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しおりを挟む使い物にならない体にため息を零す。
「はぁ……」
本当なら今日は修道院を訪問する予定だったのに、この体調の悪さではデルクが言った通りにベットから起き上がることでさえ難しい。
修道院には、デルクのお母様が修道院長として就任している。緊張しながら初めて挨拶した時、彼女は手を合わせて喜びに目を輝かせた。
『こんな娘が欲しかったのよね!』
つまりは嫁姑という感じではなく、母娘のような関係になってしまった。私もその人柄の良さを慕い、逢う日までが待ち遠しいぐらいだった。その気高さと頭の回転の速さといったら、私のお母様に匹敵するかもしれない。
お喋りはとても楽しく、赴く度に日々の話から政治的なことまで話合う。アイリスであれば、考えもつかない斬新な発想は、流石にデルクが王となるまで国を統治し、女傑として名を馳せた方なだけあると思う。御年60歳であらせられるのに、意欲的にデルクの補佐を務め、その国策を支えている。個人的な楽しみは置いておいても、修道院の訪問は王妃としての務めなので、行けなくなってしまい残念だ。
デルクは私のことを甘やかすのが大好きみたいだが、それと同じぐらい夜の営みにも夢中だ。
「レティア様。本日は珍しいものが手に入ったんですよ」
動けない私に、侍女が食事を用意してくれた。
目にも鮮やかな南国のフルーツや見たこともない魚介類が皿の上には乗っている。食欲を誘う香辛料の匂いに、私は舌鼓を打ちながら食べた。
けれども、なぜか味気が無いように思えた。デルクと食べると、食事はそっちのけで話に花が咲く。味わって食べるのならば、1人で食べたほうが良いはずなのに、なぜか物足りなさを感じた。
そうして、今、ここに居ない人のことを思う。
彼に口付けられると、その優しい愛撫にうっとりして目を閉じてしまう。何時からなのか、デルクと目を合わせることが出来なくなっていた。
彼に触れると心臓が跳ねて、目が潤み始め、無性に熱が欲しくなる。
私は、自分の変化に、戸惑っていた。
デルクの瞳に見惚れて、ぼうっとしてしまう。ふわふわとしたデルクの癖毛を指に絡めて遊んでいると、降りかかる愛の言葉に心が騒ぎだす。
それは、欲望を受け入れている瞬間も同様で、デルクに抱かれているのだと思うと、ひどく恍惚とした快感に襲われる。
もっと彼が欲しくなって、腰をくねらせて促してしまう。
それはデルクを喜ばせたが、自ら腰を振るなど、はしたない女性のように彼に思わせてしまうのではないかと、苦悩した。
『私って、病気なのかしら……』
宮廷侍医に来てもらって、病状を訴えると、何やら変な顔をした。
診断は心の病でしょうとのことだった。
治療法を聞いてみると、私よりも陛下に相談されて下さいとのこと。
デルクに言いたくなくて、どうして良いのかわからずに、悶々としていたのだが、思いきって侍女たちに聞いてみることにした。すると、
「レティア様、それって……」
彼女たちは顔を見合わせて、黄色い歓声を上げた。
そして眉を顰めながら、ひそひそと鈍感、という言葉が聞こえてきたのは空耳だろうか。彼女たちに相談したのは失敗だったろうかと思いながらも、政治的なことならともかく、こんなプライベートなことを高貴な方に晒すなんて、いくら親しい相手だったとしても出来やしない。母親が生きてさえいてくれたら、相談相手になってくれたのだろうかと思う。
何時までたっても返答が来ないので、私はおずおずと彼女たちに問いかけた。
「その、それでね、あなた方の見解が欲しいの……」
「そうですね。その症状を、陛下の前で仰れば、すぐに解決しますわ」
とても頼りになる侍女だということは分かっている。
王妃として無知な女である私が、その座に就いたということに、反発や嫌がらせは当然ながらあった。けれども彼女たちが様々なことを教えたり口添えをしたりと、ありとあらゆる人脈を使って私に尽くしてくれたこともあって、ここまでこれたのだ。
その忠誠心に、私はすっかり心を打たれてしまった。彼女たちは侍女であり、また同時に信頼の置ける親友でもあった。
けれども、なんてことだろう。よりによって、デルク本人に言うだなんて、とんでもない言葉に、目を伏せてしまう。
「そんなこと……、恥ずかしいわ……」
侍医も同じことを言っていた。やはり、その方法しかないのだろうか。そう言うと、
「夫婦なのですから、陛下も気になさらないですよ。むしろ、もろ手を挙げて喜ばれると思います」
「喜ぶ? デルクが喜んでくれるのですか?」
デルクが喜んでくれる。
何て、魅力のある言葉なのだろう。まるで光明が見えたような気がして、俯き加減だった顔を上げた。期待で、声が上擦ってしまう。ええ、勿論ですと言って胸を張る侍女が、妙に頼もしく見えた。
「それなら……、恥ずかしいけど言ってみます。……このことは、私がデルクに言うまで内密にしてもらえますか?」
「この口が裂けても言いませんわ。…‥さぁさぁ聞きましたか、貴方たち! 今夜は腕によりをかけて準備をしますわよ!」
デルクが、この部屋に戻ってくるのは、まだ大分先の話だというのに、やけに侍女たちは、張り切って部屋を出ていった。
そうして遅い朝食が終わった。ここ数日の間、思い悩んでいた不安を解消する道筋ができたことに安堵したら、急激に眠くなってきて、ベットに潜り込んだ。海鳥の鳴き声と荒々しい波の音を子守唄に、私は安らかな眠りへと落ちていった。
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