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しおりを挟むどうやら寝すぎたらしい。
私の意識が浮上したのは、もう日が落ちようとしている頃だった。おかげで体調は万全になったけれども、だれも侍女たちの暴走に口を挟むものはいなかったのだろうか。
「こッ、これは私には可愛らしすぎるのではないですか?」
私も寝る前に、それとなく言えば良かったのだけれども、そこまで頭が回っていなかった。
いくらなんでも、これはひどい。
今夜の準備です、と称して侍女たちは私を部屋から追い出すように風呂に入れさせた。デルクは今日も遅くなるそうなので、先に夕食も済ませることにした。
その後は、読みかけの本を読んだ。
たまには、こんな日もいいかもしれないと、張り詰めた心を解すように、私は休日を満喫していた。明日はデルクの誕生日なので、贈り物として刺繍をしたハンカチに白薔薇の香水をふりかけ、金色の小さな箱に、こうではないああではないと悪戦苦闘しつつ、白色のリボンで結んだ。
出来栄えに満足していると、戸を叩く音が聞こえた。
入室を許可すると、私の侍女が全員入ってきて、今着ているドレスを彼女たちが持ってきたものに着せかえられた。それは、まるで私を食べて下さいと言わんばかりに、露出の高いピンク色のネグリジェだったので、私は度肝を抜かれた。
そうして冒頭に戻る。
「そんなことはありません。レティア様の豊満な肢体を魅力的に見せてくれます。それに陛下も常々、レティア様は、このようなお召物が似合うと仰っておりますので……」
したり顔で言う侍女に、私は卒倒しそうだった。デルクはいったい、侍女に何を言っているのか。胸元を見る。幼かった頃よりも幾分か大きく育った膨らみが見える。背中に風を感じるのは、殆ど布切れが存在しないからだ。これではまるで下着姿だと思う。
渋る私に、侍女は微笑みながら、まとめていた私の髪をおろした。
「レティア様。……これは女の戦闘服ですよ」
「……え?」
「そして、レティア様が、不安に思われていることを陛下に申し上げれば、お喜びになられることでしょう。このネグリジェは、その雰囲気づくりを助けるものです」
「僕が喜ぶって? ……って、わぁッ!? なんて姿なんだい、レティア!!」
「デ、デルク!」
どうやら予定よりも仕事が早く終わったらしい。デルクが顔を出すと、侍女たちは蜘蛛の子を散らすようにアタフタと室内から出ていってしまった。
前を隠す布を探すために、私は急いで椅子から立ちあがった。すると思ったよりも近くまで来ていたデルクにネグリジェの端をつまみあげられて、小さく悲鳴を上げる。
「あぁ、レティア。いつだって可愛いけれども、今日は特別、可愛いね。どうしたの? いいことでもあった?」
デルクの嬉しそうな視線に、ドキリと心臓が高鳴ったが、次の瞬間、デルクが私に触れようとした手を無意識にふり放してしまう。
そんなつもりはなかったのに、パシン、と強い音が聞こえて、真っ青になる。おろおろとしていると、私を凝視するデルクと視線があって硬直する。
「レティア」
苦笑交じりの声に、ビクリとした。
「最近……、ちょっと僕を避けていないかい?」
「いえ、……その……」
「きっと僕が何かしたのだと思うけれど……、心当たりがないんだ……」
もしかして、僕に触れられるの迷惑かなと、悲しそうに微笑むデルクに、泣きそうになる。私の行動でデルクが傷ついてしまったことに、胸が張り裂けそうになった。そんな勘違いをされるぐらいなら、もはや言うという選択肢以外に道は残されていなかった。
どんな言いわけをしても、不自然になってしまう。デルクに勘ぐられるのだけは、避けたかった。
「デルク……ッ、違うの! その……、デルクを触れられると……」
「触れられると……?」
「……どきどきして……」
「え……?」
そして堰を切ったかのように、心に抱えていたことを、すべて話してしまった。
ついに、言ってしまった。
恥ずかしくて消え入りたい。悲しそうだったデルクの瞳が、驚きに彩られる。そして潤み始めたかと思うと、ぼろぼろと零れ始めたので、私は驚き慌てふためくばかりだった。
男性の涙なんて、初めて見た。
慰めようにも、泣かせてしまったのは私の不用意な発言だろうと思い、かける言葉がなかった。謝罪の言葉ばかりを繰り返し、口にするけれども、デルクはそっと首を振った。
「レティア。君が、謝る必要はないんだよ……」
「だって……」
「これはね、悲しくて泣いているんじゃない。嬉しくて、泣いているんだ」
「嬉しく、て……?」
私の言葉のどこに、喜ぶべき要素があったのだろうか。
私は検討もつかなくて、頭を捻った。じっと答えを求めてデルクを見詰めてみるも、デルクの瞳の奥の、隠そうともしない溢れんばかりの愛情に、心が騒ぐばかりだった。
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