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外伝 儚く散った公爵令息
2 シリルが見た夢は 2
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僕がバカみたいに大笑いして、リアム様の手を放し芝生に手をつきしゃがみ込む。
――間違っても、もう彼の手は取らない。
さすがにフランとアシュリーもこちらに気がついた。フランはアシュリーを置いて、僕の方へ駆け寄って来る。
そうか……フランは僕のことがこの時すでに好きだったんだよね。僕が心配をかければすぐに来る。どうして僕はずっといい子でいたんだろう――こんな簡単なことだった。
「シリル! どうした!? すぐに医師を手配しろ」
近くの従者に医師を連れてこいと言ったフランが、必死な顔をする。
僕は涙を流して笑っていた。リアム様は心配した顔をしているけど、さすがに気持ち悪いと思っているに違いないが、それでいい。今の内から僕に想いをかけないように、余計な心は排除しなくてはいけない。
二度目の生で僕たちが和解したあと、アシュリーが笑いながら「リアム様はかわいそうな人に弱いところがある」そう言っていたことがある。
だから僕は、リアム様から見てかわいそうなオメガになってはいけない
――少しも隙を作らない。
人生三回目、さすがにもうやることはわっている。だって、愛する一人のために僕は還って来たんだから。
ほら、彼が僕に駆け寄る。愛する僕のもとへ……心配なそうな顔をして。
僕はそんなフランに抱きついた。
「フラン!」
「えっ……」
フランは驚きながらも、僕を受け止めた。この時の僕らには抱擁は許されてはいなかったから、彼と直接触れ合うのは幼い頃以来だと思う。
「僕を選んで、お願い。もし今、あの彼を選ぶなら僕はもうあなたを愛さない」
「ど、どういうことだ」
「僕はあなたを愛しています。出会ったその日から、だからあなたが僕以外の人を抱くなら、その気持ちを継続するのは難しい。好きな人が自分以外のオメガを抱いて嬉しいオメガはいないよ? たとえ体だけだとしても」
フランとリアム様は、僕の発言に驚いていた。
「答えは? 僕があなた以外を愛する日が来ても、いいの?」
「だ、ダメだ! シリルは私だけだ」
「じゃあここで、あの彼の前で僕に求婚して。そうしたら今までの体の浮気は許します」
「体の浮気……」
フランいつまで「ばれてしまった、どうしよう」って顔をしているの。答えは一つしかないんだからね?
ちょっと虐めすぎたかな。そうだよね、この時はまだ十八歳で素人童貞の男の子だもんね。
「あなたが体の浮気を続けるなら、僕は今すぐ心の浮気をします。さすがに僕から婚約破棄はできないにしても、僕はあなた以外のアルファを心で好きになることはできる。ねぇ、僕の心は諦める?」
「婚約破棄? 心の浮気……他のアルファ、だと?」
フランが絶望的な顔をする。
こんな顔もできるんだ! ちょっと面白くなっちゃった。いいよね、これくらいの意地悪。だって、僕を散々傷つけてきたことにさえ気がつかないくらい、慣習バカな王太子なんだから。
「あなたが僕という婚約者がいながら、今まで沢山のオメガを抱いてきたことを知っています。僕がその反対のことをしたらどう思う? 僕の気持ち考えたことある? 好きな人が自分とは関係を持たずに、他の人と体を交えること」
「えっ、あっ、す、すまない! そんな風に考えたことがなかった」
フランが真っ青な顔をして、何かに気がついた様子。
「じゃあ考えて。僕が、たとえばリアム様と体を交えてみる? そうしたら僕の気持ちがわかるんじゃない?」
「リ、リアムと!?」
驚くフラン。
自分がやってきたことは、王太子の義務として王族の慣習として当たり前にすべきこと。だから疑問にも思わなかったフランだけど、僕はもうそんなこと許さない。凛とした態度を崩さず、フランを見る。するとフランも僕の想いの強さがわかったようだ。
「シリルがそこまで私の事情を知っていたことに驚いて……、私はそんなこともわからずにシリルを裏切る行為をしていたんだな。今まですまなかった。体の浮気という言葉を聞いて初めて理解した。私のしてきたことを許して欲しい。私は出会った頃からシリルだけだ、シリルだけを愛している」
「ふふ、そんな不安そうな顔で言われても説得力ないな」
リアム様は放置されたアシュリーのもとにいて、いつの間にか彼に寄り添っていた。きっとアシュリーがこちらまで来られないように監視をすることが先決だと思ったのだろう。
リアム様とアシュリーも、僕とフランの会話に驚いている。僕たちの異様な雰囲気に、周りは動けないでいる。あのアシュリーでさえ、固まったままだった。
アシュリーが今のこの時点でこの庭園に入ってこれたのは、後宮官僚が導いたからだった。だから王族関係者しか入れないところに簡単に入ることができた。
そして愛されていない僕からフランを奪うように唆され、あえて名前を呼んでここに入ったということを、2回目の生でアシュリーと茶飲み友達になった時に聞いた。
僕の嫉妬を引き起こす作戦だった。それで一回目の僕は見事それに乗ってしまった。
もう間違えない。アシュリー、安心して。この場でアシュリーの気持ちを折ってあげる。そうすることでアシュリーの勘違いからの暴走を止められる。それはつまりアシュリーの今後来るであろう断罪さえもチャラにできるんだから。
……アシュリー、今は辛いだろうけど初恋をこの場で終わらせてあげるからね!
フランは慌てて、僕に膝を折る。僕は彼を見下ろす。
「シリル・ゼバン殿。どうかこの私、ザインガルド王国第一王子、フランディルを生涯あなたの夫そして番として、側に居させてください。これまでの私の愚行をどうかお許しいただき、私と結婚してほしい。あなたを、シリルを愛しています。生涯この想いは変わることはない」
僕は何も答えずに微笑み、手をかざす。
そして彼は僕の手を取り、口づけをする。いまだ不安そうで、よくわからない笑顔を僕に見せるフラン。これは今まで僕に笑顔を見せなかったお仕置きだよ。でもこれで終わり! 僕は勢いよくフランに抱きつく。そして彼はよろけながらも僕を受け止めた。二人芝生に転がるが、僕は気にしない。
「フラン、大好き!」
「シリル!」
僕は仰向けになったフランに上から馬乗りして、そして言う。
「あなたを僕の生涯の夫として認めます」
そして上からキスをした。
これが二人のファーストキス。フランは驚きのあまり、受け取るだけのキスだった。彼ならそこから僕の口内を無遠慮に貪るのに……なにこれ。こんな清いキスできるんだ。まだ子供だもんね! それに僕から仕掛けたからかな? ふふ、してやったりだ!
「なんて顔しているの? ほら、起きて。ちゃんとフランからも僕にしてよ?」
「い、いいのか? それにその呼び方、覚えていてくれたのか?」
「うん、出会った頃の愛称だよね。ずっと殿下呼びしてごめんね。あと少しで結婚するしフランって呼んでいいよね? ずっとそう言いたかったの。フラン、大丈夫。僕たちなら結婚までだって乗り切れる。愛する方法は体だけじゃないからね。もう僕に寂しい思いをさせないで」
フランが泣きそうな顔をした。
この表情だけで、どれだけ僕のことを一人で耐えてきたかわかる。
この時点の僕は、アルファの十代の性欲を理解していなかった。だから彼を無邪気に求めすぎた。
僕がフランの苦悩を知ろうともせず、彼の我慢を限界まで引き上げた。僕を求めていけないことにフランは悩み、その対処法が僕に冷たくすることと閨係の体を求めることだった。
どうしてアルファである彼だけに、十代の苦悩を押しつけてしまったのだろう。ちゃんと話し合って、彼の苦しそうな顔を見て、聞いて、一緒に解決していけばあんな辛い経験をお互いにしなくて済んだのに。僕はこの時点まで何もしてこなかった。それぞれが自分のためにした行動が、互いを傷つけたそんな十代だった。
「あ、ああ、ああ、そう呼んで欲しい。ずっとそう呼んで欲しかった。そう呼んでと言ってしまったら私はシリルを我慢できず襲ってしまいそうで怖かったが、そう呼んでくれた今ならわかる。お互いに心が通じていれば大丈夫だ。そんなことも私は知らず、シリルに寂しい思いをさせていた」
僕はフランに手を伸ばすと、彼は僕の手を掴み芝生に座った。僕たち対面する。僕は改めてフランの胸の中に入り、下からフランを見上げた。そして顎にちゅっとキスをした。
「フラン、フランが口づけしてくれないなら、また僕から襲うよ?」
「シリル、シリル、愛してる!」
「ん、んん、んはっ、ふ、フラン」
いきなりディープなキッスが降ってきた。
はは、余裕のないフラン。その時、横目でアシュリーを確認すると、泣きながらリアム様に抱きついていた。彼はアシュリーを宥めているように見える。ここで彼らの新しい未来が始まるといいなと思い、僕とフランはずっとキスをしていた。
――そしてアシュリーの恋を完全に終わらせた。
その時のフランは、誰が見ても僕に執着しているのがわかる。フランはアルファとしてオメガの僕に欲情していた。
初恋が実った日だもんね、余裕ないよね、フラン。可愛いな、ズボンの膨らみから欲情しているのが見える。だから今まで僕に触れてこなかったもんね。
「ん、フラン、もう、もうダメっ」
「ダメじゃない、シリル。あなたが煽ったんだ」
「んちゅっ、でも、これ以上したら僕ヒート来ちゃうかもよ?」
「来たら、私が慰めてあげるからね」
キスをしながら話す。
「はは、僕の処女守らなくていいの?」
「守る、守るよ。私から守って見せる」
「頑張ってね、未来の旦那様!」
そんな会話をしながら、庭で僕たちはお互いに心を隠さずにずっとキスをしていた。そんな僕とフランに誰も入り込めない、僕たちの新たな始まりの日。
この始まり方なら、強引だけど誰も邪魔できない。策略もここで終わる。あとは僕が後宮を廃止してとお願いして、今後の閨教育も終わらせる。こんな嫁ぐ側にも辛い風習はもういらない。
今のフランならなんでも聞いてくれそうな気がする。結婚前までに、結婚を餌にフランを僕が教育しなおすんだからね!
その後は結婚まで処女は守られたものの、僕は愛する人と心が繋がりすぐにヒートがきた。
でもヒートのたびに、フランは抑制剤を飲みながら僕の蕾に触れることなく……ううん、蕾に指やフラン自身を挿入しないだけで、ぺろぺろと舐めていたけどね。それは許したよ。
とにかく挿入以外で僕をひたすら満足させてくれて、僕は処女を前にお口の処女を失った。フランの欲望を口内に含むことによって、愛するアルファの精を貰えたから、なんとか結婚前のヒートは後ろの処女を守りながら耐えることができたし、心が満たされていた。
初めからこうすれば良かったけれど、これは僕が二回この人生を経験しているからできること。
三回目は楽勝で、ただ愛に包まれたまま僕はフランのお嫁さんになれた。
そしてアシュリーはあの日を境に閨係を降ろされ、リアム様の希望もあり、彼に下賜された。あの二人も初めから上手くいった。
こんなすんなりと幸せを手に入れられる回帰があるんだと、僕はむふふと笑ってしまった。
――間違っても、もう彼の手は取らない。
さすがにフランとアシュリーもこちらに気がついた。フランはアシュリーを置いて、僕の方へ駆け寄って来る。
そうか……フランは僕のことがこの時すでに好きだったんだよね。僕が心配をかければすぐに来る。どうして僕はずっといい子でいたんだろう――こんな簡単なことだった。
「シリル! どうした!? すぐに医師を手配しろ」
近くの従者に医師を連れてこいと言ったフランが、必死な顔をする。
僕は涙を流して笑っていた。リアム様は心配した顔をしているけど、さすがに気持ち悪いと思っているに違いないが、それでいい。今の内から僕に想いをかけないように、余計な心は排除しなくてはいけない。
二度目の生で僕たちが和解したあと、アシュリーが笑いながら「リアム様はかわいそうな人に弱いところがある」そう言っていたことがある。
だから僕は、リアム様から見てかわいそうなオメガになってはいけない
――少しも隙を作らない。
人生三回目、さすがにもうやることはわっている。だって、愛する一人のために僕は還って来たんだから。
ほら、彼が僕に駆け寄る。愛する僕のもとへ……心配なそうな顔をして。
僕はそんなフランに抱きついた。
「フラン!」
「えっ……」
フランは驚きながらも、僕を受け止めた。この時の僕らには抱擁は許されてはいなかったから、彼と直接触れ合うのは幼い頃以来だと思う。
「僕を選んで、お願い。もし今、あの彼を選ぶなら僕はもうあなたを愛さない」
「ど、どういうことだ」
「僕はあなたを愛しています。出会ったその日から、だからあなたが僕以外の人を抱くなら、その気持ちを継続するのは難しい。好きな人が自分以外のオメガを抱いて嬉しいオメガはいないよ? たとえ体だけだとしても」
フランとリアム様は、僕の発言に驚いていた。
「答えは? 僕があなた以外を愛する日が来ても、いいの?」
「だ、ダメだ! シリルは私だけだ」
「じゃあここで、あの彼の前で僕に求婚して。そうしたら今までの体の浮気は許します」
「体の浮気……」
フランいつまで「ばれてしまった、どうしよう」って顔をしているの。答えは一つしかないんだからね?
ちょっと虐めすぎたかな。そうだよね、この時はまだ十八歳で素人童貞の男の子だもんね。
「あなたが体の浮気を続けるなら、僕は今すぐ心の浮気をします。さすがに僕から婚約破棄はできないにしても、僕はあなた以外のアルファを心で好きになることはできる。ねぇ、僕の心は諦める?」
「婚約破棄? 心の浮気……他のアルファ、だと?」
フランが絶望的な顔をする。
こんな顔もできるんだ! ちょっと面白くなっちゃった。いいよね、これくらいの意地悪。だって、僕を散々傷つけてきたことにさえ気がつかないくらい、慣習バカな王太子なんだから。
「あなたが僕という婚約者がいながら、今まで沢山のオメガを抱いてきたことを知っています。僕がその反対のことをしたらどう思う? 僕の気持ち考えたことある? 好きな人が自分とは関係を持たずに、他の人と体を交えること」
「えっ、あっ、す、すまない! そんな風に考えたことがなかった」
フランが真っ青な顔をして、何かに気がついた様子。
「じゃあ考えて。僕が、たとえばリアム様と体を交えてみる? そうしたら僕の気持ちがわかるんじゃない?」
「リ、リアムと!?」
驚くフラン。
自分がやってきたことは、王太子の義務として王族の慣習として当たり前にすべきこと。だから疑問にも思わなかったフランだけど、僕はもうそんなこと許さない。凛とした態度を崩さず、フランを見る。するとフランも僕の想いの強さがわかったようだ。
「シリルがそこまで私の事情を知っていたことに驚いて……、私はそんなこともわからずにシリルを裏切る行為をしていたんだな。今まですまなかった。体の浮気という言葉を聞いて初めて理解した。私のしてきたことを許して欲しい。私は出会った頃からシリルだけだ、シリルだけを愛している」
「ふふ、そんな不安そうな顔で言われても説得力ないな」
リアム様は放置されたアシュリーのもとにいて、いつの間にか彼に寄り添っていた。きっとアシュリーがこちらまで来られないように監視をすることが先決だと思ったのだろう。
リアム様とアシュリーも、僕とフランの会話に驚いている。僕たちの異様な雰囲気に、周りは動けないでいる。あのアシュリーでさえ、固まったままだった。
アシュリーが今のこの時点でこの庭園に入ってこれたのは、後宮官僚が導いたからだった。だから王族関係者しか入れないところに簡単に入ることができた。
そして愛されていない僕からフランを奪うように唆され、あえて名前を呼んでここに入ったということを、2回目の生でアシュリーと茶飲み友達になった時に聞いた。
僕の嫉妬を引き起こす作戦だった。それで一回目の僕は見事それに乗ってしまった。
もう間違えない。アシュリー、安心して。この場でアシュリーの気持ちを折ってあげる。そうすることでアシュリーの勘違いからの暴走を止められる。それはつまりアシュリーの今後来るであろう断罪さえもチャラにできるんだから。
……アシュリー、今は辛いだろうけど初恋をこの場で終わらせてあげるからね!
フランは慌てて、僕に膝を折る。僕は彼を見下ろす。
「シリル・ゼバン殿。どうかこの私、ザインガルド王国第一王子、フランディルを生涯あなたの夫そして番として、側に居させてください。これまでの私の愚行をどうかお許しいただき、私と結婚してほしい。あなたを、シリルを愛しています。生涯この想いは変わることはない」
僕は何も答えずに微笑み、手をかざす。
そして彼は僕の手を取り、口づけをする。いまだ不安そうで、よくわからない笑顔を僕に見せるフラン。これは今まで僕に笑顔を見せなかったお仕置きだよ。でもこれで終わり! 僕は勢いよくフランに抱きつく。そして彼はよろけながらも僕を受け止めた。二人芝生に転がるが、僕は気にしない。
「フラン、大好き!」
「シリル!」
僕は仰向けになったフランに上から馬乗りして、そして言う。
「あなたを僕の生涯の夫として認めます」
そして上からキスをした。
これが二人のファーストキス。フランは驚きのあまり、受け取るだけのキスだった。彼ならそこから僕の口内を無遠慮に貪るのに……なにこれ。こんな清いキスできるんだ。まだ子供だもんね! それに僕から仕掛けたからかな? ふふ、してやったりだ!
「なんて顔しているの? ほら、起きて。ちゃんとフランからも僕にしてよ?」
「い、いいのか? それにその呼び方、覚えていてくれたのか?」
「うん、出会った頃の愛称だよね。ずっと殿下呼びしてごめんね。あと少しで結婚するしフランって呼んでいいよね? ずっとそう言いたかったの。フラン、大丈夫。僕たちなら結婚までだって乗り切れる。愛する方法は体だけじゃないからね。もう僕に寂しい思いをさせないで」
フランが泣きそうな顔をした。
この表情だけで、どれだけ僕のことを一人で耐えてきたかわかる。
この時点の僕は、アルファの十代の性欲を理解していなかった。だから彼を無邪気に求めすぎた。
僕がフランの苦悩を知ろうともせず、彼の我慢を限界まで引き上げた。僕を求めていけないことにフランは悩み、その対処法が僕に冷たくすることと閨係の体を求めることだった。
どうしてアルファである彼だけに、十代の苦悩を押しつけてしまったのだろう。ちゃんと話し合って、彼の苦しそうな顔を見て、聞いて、一緒に解決していけばあんな辛い経験をお互いにしなくて済んだのに。僕はこの時点まで何もしてこなかった。それぞれが自分のためにした行動が、互いを傷つけたそんな十代だった。
「あ、ああ、ああ、そう呼んで欲しい。ずっとそう呼んで欲しかった。そう呼んでと言ってしまったら私はシリルを我慢できず襲ってしまいそうで怖かったが、そう呼んでくれた今ならわかる。お互いに心が通じていれば大丈夫だ。そんなことも私は知らず、シリルに寂しい思いをさせていた」
僕はフランに手を伸ばすと、彼は僕の手を掴み芝生に座った。僕たち対面する。僕は改めてフランの胸の中に入り、下からフランを見上げた。そして顎にちゅっとキスをした。
「フラン、フランが口づけしてくれないなら、また僕から襲うよ?」
「シリル、シリル、愛してる!」
「ん、んん、んはっ、ふ、フラン」
いきなりディープなキッスが降ってきた。
はは、余裕のないフラン。その時、横目でアシュリーを確認すると、泣きながらリアム様に抱きついていた。彼はアシュリーを宥めているように見える。ここで彼らの新しい未来が始まるといいなと思い、僕とフランはずっとキスをしていた。
――そしてアシュリーの恋を完全に終わらせた。
その時のフランは、誰が見ても僕に執着しているのがわかる。フランはアルファとしてオメガの僕に欲情していた。
初恋が実った日だもんね、余裕ないよね、フラン。可愛いな、ズボンの膨らみから欲情しているのが見える。だから今まで僕に触れてこなかったもんね。
「ん、フラン、もう、もうダメっ」
「ダメじゃない、シリル。あなたが煽ったんだ」
「んちゅっ、でも、これ以上したら僕ヒート来ちゃうかもよ?」
「来たら、私が慰めてあげるからね」
キスをしながら話す。
「はは、僕の処女守らなくていいの?」
「守る、守るよ。私から守って見せる」
「頑張ってね、未来の旦那様!」
そんな会話をしながら、庭で僕たちはお互いに心を隠さずにずっとキスをしていた。そんな僕とフランに誰も入り込めない、僕たちの新たな始まりの日。
この始まり方なら、強引だけど誰も邪魔できない。策略もここで終わる。あとは僕が後宮を廃止してとお願いして、今後の閨教育も終わらせる。こんな嫁ぐ側にも辛い風習はもういらない。
今のフランならなんでも聞いてくれそうな気がする。結婚前までに、結婚を餌にフランを僕が教育しなおすんだからね!
その後は結婚まで処女は守られたものの、僕は愛する人と心が繋がりすぐにヒートがきた。
でもヒートのたびに、フランは抑制剤を飲みながら僕の蕾に触れることなく……ううん、蕾に指やフラン自身を挿入しないだけで、ぺろぺろと舐めていたけどね。それは許したよ。
とにかく挿入以外で僕をひたすら満足させてくれて、僕は処女を前にお口の処女を失った。フランの欲望を口内に含むことによって、愛するアルファの精を貰えたから、なんとか結婚前のヒートは後ろの処女を守りながら耐えることができたし、心が満たされていた。
初めからこうすれば良かったけれど、これは僕が二回この人生を経験しているからできること。
三回目は楽勝で、ただ愛に包まれたまま僕はフランのお嫁さんになれた。
そしてアシュリーはあの日を境に閨係を降ろされ、リアム様の希望もあり、彼に下賜された。あの二人も初めから上手くいった。
こんなすんなりと幸せを手に入れられる回帰があるんだと、僕はむふふと笑ってしまった。
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