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しおりを挟む先ほどの、私の拒絶に慎重になっているのだろう。
デルクは、私の体に触れても良いかどうか許しを求めた。そして、手繰り寄せるように私をその腕の中に閉じ込める。私よりも大きくて、柔らかい手が私の背中に回る。嫌悪感は無く、むしろ抱き締められることに喜びさえ見出してしまう。
デルクの太い指が震えていることに気が付く。けれども私が、そのことに気が付く前にデルクは言葉を繋いだ。
「ねぇ、レティア。僕の懺悔を聞いてくれるかい?」
「懺悔、だなんて」
何時だってデルクは私を守ろうとしてくれる。今だって、まるで安心させるかのように、力強く抱き締めてくれるのに、私が懺悔するならともかく、なぜ彼がそのような事をしなくてはいけないのだろう。
けれども、デルクの声は真剣で、私は浮かべようとした笑みを消し、コクリと頷いた。
デルクの頼みなら、何だって叶えてあげたい。
それだけは嘘偽りない、私の気持ちだった。
そして暫く無言が続いた後、デルクはポツリポツリと、驚愕の事実を喋り始めた。
「初めてレティアに出会ったのは、女神様が祀られている……御神木の前だったね」
「ええ、そうでしたね……」
あの時のことは良く覚えている。
いきなり頭の上に動くものがとまって、素っ頓狂な叫び声を上げてしまった。と、言いそうになってしまって言葉を飲み込んだ。
デルクは真剣なのだ。
こんな話をして、話の腰を折るわけにいかない。
「レティアと、お喋りして僕は有頂天になった。小人になるだなんて、運の悪かった僕だけど、そのおかげで運命の人に出会えたんだって……ただ遊び歩いているだけの生活は変わったよ。何せ目的が出来たからね。けれども喜びは、そう長く続かなかったよ。……君は……、僕ではない、誰かに恋をしていたから……」
「そ、れは……」
すぐに、苦しいだけの初恋を思い出して、言葉を失った。思わず、表情が硬くなってしまうのを実感した。
デルクは勘が良いから、私の抱える恋心に気が付いているかもしれないと危惧していたけれども、まさか結婚前から知っていただなんて、思いもしなかった。何故、そのことに気がつかなかったのだろうと悔やんだ。いや、気づきたくなかったのかもしれない。その可能性があることを、私は知っていた。ただ、現実を見て見ぬふりをしていたのだ。
デルクと出会ったのは、ランスロット王子に恋をした直後のことだった。
私はランスロット王子の事を想って、始終ため息ばかりついていた。もしかするとココル、いやデルクも、私の侍女との会話を聞いていたかもしれない。
侍女にランスロット王子への恋心を指摘されたのも、あの森の中だったことに、今更ながらに思い当たって、私は青ざめるしかなかった。
何てことだろう、彼は何もかもお見通しだったのだ。
「それでも僕は君が欲しかった」
覇気の無い、デルクの声。
私の背を抱き締めるデルクの力が強くなる。柔らかで滑りの良い薄い生地1枚隔てたところに、彼がいる。
あまりにも密着した体、そして彼の匂いに、体温が自ずと上昇するのを感じた。彼を強く意識してしまう。
こんな時、いつもなら彼を求めて、愛し合って。
けれどもそれは出来ない。
もしかすると未来永劫、出来なくなるかもしれない。
そう思うと、悲しくてたまらなかった。
けれども、こうなってしまっては、彼に全権を委ねるしかなかった。私の出来ることは、何1つない。天罰は彼が下すべきだったからだ。
「君の心が、他の男に向いていると分かっていても、僕は君以外に考えられなかったんだ」
「私は、デルクのことが……」
好きと言おうとして、口をつぐんだ。
彼が決めることだというのに、もう彼は全てを知ってしまっているというのに、無意識のうちに、否定の言葉を発していた。
その言葉は彼を不快にさせるだけだと今となっては分かっていたのに、口を突いて出てきた。自己弁護したいのだろうか。
なんて、弱い心なのだろう。
「……レティア。……君は嘘をつくのが苦手、だよね……僕のしたことを思えば、君に好意を抱かれる……それで、それだけでも十分すぎるとは思っていたけれども、僕は……」
彼の呟きは、嗚咽で聞き取れないぐらいに、かぼそいものだった。けれども、私はやけに大きく聞えた。
私がデルクに好意を寄せているのは間違いない。彼と一緒に居ると楽しい。心が和らいで、気分も明るくなる。
問題を後回しにして、デルクを喜ばせようとして言った、私の『好き』という言葉は、どれだけ、彼を苦しめていたのだろう。
好きと言われて、彼はとても嬉しそうだったけど、そうではなかったのだ。あまりに短慮だった、自分の行動に泣きそうになる。
デルクの愛が欲しくて、安易に手を伸ばしてしまった。デルクは、私が愛していないと気がついていたのに、私の求めに応じた。
それはただ、私の要求を拒絶したくなかっただけなのだろう。追求してこなかっただけで、その罪を、今問われている。
デルクの優しさに、甘えていたことを痛切に感じた。
「デルク、私は……」
言い訳はしない。
許してもらえるとは思っていない。
けれども、何を言えば、デルクは傷つかないでくれるのだろう。
私の頭の中は、それでいっぱいだった。
『私の、愛する人』
頭の中に不意に浮かんだ、その言葉に、私は目を見開いた。
金の髪、金の瞳。
そこに居るだけで、人の輪の中心となる、まさに王となるために生まれてきたような、人。
ランスロット王子は、いまだに心の中にいる。けれども、目の前のデルクに比べれば、それは既に色褪せた、ただの思い出でしかないことに気が付く。
私は、デルクを愛していたのだ。疑いの余地もないほどに。
けれども、気が付くのが遅すぎた。
愛していると気がついた時には、求めることが出来ない。服越しに感じるデルクの温もりに、私は涙した。
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