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金曜と月曜
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来海くんはいつの間にか俺の空間にいた。俺の隣に丸イスを持ってきて俺の方へ向いて座って、机に頬杖をついている。
「お前さ、なにやってんの?」
うるさいな。うまくいってたんだ。あの送迎バスをマジ子が勝手に移動するまでは全部うまくいってたんだ。いま直す方法を探してるんだから話しかけんな。
ああ、これ金曜くんの視点だ。金曜くんもあの子のことマジ子って呼んでるんだ。
それにしても目に掛かる染めたことも当てたこともない黒髪、机に向かってる時間を感じさせる肩と前腕の疲れ。画面に映る洒落っ気のない眼鏡、色白童顔。なんだか落ち着く。
「マッチポンプだよ。マジ子の能力をいじって消す、消えても忘れられない人に依頼させて呼び戻す。効率良く稼いでるだけだ」
「なんで俺の人形を横取りして、浮草葵の焼き物サイトをkurumi に変えたんだ?」
めまいがする。
これは金曜くんの視点だ。浮草さんの窯元から金曜くんの閉じこもってる空間へ、今度は更に金曜くんの奥へと沈んでいく。
うちの小児病棟。一昨年のカレンダーってことは俺が整形に移った後か。4人部屋で3人は部屋にいない。いるのは小さなりのあちゃんだけ。
マジ子ちゃんとママさんが突然現れた。ママはマジ子ちゃんの頭を撫でながら「あざっす」と言って、次にベッドに上体を起こしているりのあちゃんを抱きしめた。
「りのあ~、ただいま~」
「おかえりママ」
来海はバカだ。たいして値段も付けてないたった1個の商品にどれだけの性能と使用期限をつけてんだよ。俺がもっと上手く使ってやるよ。
でも金曜くん、表情筋が無くてもマジ子ちゃんが嬉しいのが分かるよ。幸せな3人家族の日常っていうこの風景に値段なんてつけられないんじゃないの?
俺の声は聞こえないのか。
それでも金曜くんの記憶は見える。再婚を控えてたのを利用して転院したことにすれば元夫から逃げられると持ち掛けて、マジ子ちゃんと2人を切り離したのか。
でも心の中のことなのに、金曜くんは嘘をついてる。
記憶の海から自然と浮かび上がると、来海くんはさっきと同じ姿勢で金曜くんを見つめている。プログラムを直したいのに上手く指が動かない。文字化けしてるようにしか見えない俺と、ちゃんと読めてる金曜くんの意識が混ざって酔いそうだ。
「見るなよ」
来海は俺が何を言ってもあんまり表情を動かさないんだ。
「別にいいだろ。
っていうか答えろよ。なんでkurumi って名前にしたんだ?」
画面を確認している俺の顔を覗き込む。
「見るな」
「見て欲しかったんだろ、会いに来て欲しかったんだろ?
『なに俺の名前使ってんだよ』って言いに来ると思ってやったんだろ?」
顔が熱い!心臓が苦しい!笑われるに決まってる!!
襲い掛かろうとする右手を止める。
大丈夫だよ金曜くん。そんな人じゃないから会いたいって思ったんだろ。
来海くんは自分が攻撃されそうだと気付いていないみたいに変わらず座ってる。
「マッチポンプに1回だけ乗ってやるよ。俺からの依頼だ。金曜を現実に戻せ」
「そんな金無いだろ、安売りしてるから。
それに可愛い格好なんかしなくても売れる実力があるのに、なんであんなに可愛い格好するんだよ」
金曜くん、実は来海くんのメイドさん姿が気に入ってるんだな。
来海くんは特に抵抗なくあの格好をしているらしい。
「男にかわいいかわいい言いたい女の子の気持ちを受け止めてやるのも男の器だぞ?
あとオーダーのイメージを受け取りやすいんだよ」
まだモヤモヤしている金曜くんに来海くんが続ける。
「返し終わってないのは3人だけか?」
熱を測るみたいデスクトップの上に手を当てると、画面に黒い波紋が広がった。
目を大きくして見つめる金曜くんを来海くんが平然と見つめ返した。
「ほら、調整よろしく」
「あ、ああ」
「なんで暴走したんだ?」
「あの子が通ってた保育園のバスを見たせいだ。バスごと転移させてりのあはどこだって言って園児はパニック。もう卒園してどこにいるか誰も知らないって運転手が言ったのと園児に怖がられたショックで狂い始めた。
あの医者が元のフルネームを言ったせいで制御を破りかけて、俺がむりやり呼び戻したりで負荷が掛かり過ぎたんだ」
言いながらキーボードを叩く金曜くん。どう見ても叩いた通りの文字は打たれてない。
相変わらず俺には文字化けに見える画面を、金曜くんはすっきりした気持ちで見つめる。直ったのか。
来海くんがデスクトップに当てていた手を金曜くんの肩に置いた。
「よし、行くか」
「え、俺も?」
「依頼しただろ。
それにこれ、結構いいかもな」
意味が分からず見上げる金曜くんに来海くんが微笑んだ。
「俺と組まないか?」
「お、俺と? お前が?」
「どうせ事後処理でしばらく一緒に動くことになる。返事はその後でいいよ」
「お前さ、なにやってんの?」
うるさいな。うまくいってたんだ。あの送迎バスをマジ子が勝手に移動するまでは全部うまくいってたんだ。いま直す方法を探してるんだから話しかけんな。
ああ、これ金曜くんの視点だ。金曜くんもあの子のことマジ子って呼んでるんだ。
それにしても目に掛かる染めたことも当てたこともない黒髪、机に向かってる時間を感じさせる肩と前腕の疲れ。画面に映る洒落っ気のない眼鏡、色白童顔。なんだか落ち着く。
「マッチポンプだよ。マジ子の能力をいじって消す、消えても忘れられない人に依頼させて呼び戻す。効率良く稼いでるだけだ」
「なんで俺の人形を横取りして、浮草葵の焼き物サイトをkurumi に変えたんだ?」
めまいがする。
これは金曜くんの視点だ。浮草さんの窯元から金曜くんの閉じこもってる空間へ、今度は更に金曜くんの奥へと沈んでいく。
うちの小児病棟。一昨年のカレンダーってことは俺が整形に移った後か。4人部屋で3人は部屋にいない。いるのは小さなりのあちゃんだけ。
マジ子ちゃんとママさんが突然現れた。ママはマジ子ちゃんの頭を撫でながら「あざっす」と言って、次にベッドに上体を起こしているりのあちゃんを抱きしめた。
「りのあ~、ただいま~」
「おかえりママ」
来海はバカだ。たいして値段も付けてないたった1個の商品にどれだけの性能と使用期限をつけてんだよ。俺がもっと上手く使ってやるよ。
でも金曜くん、表情筋が無くてもマジ子ちゃんが嬉しいのが分かるよ。幸せな3人家族の日常っていうこの風景に値段なんてつけられないんじゃないの?
俺の声は聞こえないのか。
それでも金曜くんの記憶は見える。再婚を控えてたのを利用して転院したことにすれば元夫から逃げられると持ち掛けて、マジ子ちゃんと2人を切り離したのか。
でも心の中のことなのに、金曜くんは嘘をついてる。
記憶の海から自然と浮かび上がると、来海くんはさっきと同じ姿勢で金曜くんを見つめている。プログラムを直したいのに上手く指が動かない。文字化けしてるようにしか見えない俺と、ちゃんと読めてる金曜くんの意識が混ざって酔いそうだ。
「見るなよ」
来海は俺が何を言ってもあんまり表情を動かさないんだ。
「別にいいだろ。
っていうか答えろよ。なんでkurumi って名前にしたんだ?」
画面を確認している俺の顔を覗き込む。
「見るな」
「見て欲しかったんだろ、会いに来て欲しかったんだろ?
『なに俺の名前使ってんだよ』って言いに来ると思ってやったんだろ?」
顔が熱い!心臓が苦しい!笑われるに決まってる!!
襲い掛かろうとする右手を止める。
大丈夫だよ金曜くん。そんな人じゃないから会いたいって思ったんだろ。
来海くんは自分が攻撃されそうだと気付いていないみたいに変わらず座ってる。
「マッチポンプに1回だけ乗ってやるよ。俺からの依頼だ。金曜を現実に戻せ」
「そんな金無いだろ、安売りしてるから。
それに可愛い格好なんかしなくても売れる実力があるのに、なんであんなに可愛い格好するんだよ」
金曜くん、実は来海くんのメイドさん姿が気に入ってるんだな。
来海くんは特に抵抗なくあの格好をしているらしい。
「男にかわいいかわいい言いたい女の子の気持ちを受け止めてやるのも男の器だぞ?
あとオーダーのイメージを受け取りやすいんだよ」
まだモヤモヤしている金曜くんに来海くんが続ける。
「返し終わってないのは3人だけか?」
熱を測るみたいデスクトップの上に手を当てると、画面に黒い波紋が広がった。
目を大きくして見つめる金曜くんを来海くんが平然と見つめ返した。
「ほら、調整よろしく」
「あ、ああ」
「なんで暴走したんだ?」
「あの子が通ってた保育園のバスを見たせいだ。バスごと転移させてりのあはどこだって言って園児はパニック。もう卒園してどこにいるか誰も知らないって運転手が言ったのと園児に怖がられたショックで狂い始めた。
あの医者が元のフルネームを言ったせいで制御を破りかけて、俺がむりやり呼び戻したりで負荷が掛かり過ぎたんだ」
言いながらキーボードを叩く金曜くん。どう見ても叩いた通りの文字は打たれてない。
相変わらず俺には文字化けに見える画面を、金曜くんはすっきりした気持ちで見つめる。直ったのか。
来海くんがデスクトップに当てていた手を金曜くんの肩に置いた。
「よし、行くか」
「え、俺も?」
「依頼しただろ。
それにこれ、結構いいかもな」
意味が分からず見上げる金曜くんに来海くんが微笑んだ。
「俺と組まないか?」
「お、俺と? お前が?」
「どうせ事後処理でしばらく一緒に動くことになる。返事はその後でいいよ」
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