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最終章 ~本編に入らなかったお話~
1 王太子フランディル 1 (フランディル視点)
王族の王太子教育として感情を割り切り、これまで抱きたくない者を抱いてきた。剣術を習うかのように、精通を迎えると自然と閨教育が始まり受け入れるしかなかった。父も、若い頃は母と出会うまで受け入れたと言っていた。
私がそうであるように、閨担当のオメガたちも仕事として割り切ってくれていると、本気でそう思っていた。
閨を受け入れた家にはそれなりの報酬を与えている。そして何より本人の意思を確認して受け入れてもらっている仕事だ。少しでも私に抱かれることを嫌だと思うなら断っていい。それらの条件で後宮が閨係への打診を行っている。体だけの関係と納得して受け入れているのだから、役目が終わればそこで関係は終了。そういう契約だった。
これまでは、閨係とそれなりにいい関係を築いていた。
最初こそオメガを抱くにあたり、年上の経験豊富なオメガに指導をしてもらった。要点を掴んだその後は、ただ性欲を吐き出すときに呼び出し応じてもらう――そういう使い方になることを閨係は理解しているので、体の欲を発散する治療みたいなものだ。
互いに利益を得るためだけの相手。
だから、私自身に執着する者はいなかった。
皆職務を全うすると、王家直属の家臣に嫁入りしている。後宮から彼らのその後の話を聞く。家臣からも結婚後の嬉しそうな話を直接聞いていたので安心していた。もちろん彼らは私と嫁が結婚前に関係を持っていたことを知らない。全ては厳重な計画のもと行われてきたしきたりである。
しかし今年は新しい後宮官僚が後宮を任され、方針が変わってしまった。
シリルを嫁に迎える最後の閨係ということで、処女をいかに開花させるかという課題付きになってしまった。義務と言われれば従うのが王太子としての務めなので、今年の閨係に対していつもの閨担当とは違う接し方をしてきた。
それを仕事として割り切れないオメガがいることを、私は知らなかったのだ。
今年の閨係のアシュリー・ミラーは、ただ体を交えるだけではなく、彼からは様々な欲求を伝えられる。普通の貴族なら王太子にそんなことは許されないのだが、閨係として閨事に対する欲求を伝えることを後宮から許可されているので仕方ない。
それが今後嫁を娶る訓練だと言われれば、従うのが王家に生まれた者の義務。今思えば、やりたくない仕事をさせられたことにストレスを感じていたのかもしれない。
たった一月に一度のシリルとの逢瀬で、可憐なシリルを見たら癒されると同時にどうしても我慢ができなくなっていた。
それほどに私は、日々の疲れた心がシリルに癒されていたのだった。
私はとうに限界を超えていた。
後宮からは、アルファの私と二人きりで過ごしていたら何かしら影響を与えてしまうことからとの懸念から、結婚前にシリルの発情を促すことを禁止されていた。
王太子の嫁の条件は処女。
他にもいくつかあるが、シリルに関しては全く問題ない。処女を守ることだけが最優先事項だった。それは私からシリルを守るということ。
私は幼い頃からシリルのことが好きすぎて、精通を迎えるとシリルを求めてしまい苦しんだ。しかし結婚するまで処女でないと、王家へ迎えることができない。
シリルが発情を迎えてしまえば、それはシリルにとってとてつもない苦痛を伴うことになる。婚約者がいながら抱いてもらえないなど、発情を迎えたオメガでは辛いことだ。そう教えられてきたから、ずっと耐えてきた。
月に一度しか会えなかったのは、今考えると悪手であった。
貴重な逢瀬でシリルを見たら……愛する人を前にして性欲を抑えるなど、アルファにとっても辛いこと。それでいて相思相愛なのに抱けない相手。
だから、私は禁忌を犯してしまった。
思い余り、あの日シリルに口づけをした。
以前リーグからの報告では、この結婚は陛下からの命令でシリルは望んでいない――シリルは私に愛されていない。そうアシュリーに伝えていたと言っていた。
シリルは頭がいいから、アシュリーを宥めるために言ったのだろう。
そのアシュリーの報告を受けた直後、シリルへの想いが抑えきれず庭園で初めてのキスをした。
発情前のシリルに触れることは許されていない。二人で会える茶会は従者たちが見守る中で行われ、私とシリルが誰かの目の無いところに二人でいることはない。
もちろんキスをした場所にも従者がいた。シリルとの初めてのキスは誰もが見守る中行われてしまった。
そしてシリルに初めて愛していると伝えると、シリルはありがとうと言ってくれた。
私の愛の言葉に何の疑問もなく、快く受け入れていたのを見て、やはりアシュリーのことはそれほど気にしていない様子だとそう感じた。
昔から愛しているのはシリルだけ。私の愛を無条件に受け入れていいのは、シリルだけなのだから。自信を持って受け入れてこそ、私の未来の嫁だ。
私の行動から気持ちを理解してくれただろうと思い、それを機にシリルへの接触を積極的に図る。
シリルと口づけを経験した今だからこそ、わかったことがある――もう誰ともできない。
あの肌を……抱きしめた温もりを感じたら、もう代理などいらない。むしろ無理だった。シリルの柔らかい唇に、控えめに香る花のようなオメガのフェロモン。触れるたびに熱を帯びて、熱くなる体。
どうして今まで何も思わない者を相手にしてこられたのか、自分が不思議に思えた。義務だと言われればその通りだと、全て従ってきた。それが、そもそもの間違いだったのだ。今さら気づいて遅いとは思うが、もうシリル以外ではだめだった。
最近はアシュリーの行動のせいで、シリルが私と距離を取ろうとしている気がした。閨という王族の秘密を言っていないにしても、シリルの前にただの閨係が現れ、私たちの関係をほのめかしたのは契約違反だ。もう彼を閨担当にはしていられない。
期限の前だが、アシュリーとの契約は打ち切る。
アシュリーはところ構わずくっつき、よく私のクラスまで来ていた。もちろん学園内では私専用の部屋でしか相手にせず、公共の場ではいつもリアムが対応してくれていた。そういった行動の全てが私にストレスを与えていた。
あと少しでシリルを嫁にできるのだから、さすがに後宮は閨教育を終了と認めてくれるだろう。最後にとてつもなく面倒なオメガの相手をさせられたのだから、忍耐はついたはずだ。これからあの可憐なシリルだけを相手にできる。あと数か月なら、シリルとの口づけがあればなんとかやり過ごせるだろう。
私は今までの態度を改めて、積極的にシリルを誘った。
シリルを前に欲望を抑えきれなかった頃は、極力無表情を作ることで感情を抑えた。雄の顔になってしまうのを避けなければならない。私なりのシリルを襲わない対処法であった。
しかし唇を知った今、もう前のような興味のない顔などできるはずがない。結婚まであと少し、それくらいならもう欲望を隠さずにいてもいいだろうか。シリルを抱かなければいいだけだ。愛を伝えていくことを許してもらえるだろうか。
そんな考えから学園でもシリルを誘った。
しかし一度目は、シリルが貧血を起こして話せなかった。
その際アシュリーに付きまとわれている姿を見せてしまい、しまったと思った。
そして貧血のシリルを抱きかかえるリアムに嫉妬してしまう。私以外の男がシリルに触れることをどうしても許せなかった。しかし学園でアシュリーに騒がれるのを避けるため、その場は泣く泣くリアムに任せた。
アシュリーを別室に連れて行き、役目は終わりだと伝えた。
アシュリーは呆然としていたが、後宮に番いたいアルファを最大限に考慮してもらうように言い、彼を退出させた。アシュリーという人選は間違いであったと後宮に強く抗議するとともに、今後ミラー男爵家にもそれなりに制裁を与えるつもりだ。
それでもこの半年よく閨係を勤めてくれたと労いの言葉とともに、当初の予定通り彼が望むアルファと番えるように後宮には伝える。――アシュリー・ミラーのことは、そこで終わると思っていた。
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