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その後(アランの侍従編)下編

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「なんか嬉しそうですね」
「今日はね、僕の日なんですよ」

アランも奥様の旦那だから、たまには奥様を抱けるみたいで、そんな日は朝から張り切っちゃって微笑ましい。俺は、隣の部屋で待機している間、その様子を盗み見ている。
奥様には何度か顔を合わせ、それなりに信用はしていたが、アランが奥様に何かされる、とは思いたくはないが、愛人と結婚したいがために何かされてもおかしくないと思っていた。
俺はアランの護衛だから、アランの身の安全が最優先だ。

最悪のことを想定して行動していた。
 
そのため、アランの閨を毎回見ているのだけれど、やっぱりアランは男に抱かれるほうが数倍も可愛いと思う。男に可愛いという表現はどうかと思うのだけれど、そう表現せざるを得ない。

アランが今までに、いったい何人の男を食ってきたのか知らない。それほど男経験が豊富ならば慣れているなのかと思いきや、奥様がアランの唇にキスをするだけで顔が茹蛸のように真っ赤になり、何時までも初々しい。そんなところが男を惹きつけてやまないのだろうか。

「僕は兄様とは違って女みたいな顔だし、コレットが男として見てくれなくても、仕方がない気がするんですよ」

きっと、アランはコンプレックスの塊なのだろう。

地味顔の俺としては、アランの顔は羨ましいぐらいだ。コレット以外の女であれば、すぐにアランに惚れると思う。それなのに、コレットという悪女を妻としてしまったばっかりに、まるで日陰に咲く花のように萎れてしまっている。
なんとも、もったいない話だ。

貴族は嫌いだ。
アランは「お互い様ですよ」と言うけれど、こちらの弱みにつけ込んでくる男たちには反吐が出る。心の隙間を埋めるように、アランの気持ちと体を利用するのだ。
ちゃんと奥様が夫であるアランに向き合っていれば、アランの変化に気が付いたはずだ。アランが言うように、奥様はアランに対して、無関心なのだ。表面上の変化が出てから、やっと気が付く奥様の戯れの優しさに傷つき、それでも愛されたいと願うアラン。

これでは結婚している意味がないように思える。

この屋敷で勤め始めて10年が経った。兄弟たちは大人になり、仕送りで必要な額も減った。何時仕事を辞めてもいいぐらいのお金も貯まっている。

それでも俺がこの仕事に就いているのは、アランのためだった。

何時からだろうか。その笑顔を守りたいなんて、大それたことを考えるようになったのは。「見てください! こんなに綺麗に咲いたんです」手塩にかけて育てた花を持ち、屈託のない笑顔を俺に向けるアランが眩しくて。

だから、気が付かないふりをした。――この痛む心を。

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