マジカルカシマ

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獅子吠

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 獅堂さんが取り出した和紙1枚なはずの多分お札は、人差し指と中指に挟まれ板のように四角形を保っている。

 『りのあー、どこにいるのー?』
 あの声が胸を締め付ける。だめだ。マジ子ちゃんはりのあちゃんと一緒にいたいだけなんだ。それだけなら誰も傷つけない。
「待って下さい!
 マントと仮面を取ればいいんじゃないんですか?」

 獅堂さんはマジ子ちゃんから視線を動かさない。
「人を連れ去る能力が来海と金曜の合作だからこそなら、救出するまでマントも仮面も取るわけにはいかない。最悪この空間に2度と繋がれなくなる」

 獅堂さんを止めようとする俺をお兄ちゃんが横から抱きしめるように抑えた。
「大丈夫ですよ。獅堂くんはぬいぐるみを倒そうとしているわけではありません」
「せやで。集中させろや」

 獅堂さんは透けて揺らいでいるマイクロバスをしっかりと見つめている。
 他の景色より揺らぎが小さくなって色も濃くなってきた。そして俺たちのいるこことマイクロバスの周りの揺らいでる空気との境目にお札を貼ると、その向こう、揺らぎの中へと力強く開いた手を入れてまた集中。どうしても当たりを引きたいくじ引きみたいに腕を引く。
「でええい!」

 熱くない爆風が円形に広がる。爆風が去った中心地点、俺たちが乗ってきた車のすぐ近くに実体のマイクロバスが存在していて、窓から子供たちと運転手さんがポカンとした顔で俺たちを見ている。

 見下ろすマジ子ちゃんの声がちょっと思いつめたものになった。
「おともだち……おともだちなのに」

 波路くんが背中で庇ってる富士さんに真面目な表情で振り向いた。
「お札のご用意を」
 富士さんが左手で胸にスーツの上から手を当てて目を閉じて、数秒して伺うように見られた波路くんが「お上手です」と微笑んだ。

 波路くんはポップコーンバスケットをたすき掛けにして、俺たちの乗ってきた車のボンネットに乗って屋根へとジャンプ。タイヤの弾みを利用して大きくジャンプして、獅堂さんに向かって「マジ!」と両手を上げたマジ子ちゃんを両手で掴んで地面に着地した。

 すぐに腕と胴体を一緒に掴み直されて、波路くんの手のなかでジタバタしているマジ子ちゃん。
「離してよ~!」
「あの、あまり暴れないで下さい。手荒な真似はいたしませんので。お願いしますっ」
 きっと根っからのフェミニストなんだろうな。マジ子ちゃんがどれだけジタバタしても胸に手が当たったりワンピースがめくれたりはしないようにしてる。

「来海さまっ。……」
 助けを求めようとした波路くんが辺りを見回す。
「来海さま?」

 来海くんがいない。
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