マジカルカシマ

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決戦前夜

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 施術院へ帰る道を歩きだしてすぐに、獅堂さんが話し始めた。
「窯元までどれくらいかかる?」
 富士さんはスマホを取り出さずに答える。
「車で2時間ほどだ」
「なら明日の9時に施術院集合でどうや?」

 富士さんは困った表情。
「2人も行くということか?」
 そうだよな。俺たちも関係はあるけど捜査にどこまで踏み込んでいいんだろう。

 獅堂さんは真面目な表情で頭を掻いた。
「マジシャンの師匠は5人の弟子を取って週に1日ずつ授業をしてた。授業の順番は能力順で、マジシャンは火曜日、来海くるみは月曜日。
 戦力が欲しい。たいよーも心して掛からんとやられるで。今からこの前渡した護符の使い方のおさらいや。あと俺も射撃のな」

 国がスカウトしたお兄ちゃんよりも強い人。獅堂を名乗れる人がここまで認めている人。どんな人なんだろう。

 施術院に着くと、3人は射撃場で訓練するためそのまま車に乗って警察へ向かった。俺はお兄ちゃんと2階に上がる。
「俺にもできることある?
 せめて自分の身は自分で守りたい」

 お兄ちゃんはそんなに警戒していない。
「強さ順で曜日を決めたというのは周りが勝手に言っていることで、時間制限も場外も無い実戦に強さの順位付けなど無意味だと師匠は言っていました。
 月曜くんが月曜担当だったのは土日で散らかした家を片付けてもらうためです」
 そんな理由!?
「どうして獅堂さんたちに教えてあげなかったの?」
「月曜くんが強いことに変わりはありませんから。僕が良ちゃんを守ることに集中するため、3人が強いにこしたことはありませんし。
 それに修行時代から、実力を上げたい部外者はとりあえず金曜くんを狙い、名をあげたければ月曜くんを狙います。実力順じゃないと知れたら僕の所に来る人も出てきてしまって面倒です」
「今そういう人が来ないってことは金曜くんと月曜くんが全員倒してるってこと?」
「まあだいたい。そもそも僕は消えるのが得意なので見つけられませんよ。安心して下さい」

 お兄ちゃんが俺の左頬を右手で包んだ。
「初めて会った日、修行を始める前から僕は消えるのが得意でした。それでも良ちゃんは僕の目を見てくれましたね」
 車に轢かれるところだった俺の腕を引っ張って助けてくれたんだよな。
「咄嗟のことで消える効果が消えてたんじゃないの?」
「いいえ。それほど慌てていませんでした。
 軽蔑しますか?
 あの時少しタイミングが違えば、走らなければ助けられない距離だったなら、子供が轢かれても関係ないと思っていたんです」

 それでも助けてくれたし、その後も何気なく当たり前のように優しかった。それにさっき言ったことだってつまり、3人が危なかったら助けるってことなんだ。
 何より言いたいのは。
「俺は俺の大好きな人に、自分は軽蔑されるような人間かもしれないなんて思ってほしくないよ」
 明るい気持ちでいてほしい、毎日楽しく過ごしてほしい。そんなお兄ちゃんをずっと見ていたいって言いたいけど、そこまで言ったら押し倒されそうなんてさすがに自意識過剰か。ちゃんと伝えよう。

「ぁ」
「良ちゃん……」
 右頬も左手で包まれた。

「僕はどんどん欲張りになっています。会えない間はせめてもう一度お兄ちゃんと呼ばれたいと思っていたのに、毎日呼ばれたくなって、今は良ちゃんがあのぬいぐるみにあだ名を付けたことに妬いています。どうしたらいいですか?」
 言いながら右手がゆっくりと頬から首、胸を撫でながら下がっていく。どうしたらいいですか? ってもうどうにかする気だよね?

 Tシャツの上に羽織っていたシャツが左肩からずらされた。もう少し待ってって気持ちと、俺は童顔だけど筋肉はあるから冷めてやめられたらショックだって気持ちがグルグルする。
 その瞬間にシャツから見えた華奢な肩がフラッシュバックした。

ーーーー
 研修医時代、階段で俺の少し上をのぼる女性が貧血っぽく倒れてきたんだ。受け止めたもののジャージがずれて肩が見えてしまって、変な言いがかりをつけられそうで慌てて戻した。なんでジャージの下がキャミソールなんだ。しかも金髪に金のチェーンのスマホホルダー。内心本当にビビってた。
 女性は意外にも尖った空気ではなかった。
「マジであざっす!
 かわいい顔して意外と力持ちっすね」
 童顔なのをオブラートに包んで言ってるんだろうけど、かわいいも別にフォローになってない。

 通院している科にさっさと送ろうと思ったのに、その隙を与えてもらえなかった。
「しかも紳士! いっこだけきいても?
 りのあって名前ってキラキラだと思います?」
「外野がなんと言おうと、そこに込めた願いはご家族だけの宝物ではないでしょうか。ですが名前は人生で最初から最後まで抱えて生きる贈り物です。慎重さも大切ではありますよね」

 そこへ2歳くらいの女の子が、ナースさんと繋いでいた手をほどいて「ママー!」って走ってきたんだ。
「りのあ!」
 話題からして妊婦さんなのかと思ったらもう命名済みだったんだよな。
ーーーー

 待てよ、あの女の子。2つ並んだ泣きボクロ。
「ああ!
 俺会ってる!」
 だからどうということでもないけど、空気を変えたくて大袈裟に叫んだ。
「研修医時代に会ってるんだよ。鹿島りのあちゃんとその母親に!」
「りのあ!」

 なんでマジ子ちゃんがここに!?
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