白薔薇姫は愛に溺れる【完結】

ちゃむにい

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デルクは結婚した当初は小太りだったけれども、今では見違えるほどに体形が変わった。「自分の身は自分で守りたいからね」と言い、贅肉を削ぎ落して、吃驚するほど逞しい体つきになった。そうなると、今までデルクに見向きもしなかった美しい令嬢たちが、こぞってデルクの寵愛を受けようと、目論み始めた。
彼女達が人目も憚らずデルクに露骨に近づく事で、私が嫉妬していたなど、デルクは思いもしないだろう。彼は私に「いったい僕が、どのくらいレティアを愛しているのか、君は知らないだろうね」と言うけれども、それは彼も同じことが言えると思う。彼は己に対する好意には無頓着で、愛人の座に収まりたい女性達をことごとく蹴散らした。

けれども、私はデルクに守られるだけの女にはなりたくなかった。
何より、私はデルクを愛しているからこそ、その愛情を当たり前のように受け取りたくなかった。それこそデルクが愛人を作るなんて考えられないほど深く愛そうと私は心に誓ったが、彼は心配する暇もないぐらい、私しか見なかった。
毎日が薔薇色の生活だった。

子宝には恵まれていたようで、3人の息子と5人の娘を授かった。目まぐるしく季節は変わっていった。大きくなった子供たちは、みな賢く、デルク譲りで優しい子ばかりだった。
その間にも、何度かイシュラスとエルファーンは小競り合いをしたが、大きな戦争には発展しなかった。和平を保つなら、両国の子供同士が結婚すること。それが1番だった。私も親にそうされたように、子供にも同じことを強いなければいけないのかと思って憂鬱だったが、相手の子を見て一目で気に入った。

ただし、長女ではなく次女のほうだ。母親の陰に隠れて、小さく縮こまっていたが、それは昔の私を思い出させるもので、微笑ましかった。
瞳の奇麗な少女だった。着ているドレスも、あまり華美ではなく、おそらくは、長女の引きたて役として置いているのだろう。
頭を撫でてみたら、嬉しそうに目を輝かせた。

どこか私に似ている、その子はルナと言うらしい。器量が悪いだの、頭が良くないだのと罵る声が聞こえたが、耳に入らなかった。妹の子なのだから、似ていても当然かもしれないが、妹よりもどちらかというと私の血を感じさせるものだった。

「はじめ、まして」

長女アイラと比べると安っぽい服は着ていたが、その身から滲みでるような人柄の良さは隠すことが出来ない。はにかみながら笑うと、えくぼが見えて可愛かった。
きっと私のように縮こまって生きてきたのだろう。そのためか控えめで大人しく内気の性格のようだった。その母親が大輪の薔薇というならば、彼女は人の心を和ませるような小さく可憐な花を沢山咲かせるかすみ草のようだった。

その子なら、どこをどう間違えたのか自尊心の塊のような男の子に育ってしまった愚息ロアンと向き合えると感じた。
これがお見合いだということはロアンには秘密にしていたが、アイラと喋らせても、どこか上の空でルナばかりに話しかけた。本来ならアイラと婚約すれば波風は立たなかったのだが、彼にその気が無い以上は仕方が無い。

これ以上、会話をさせても時間の無駄だと私は判断して、私はルナをロアンの相手として婚約させるために、手筈を整えた。
それはロアンの希望でもあった。

「ね、婚約者はどうだった?」

「悪い子じゃないけど結婚するのは嫌だな。 僕ね、お母さまと、結婚するんだ!」

さりげなく、しかし堂々とした告白に、飲んでいたお茶を吹きだすデルク。今にも血管が千切れてしまうのではないかというほど真っ赤な顔をして怒鳴った。

「レティアは、僕のなんだぞ!」

デルクの焦り声に、見守っていた他の家族の忍び笑いが聞えてくる。こんな家族が集まっているところで宣言されても、照れてしまう。
そんなに狼狽しなくとも、私の心はデルクのものなのに、いちいち可愛い人だなと思う。

「ロアン。私とはね、結婚できないのよ」

「えぇー!?」

くすくす笑いながら、私はロアンの頭を撫でる。

「困った子ね。もう13歳なのに、何時までも甘えん坊なんだから」

手を煩わせるほど、可愛いものだ。けれども子供の言うことであり、私はデルクみたいに真に受けたりはしない。
ほんのり上気した頬は見ないフリをする。ついこの間まで赤ん坊だったというのに、あっという間に大きくなった。やはり母親としては嬉しさ半分、困惑半分だ。母親を慕う息子は可愛いが、そろそろ母親にベッタリは卒業してほしいものだ。

「お母さま、お誕生日おめでとうございます!」

「ありがとう、みんな」

私が好きなのを知ってか、子供たちから白薔薇の苗木を贈られた。私の故郷の特産だが稀少なもので、他国では入手しにくいものだ。
きっと、みんなで知恵を出し合って手に入れたのだろう。

目頭が熱くなる。

食卓を囲む、家族の笑顔が、記憶に刻まれる。幸せ過ぎて、怖いぐらいだった。母が亡くなってからは身の寄せる場所もなく、孤独だったけれど、デルクのおかげで大切な居場所を見つけることができた。身一つで、この国に嫁いできたけれども、たくさんのものを残せたと思う。

誕生日会の夜に庭園の片隅に植えられた小さな白い薔薇は、しっかりと大地に根付き、たくさんの花を咲かせた。


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