈を返して、てっちゃんから目を逸らす。
その先では、涙を堪えて歯を食いしばる二人の姿があった。
「今日の議題は――」
そして、戸崎結衣は先週と同じように話を始めた。
俺は気持ちを切り替えて、今日こそは何か意見してやると集中する。
次の瞬間。
「――こぉぉんにちはぁ~」
気持ち悪いほど機嫌の良い挨拶と共に現れたのは、佐藤だった。
「みなさんに、いいお知らせを持ってきましたわよぉ~」
嫌な予感しかしない。きっと全員がそう思った。
果たして、佐藤は悪い期待を裏切らない。
「当日、なんと五十人の子供達が人形劇を見に来ることになりましたぁ~。いろんな人に声をかけましたの。保護者の方々は参加しない事になっておりますけれど、戸崎さんなら大丈夫ですよね? 当日わたくし暇ではないので、大っ変心苦しいですが参加できません……では、あとは任せましたよ。よろしくおねがいしま~す」
言いたい事だけ早口に言って、佐藤は部屋から出ていった。
沈黙。俺は開けっ放しにされたドアを見ながら、努めて冷静に考える。
たしか、ぽんぽこ保育園に通っている園児は全部で三十人くらいだったはずだ。となると、外からも人を呼んでいるってことになる。そんな遠い所からガキが一人でテクテク歩いてくるってのは考えにくい。保護者は参加しないとかどうとか言ってたが、どう考えても子供だけってのはありえない。
つまり、人が増えるだけだ。
なんだ盛り上がっていいじゃねぇか。佐藤のくせに良い仕事しやがるぜ。
「言い忘れてましたぁン! 子供達はバスで来ますのでぇ~、その辺りは私がやっておきますわ。その後の事は任せましたよ~? ではでは~」
ぬるっと再登場して、即座に去って行った。
……なんだ今の動き妖怪かよ。
えっと、つまりどういうことだ?
マジでガキだけが五十人集まって、保護者はいなくて、つまりガキを大人しくさせるのは俺達の仕事で……は? ただでさえ大人しく見てられないガキが五十人? 無茶苦茶だろ。
「ほんっと、あのおばさん余計なことしかしませんね……」
ぼそりと、ノンピアスの人が呟いた。
「……戸崎さん、どうします?」
ピアスの人が助けを求めるような目で問いかけた。
その視線を受けて、戸崎結衣は、
「保育士の方々に協力してもらいましょう。私から連絡しておきます」
と、笑顔で言った。
「いや待て、保育士って何人いるんだ? 流石に五十人の子供を数人でまとめるのは無理があるだろ」
「なら受付係さんも手伝ったらいいんじゃないですか?」
何も間違ってねぇけど、もうちょっと優しく言ってくれてもいいんじゃねぇかな?
「……分かった」
「はい。人手が足りなそうなら、その時にまた考えましょう。では、会議を再開します」
まるで佐藤の登場など無かったかのように振る舞う戸崎結衣。その姿を見て、もとより彼女に好意を持っていた二人は、よりいっそ熱い眼差しを送っていた。
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