白薔薇姫は愛に溺れる【完結】

ちゃむにい

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叔父のユリウスは、行商人だった。

夢だった、海の向こうにあるという新大陸へ船で旅をして、2年ぶりに戻ってきたのだ。

すこしやつれただろうか?
きっと異国の地で、苦労をしてきたのだろう。
頬の皺が深く刻まれていて、内心複雑な自分がいることに気が付く。
自分の知らないところで、ユリウスは自分の知らない生活をしていたのだ。
そこでどんなことをしていたのかも知らない。

それが例えようになく嫌だった。

理由はわかっている―― 嫉妬だ。

私は生まれ変わっても、デルクを愛し続けていた。

どうしてか、私も白薔薇姫と言われたままの容姿だった。
それは前世と遠い血縁にあるからかもしれない。
ユリウスは王族と縁もゆかりもない一族に生まれているのに、
まったく以前と変わらない顔かたちをしていた。

正直、最初は気まずかった。

前世では夫であった人が、叔父として抱っこをしたり頭を撫でてくれるのだから。

何度、彼を見て泣いたことだろう。

「あ、ほら、これ気に入るかは分からないんだけど」
「これは……?」
「手鏡だよ。前に欲しがってただろ?」
「ありがとう、本当に嬉しいわ」
「どういたしまして」

大きな手が、あたたかい。

声も性格も、何から何までデルクだった。
けれど、彼に前世の記憶はない。
抱きしめて、キスをして、愛を囁いて欲しい気持ちに襲われるけど、彼の愛は私には向かない。
親愛の情は示してくれるけれど、熱の色が違った。

「その髪飾り、とても可愛いね。アイーシャは従妹の中でも1番好きだよ」

甘い囁きが嬉しかったけど、その優しさが悲しかった。

「まったく。お前も、そろそろお嫁さんを連れてこいよ」

父の声に、心が悲鳴を上げる。

そんなことをユリウスに言わないでと叫びたくなる。
今は仕事が恋人ですからと答えるユリウスに心底安堵してしまう自分が居た。

前世のことは忘れて、違う人生を歩みたい。
けれども、過去と決別することが出来ない。
彼が来る日を心待ちにして、可愛いって言ってもらえるように奇麗にしようかと、そわそわとしてしまう。
彼に好きと言われると、嬉しい。

けれども、好きだけでは物足りなかった。

「じゃあね、アイーシャ。また来るから」

数日後、笑顔でユリウスは、私にそう言った。

船で新大陸に行くのなら、また数年は戻ってこない。

「うん。はやく戻ってきてね!」

寂しさを押し殺して、とびきりの笑顔で彼に笑いかける。

ただ顔が似ているだけの別人かもしれない。
けれど、私の魂は違うと叫び続けている。
叔父はユリウスは、デルクの生まれ変わりだ。
私がそうであるように、人は生まれ変わるのだ。

前途多難の恋。

それは分かっていたけど、私は前を向くことにした。

まだ私は結婚を認められる年齢ではない。
今、何を言ったところで冗談としか受け取られないだろう。
きっと次に逢う時は、彼を手に入れる。
ユリウスが一目惚れしてしまうほどの美貌で彼を迎えるのだ。
私は「白薔薇姫」だから。

ふと手鏡の中を見ると私は、寂しそうに笑っていた。

それは、あどけなさの残る少女の顔だった。

前世と今の私は違う。

尊敬できる父親に、優しい母親がいて、可愛い弟がいる。
義母にないがしろにされていた、前世と比べて何と幸せなことか。
だが、満たされているはずなのに、まだ私は欲しがっていた。
これ以上を望もうとするだなんて、変わったなと思う。
それもまたデルクとの生活で得た、変化だった。

後悔なんてしたくなかったから。

デルクを愛した事。
そしてデルクに愛された事。
それを無かった事に出来ない。

潮の香りがする。
どんどん小さくなるユリウスの背を見て、手を痛くなるほど握りしめた。
今はまだ、何も出来ない。

けれど、いずれ私は恋を成就させる。

その覚悟を胸に秘めて、私はユリウスの遠ざかる後ろ姿を見た。

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