23 / 25
21
しおりを挟む
私は焦げ茶色の、分厚い本のタイトルを見て、慌てて走り寄った。
それは数千年前の過去から現在に至るまでの、歴史書だった。
ついに、見つけた!
不安と期待に、胸が高鳴る。
その本には、私の探し求めていた情報が、記されている可能性が高かった。
急いで取ろうとしたが、本は思ったよりも本棚にぎゅうぎゅうに詰められている上に、指が震えてうまくとれない。
そんな様子を不思議そうに見ていたお父様は、笑いながら私に喋りかけた。
「そんなに、この本が読みたいのかい。おかしな子だね。本当にアイーシャは、勉強熱心だ。いったい、誰に似たのかなあ?」
ほら、読んであげるよ。
と言って本を取り、私を膝の上に乗せて1P目から読み上げ始めようとしたので、私は吃驚してしまった。それでは私が読みたいページに辿り着くには、おそらく数か月後になってしまう。
「お、お父様。私、挿絵が見たいだけだから……」
「そうかい。アイーシャだから大丈夫だとは思うけど、けっこう貴重な本だから、破いたりはしないでね」
なんとか1人になって、私はほっと安堵した。
この機会を逃したら、次はいつになるかわからない。
見たい見たいと願い続けて、もう1年以上が経過してしまった。
ようやく念願叶って父親の書斎にある本を見せてもらった。
本はとても貴重で高価なものだ。
震える指でページを捲っていき、戦争という文字にピタリと指が止まった。
「いったい何があったの……」
息を詰めて、読み進めていくと、小人に私を殺せと指示したのは、どうやら私の異母妹エレノアだったようだ。なんて大罪を犯したのだと、逡巡しながらも、最後に見た異母妹の顔を思い浮かべ、やりかねないと、それが史実であることを観念するしかなかった。
歴史だけがすべてではない。
必ずしも書物に書いてあることが正しいことではないということはわかっている。
そこには虚構や誇張があり、書いてある通りに受け取らないほうがいいだろう。
しかし、デルクが小人との戦いで死に、そしてその長男が、まだ若くして王となったということは事実だろう。
そして、そこでもまた波乱があったことは想像に難くない。
イシュラスはエルファーンに滅ぼされ、大地は火の海になったという。
虐殺王ロアン。
それは未だに畏怖された存在であった。
いったい何万人の民が死んだのだろう。
――私のせいだ。
不用意に、あの小人に近づいてしまった私が悪かったのだ。後悔の念が湧き上がってきて、ぽたり、と本に涙がこぼれそうになってしまう。
私は何て罪深いことをしてしまったのだろう。
「どうしたんだい? アイーシャ」
「叔父様」
私を呼びかける声に、私はパタン、と書物を閉じた。
もう、あれから300年も経過しているのだ。
楽しい思い出も、悲しい思い出も過去の物になってしまった。
「忘れた、ほうが良いのよね、きっと……」
今も目を閉じれば思い出す。
デルクを愛し、愛された日々を。
あの輝きに満ちた、素晴らしい時を。
私が生きている限り、忘れることはないだろう。
前世の記憶に苦しめられて、1人泣いている時も、何も知らないお母様とお父様は全力で可愛がってくれた。
その2人を悲しませるようなことはしたくない。
私は、自分自身に区切りをつけたくて、この本を探し求めていたのだ。
『アイーシャは、私達の可愛い娘よ。貴方のためなら、何だってするわ』
どんなに、その言葉が嬉しかったかわからない。
そして、その言葉に気が付かされた事がある。
私にとって、デルクとの間に産まれた子供達が唯一無二の存在であったのと同じように、アイーシャの両親にとっても、娘である私は愛情を注ぎ込み、慈しむべき存在であるということを。
けれど、どんなに過去を忘れようと努めても、忘れることが出来ない。
その原因は、今の私の置かれている現状にあった。
「ただいま、アイーシャ。少し背が伸びたかい?」
優しい声が私を出迎える。
前世でも今世でも、私の愛する人が、そこにはいた。
それは数千年前の過去から現在に至るまでの、歴史書だった。
ついに、見つけた!
不安と期待に、胸が高鳴る。
その本には、私の探し求めていた情報が、記されている可能性が高かった。
急いで取ろうとしたが、本は思ったよりも本棚にぎゅうぎゅうに詰められている上に、指が震えてうまくとれない。
そんな様子を不思議そうに見ていたお父様は、笑いながら私に喋りかけた。
「そんなに、この本が読みたいのかい。おかしな子だね。本当にアイーシャは、勉強熱心だ。いったい、誰に似たのかなあ?」
ほら、読んであげるよ。
と言って本を取り、私を膝の上に乗せて1P目から読み上げ始めようとしたので、私は吃驚してしまった。それでは私が読みたいページに辿り着くには、おそらく数か月後になってしまう。
「お、お父様。私、挿絵が見たいだけだから……」
「そうかい。アイーシャだから大丈夫だとは思うけど、けっこう貴重な本だから、破いたりはしないでね」
なんとか1人になって、私はほっと安堵した。
この機会を逃したら、次はいつになるかわからない。
見たい見たいと願い続けて、もう1年以上が経過してしまった。
ようやく念願叶って父親の書斎にある本を見せてもらった。
本はとても貴重で高価なものだ。
震える指でページを捲っていき、戦争という文字にピタリと指が止まった。
「いったい何があったの……」
息を詰めて、読み進めていくと、小人に私を殺せと指示したのは、どうやら私の異母妹エレノアだったようだ。なんて大罪を犯したのだと、逡巡しながらも、最後に見た異母妹の顔を思い浮かべ、やりかねないと、それが史実であることを観念するしかなかった。
歴史だけがすべてではない。
必ずしも書物に書いてあることが正しいことではないということはわかっている。
そこには虚構や誇張があり、書いてある通りに受け取らないほうがいいだろう。
しかし、デルクが小人との戦いで死に、そしてその長男が、まだ若くして王となったということは事実だろう。
そして、そこでもまた波乱があったことは想像に難くない。
イシュラスはエルファーンに滅ぼされ、大地は火の海になったという。
虐殺王ロアン。
それは未だに畏怖された存在であった。
いったい何万人の民が死んだのだろう。
――私のせいだ。
不用意に、あの小人に近づいてしまった私が悪かったのだ。後悔の念が湧き上がってきて、ぽたり、と本に涙がこぼれそうになってしまう。
私は何て罪深いことをしてしまったのだろう。
「どうしたんだい? アイーシャ」
「叔父様」
私を呼びかける声に、私はパタン、と書物を閉じた。
もう、あれから300年も経過しているのだ。
楽しい思い出も、悲しい思い出も過去の物になってしまった。
「忘れた、ほうが良いのよね、きっと……」
今も目を閉じれば思い出す。
デルクを愛し、愛された日々を。
あの輝きに満ちた、素晴らしい時を。
私が生きている限り、忘れることはないだろう。
前世の記憶に苦しめられて、1人泣いている時も、何も知らないお母様とお父様は全力で可愛がってくれた。
その2人を悲しませるようなことはしたくない。
私は、自分自身に区切りをつけたくて、この本を探し求めていたのだ。
『アイーシャは、私達の可愛い娘よ。貴方のためなら、何だってするわ』
どんなに、その言葉が嬉しかったかわからない。
そして、その言葉に気が付かされた事がある。
私にとって、デルクとの間に産まれた子供達が唯一無二の存在であったのと同じように、アイーシャの両親にとっても、娘である私は愛情を注ぎ込み、慈しむべき存在であるということを。
けれど、どんなに過去を忘れようと努めても、忘れることが出来ない。
その原因は、今の私の置かれている現状にあった。
「ただいま、アイーシャ。少し背が伸びたかい?」
優しい声が私を出迎える。
前世でも今世でも、私の愛する人が、そこにはいた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く
紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?
届かぬ温もり
HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった·····
◆◇◆◇◆◇◆
読んでくださり感謝いたします。
すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
白椿の咲く日~ひそかな恋、遠い日の思いは
紫さゆり
恋愛
結婚を控えた真由子は、久しぶりに異母姉の稚子(わかこ)と会う。
真由子の母の雪江は、大学教授であり著名な歌人の水上実之(みなかみさねゆき)の後添いとして水上家に嫁いだ。
婚約者の諒人(りょうと)のことなど、真由子は稚子と色々語り合ううち、庭の白椿の木は真由子がなついていた異母兄、靖之が植えたものだと知る。
白椿の木をめぐっての、ひそかな大人の恋物語です。
遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)
スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」
唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。
四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。
絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。
「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」
明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは?
虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる