マジカルカシマ

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山奥の家

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 来海くるみくんが説明を続ける。
「あのあと鹿島りのあと言っても噂のおまじないをしてもマジカは現れなかった。昨日のあの子は自分で帰ったっていうより引っ張られたって感じだったから、制御できなくなった黒幕が封じてるんだろうな」

 富士さんはこの揺れのなかメモをとって酔わないのかな。しかも書きながら質問もするって実はすごい能力だよな。
「その黒幕と、なぜマジ子ちゃんか自分が黒幕に狙われたかに心当たりは?」
「思い込みは柔軟な対応の妨げになるぞ。
 けどまあ、これは金曜だろうな」

 お兄ちゃんは特に反応なし。獅堂さんは意外そう。
「できるかあ?」
 俺が思ったことを富士さんも思ったみたい。
「なぜそう思う?」

 富士さんは来海くんに言ったんだろうけど獅堂さんが答えた。
「マントを用意してぬいぐるみに着せる金曜なんて想像できひんわ」
 来海くんがちゃんと説明してくれる。
「金曜は俺たちにも名前を明かしていなくて、今はトランゼロイチという名前で仕事をしている。機械いじりが得意で衣食住への関心はゼロに近い。
 純粋な能力は大したことないけど、機械と融合させるっていうのがかなり厄介だ。あの子のこともそういう装置で操ってるんだろう」
 そして意外そうに付け足した。
「そのために似合うマントと仮面を用意するなんてセンスがあったんだな」

 前に獅堂さんが、5人の弟子は実力ばかりでどこか変な奴ばかりって言ってた。水曜くんと木曜くんはどんな人なんだろう。

 ぼんやり考えていたら民家もほとんどなくなった山道で波路くんがスピードを落とした。
「この辺りで曲がるはずなのですが」
 後続車がいないから徐行に近いスピード。じゃなきゃ見落としてたってくらいギリギリまで木が生えている狭い道に入って、少し走ると目的の家があった。

 獅堂さんが車を4台くらい停められそうな一角を指差す。
「沼田さんの話だとそこが駐車場なんやて。ここが家とお店で、なんぼも歩かん離れに窯がある」
 波路くんは白線があるのかってくらいきれいに隅に車を停めた。

 お兄ちゃんが緊張してる?
「兄さん?」
「はい、どうしました?」
「……ううん。なんでもない」
 強さの順位づけは意味がないって言ってた。来海くんも厄介だって言ってたから、お兄ちゃんと金曜くんも能力の相性が悪いのかな? それとも実は仲が良くて倒したくないとか? 基本無関心なお兄ちゃんとトランゼロイチって名乗るような人って気が合いそう。プログラムがトランジット信号のゼロとイチだけで構成されてるみたいに理性的な人なんだろうな。

 いやもしかして離れって言葉に反応したのかな。
 お兄ちゃんは本当の家族に怖がられて離れから出ないように言われてたんだよな。思い出しちゃったのかな。

「良ちゃん?
 大丈夫ですよ?
 僕が必ず守りますから」
「そこは心配してないよ。
 何か買いたいなんて気が早いかなって思っただけ」

 お兄ちゃんが俺の言葉を信じて微笑んだ。
「そんなことはありませんよ。さっさと済ませてお揃いのカップをゆっくり選びましょう」
 焼酎サーバーがいいなって思ってたんだけど、お兄ちゃんの気持ちが明るくなったならこだわることでもないか。

 ドアの前に「お気軽にどうぞ」と書かれたボードが立てかけてある。
 昨日読んでおいたクチコミによると、お店が開くのはごく稀で不定期。この看板でしか確認できないらしい。普段はナースさんしてるんだもんな。

 ドアを開けると4畳半くらいの玄関に腰の高さの靴箱。その上に3段の飾り棚があって9点の作品が飾られている。お店と言っても玄関で直接取引ができるってだけで、商品は多くて9点ということだった。

 波路くんが不安そうに獅堂さんを見つめる。
獅子吠ししおうさま」
「ああ。浮草さんが作ったんは真ん中だけやな」
 富士さんが獅堂さんの言いたいことを確認する。
「つまり残りの8点は金曜くんが作風を真似て作った?」

 来海くんが訂正する。
「あいつが直接土を捏ねるとは思えない。金曜が作った装置が作ったか、浮草さんを操ってるんだろうな」
「浮草さんが作ったのなら贋作とは言えないか」
「それでも魂がこもってないから明らかに質が落ちてる。この時代にわざわざ手作りを買うような人には伝わるだろうな」
「9点あるのは簡単に作れるようになったからか、売れなくなったからか」
 来海くんは静かに怒ってる。
「どっちもってこともある。
 浮草さんを助け出しても、この信用を取り戻すのは簡単じゃないぞ」

 それは来海くんにも言えることだろうな。自分の作品が暴走したとか兄弟弟子に乗っ取られたとかって、これからにどう影響するんだろう。
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