白薔薇姫は愛に溺れる【完結】

ちゃむにい

文字の大きさ
13 / 25

12

しおりを挟む


どうやら寝すぎたらしい。
私の意識が浮上したのは、もう日が落ちようとしている頃だった。おかげで体調は万全になったけれども、だれも侍女たちの暴走に口を挟むものはいなかったのだろうか。

「こッ、これは私には可愛らしすぎるのではないですか?」

私も寝る前に、それとなく言えば良かったのだけれども、そこまで頭が回っていなかった。
いくらなんでも、これはひどい。
今夜の準備です、と称して侍女たちは私を部屋から追い出すように風呂に入れさせた。デルクは今日も遅くなるそうなので、先に夕食も済ませることにした。
その後は、読みかけの本を読んだ。

たまには、こんな日もいいかもしれないと、張り詰めた心を解すように、私は休日を満喫していた。明日はデルクの誕生日なので、贈り物として刺繍をしたハンカチに白薔薇の香水をふりかけ、金色の小さな箱に、こうではないああではないと悪戦苦闘しつつ、白色のリボンで結んだ。

出来栄えに満足していると、戸を叩く音が聞こえた。
入室を許可すると、私の侍女が全員入ってきて、今着ているドレスを彼女たちが持ってきたものに着せかえられた。それは、まるで私を食べて下さいと言わんばかりに、露出の高いピンク色のネグリジェだったので、私は度肝を抜かれた。
そうして冒頭に戻る。

「そんなことはありません。レティア様の豊満な肢体を魅力的に見せてくれます。それに陛下も常々、レティア様は、このようなお召物が似合うと仰っておりますので……」

したり顔で言う侍女に、私は卒倒しそうだった。デルクはいったい、侍女に何を言っているのか。胸元を見る。幼かった頃よりも幾分か大きく育った膨らみが見える。背中に風を感じるのは、殆ど布切れが存在しないからだ。これではまるで下着姿だと思う。
渋る私に、侍女は微笑みながら、まとめていた私の髪をおろした。

「レティア様。……これは女の戦闘服ですよ」

「……え?」

「そして、レティア様が、不安に思われていることを陛下に申し上げれば、お喜びになられることでしょう。このネグリジェは、その雰囲気づくりを助けるものです」

「僕が喜ぶって? ……って、わぁッ!? なんて姿なんだい、レティア!!」

「デ、デルク!」

どうやら予定よりも仕事が早く終わったらしい。デルクが顔を出すと、侍女たちは蜘蛛の子を散らすようにアタフタと室内から出ていってしまった。
前を隠す布を探すために、私は急いで椅子から立ちあがった。すると思ったよりも近くまで来ていたデルクにネグリジェの端をつまみあげられて、小さく悲鳴を上げる。

「あぁ、レティア。いつだって可愛いけれども、今日は特別、可愛いね。どうしたの? いいことでもあった?」

デルクの嬉しそうな視線に、ドキリと心臓が高鳴ったが、次の瞬間、デルクが私に触れようとした手を無意識にふり放してしまう。
そんなつもりはなかったのに、パシン、と強い音が聞こえて、真っ青になる。おろおろとしていると、私を凝視するデルクと視線があって硬直する。

「レティア」

苦笑交じりの声に、ビクリとした。

「最近……、ちょっと僕を避けていないかい?」

「いえ、……その……」

「きっと僕が何かしたのだと思うけれど……、心当たりがないんだ……」

もしかして、僕に触れられるの迷惑かなと、悲しそうに微笑むデルクに、泣きそうになる。私の行動でデルクが傷ついてしまったことに、胸が張り裂けそうになった。そんな勘違いをされるぐらいなら、もはや言うという選択肢以外に道は残されていなかった。
どんな言いわけをしても、不自然になってしまう。デルクに勘ぐられるのだけは、避けたかった。

「デルク……ッ、違うの! その……、デルクを触れられると……」

「触れられると……?」

「……どきどきして……」

「え……?」

そして堰を切ったかのように、心に抱えていたことを、すべて話してしまった。

ついに、言ってしまった。
恥ずかしくて消え入りたい。悲しそうだったデルクの瞳が、驚きに彩られる。そして潤み始めたかと思うと、ぼろぼろと零れ始めたので、私は驚き慌てふためくばかりだった。
男性の涙なんて、初めて見た。
慰めようにも、泣かせてしまったのは私の不用意な発言だろうと思い、かける言葉がなかった。謝罪の言葉ばかりを繰り返し、口にするけれども、デルクはそっと首を振った。

「レティア。君が、謝る必要はないんだよ……」

「だって……」

「これはね、悲しくて泣いているんじゃない。嬉しくて、泣いているんだ」

「嬉しく、て……?」

私の言葉のどこに、喜ぶべき要素があったのだろうか。
私は検討もつかなくて、頭を捻った。じっと答えを求めてデルクを見詰めてみるも、デルクの瞳の奥の、隠そうともしない溢れんばかりの愛情に、心が騒ぐばかりだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く

紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?

【完結】妻の日記を読んでしまった結果

たちばな立花
恋愛
政略結婚で美しい妻を貰って一年。二人の距離は縮まらない。 そんなとき、アレクトは妻の日記を読んでしまう。

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ 読んでくださり感謝いたします。 すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

白椿の咲く日~ひそかな恋、遠い日の思いは

紫さゆり
恋愛
結婚を控えた真由子は、久しぶりに異母姉の稚子(わかこ)と会う。 真由子の母の雪江は、大学教授であり著名な歌人の水上実之(みなかみさねゆき)の後添いとして水上家に嫁いだ。 婚約者の諒人(りょうと)のことなど、真由子は稚子と色々語り合ううち、庭の白椿の木は真由子がなついていた異母兄、靖之が植えたものだと知る。 白椿の木をめぐっての、ひそかな大人の恋物語です。

遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)

スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」 唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。 四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。 絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。 「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」 明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは? 虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

処理中です...