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マジシャン
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「ほいじゃまずはケーキ屋やな」
立ち上がった獅堂さんに俺も立ち上がる。
「あの! 俺も行っていいですか?」
「あかん。歴とした捜査やからな」
お兄ちゃんが珍しく俺に甘くない。
「そうですよ。公務の邪魔をしてはいけません」
「兄さん……」
「ですが良ちゃんに異変が起きているのも事実です。今日はこのまま休診にしてゆっくりしましょう。おいしいケーキを買ってあげますからいい子にしていて下さい」
「それって」
「一緒に買いに行きましょう。支度をしてくるので待っていて下さい。あの従姉さんなら、開業前でも良ちゃんにピッタリのスイーツを用意してくれるでしょう」
お兄ちゃんが寝室に入ると、獅堂さんはソファに座り直して両手を頭の後ろで組んだ。
「あんまいのう」
富士さんは困ってる。
「いいのか?」
「しゃあないやん。俺らの聞き込み先にたまたま2人がいただけってことにしとこうや。
マジシャンはあれでいて結構強いからそうそうマズイことにはならんやろ」
そういえば獅堂さんって。
「獅堂さんはどうして兄さんのことを『マジシャン』って呼ぶんですか?」
「愛しの良ちゃんより先に名前で呼ぶんはなあと思って。かといって『野島さん』って呼ぶんも淋しいから、俺なりの親しみを込めた呼び方や」
「俺は『お兄ちゃん』って呼んでほしいって言われてますよ?」
「でも兄弟じゃせんことしてんねやろ?」
「そ、それはっ」
「獅子吠さま、そういった事情に踏み込むのは控えられた方が」
波路くんは獅堂さんの耳元でそう言ってから、俺にに~っこりとした表情で頷いた。
むしろ波路くんの方が酷く誤解しているようでかえって恥ずかしい。
「何も! まだ何もしてません!」
「『まだ』ってことはいずれはするつもりなんやろ?」
「獅子吠さま」
たしなめる声の波路くんを手の動きで止めた獅堂さんは真面目な顔。
「アイツは生まれた家で『あれ』とか『あの子』って呼ばれてきて、黒魔術の師匠は『火曜くん』って呼んでる。
だから名前で呼ばれるって先生が思ってる以上に特別なことなんや。
初めて名前で呼ぶ関係になった人はきっとアイツにとって特別になる。俺はアイツの特別を受け止めるわけにはいかんから、愛しの良ちゃんがいつか名前で呼んだってな。その後から俺も名前で呼ぶわ」
照れ隠しと本当に気になる。
「どうして『火曜くん』って呼ばれてるんですか?」
「弟子を取りたくないって人なんやて。1度に5人まで、それぞれ授業は週1日って約束で国がなんとか納得させたんや。マジシャンは火曜日の生徒。
そういう扱いやし成長した弟子もみんなマジシャンみたいに実力ばっかでどっか変な奴になってもうて、結局5人以外の弟子は取らされてない」
「お待たせしました」
部屋から出てきたお兄ちゃんはさっきと変わっていないように見える。何か道具とか財布とかを取ってきたのかな。
尾張さんとキリトが立ち上がる。
「じゃあ俺たちもこれで。何か気が付いたことがあったら連絡します」
お兄ちゃんは尾張さんに「よろしくお願いします」と言ってからキリトの肩に手を置いた。
「キリトくんが気に病むことは1つもありませんからね?」
「うん……」
キリトは無理に微笑んだ。本当に気にしなくていいのに。
「そうだよキリト。俺も久し振りに従姉の料理を食べられて嬉しかった。キリトのおかげだよ。ごちそうさま」
「うん」
まだ気にしてるな。
立ち上がった獅堂さんに俺も立ち上がる。
「あの! 俺も行っていいですか?」
「あかん。歴とした捜査やからな」
お兄ちゃんが珍しく俺に甘くない。
「そうですよ。公務の邪魔をしてはいけません」
「兄さん……」
「ですが良ちゃんに異変が起きているのも事実です。今日はこのまま休診にしてゆっくりしましょう。おいしいケーキを買ってあげますからいい子にしていて下さい」
「それって」
「一緒に買いに行きましょう。支度をしてくるので待っていて下さい。あの従姉さんなら、開業前でも良ちゃんにピッタリのスイーツを用意してくれるでしょう」
お兄ちゃんが寝室に入ると、獅堂さんはソファに座り直して両手を頭の後ろで組んだ。
「あんまいのう」
富士さんは困ってる。
「いいのか?」
「しゃあないやん。俺らの聞き込み先にたまたま2人がいただけってことにしとこうや。
マジシャンはあれでいて結構強いからそうそうマズイことにはならんやろ」
そういえば獅堂さんって。
「獅堂さんはどうして兄さんのことを『マジシャン』って呼ぶんですか?」
「愛しの良ちゃんより先に名前で呼ぶんはなあと思って。かといって『野島さん』って呼ぶんも淋しいから、俺なりの親しみを込めた呼び方や」
「俺は『お兄ちゃん』って呼んでほしいって言われてますよ?」
「でも兄弟じゃせんことしてんねやろ?」
「そ、それはっ」
「獅子吠さま、そういった事情に踏み込むのは控えられた方が」
波路くんは獅堂さんの耳元でそう言ってから、俺にに~っこりとした表情で頷いた。
むしろ波路くんの方が酷く誤解しているようでかえって恥ずかしい。
「何も! まだ何もしてません!」
「『まだ』ってことはいずれはするつもりなんやろ?」
「獅子吠さま」
たしなめる声の波路くんを手の動きで止めた獅堂さんは真面目な顔。
「アイツは生まれた家で『あれ』とか『あの子』って呼ばれてきて、黒魔術の師匠は『火曜くん』って呼んでる。
だから名前で呼ばれるって先生が思ってる以上に特別なことなんや。
初めて名前で呼ぶ関係になった人はきっとアイツにとって特別になる。俺はアイツの特別を受け止めるわけにはいかんから、愛しの良ちゃんがいつか名前で呼んだってな。その後から俺も名前で呼ぶわ」
照れ隠しと本当に気になる。
「どうして『火曜くん』って呼ばれてるんですか?」
「弟子を取りたくないって人なんやて。1度に5人まで、それぞれ授業は週1日って約束で国がなんとか納得させたんや。マジシャンは火曜日の生徒。
そういう扱いやし成長した弟子もみんなマジシャンみたいに実力ばっかでどっか変な奴になってもうて、結局5人以外の弟子は取らされてない」
「お待たせしました」
部屋から出てきたお兄ちゃんはさっきと変わっていないように見える。何か道具とか財布とかを取ってきたのかな。
尾張さんとキリトが立ち上がる。
「じゃあ俺たちもこれで。何か気が付いたことがあったら連絡します」
お兄ちゃんは尾張さんに「よろしくお願いします」と言ってからキリトの肩に手を置いた。
「キリトくんが気に病むことは1つもありませんからね?」
「うん……」
キリトは無理に微笑んだ。本当に気にしなくていいのに。
「そうだよキリト。俺も久し振りに従姉の料理を食べられて嬉しかった。キリトのおかげだよ。ごちそうさま」
「うん」
まだ気にしてるな。
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