運命の番は姉の婚約者

riiko

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第三章 仮初の関係

30 突然の訪問

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「でも、三上君が本社の人と付き合っていたなんて、知らなかったなぁ!」
「えっ、なんですかそれ? 他の誰かと間違えていませんか?」

 会議室に呼ばれたので、主任と一緒に歩いていた。そしたら、急に変なことを言われて意味がわからなかった。どこかのオメガと間違えたのだろう。

「隠さなくていいよ。週末から君に着拒されたと嘆いていて、急遽、営業部と一緒にここにくることになったんだって。ほらオメガ寮に、さすがにアルファは入れないでしょ? でもいったいどんな喧嘩したの?」
「それって……」

 なんで隆二にしたことを今言われている? 困惑した顔をしていると主任が続けた。

さかき副社長が君に骨抜きだって上層部が大慌てでね。そんな君を工場勤務にはさせられないってことになったし。それに妊娠したんでしょ? おめでとう」

 さかき……、榊副社長って? 妊娠って。

 隆二のことを、相原は榊と言っていた。俺からは聞いたことはないけれど、それが隆二の名字なんだなと思った記憶がある。だから、あいつは榊隆二さかきりゅうじで間違いはない。

 もしかしてあいつは、アルファってことを隠していただけじゃなくて、ここの会社役員だった? そして今、隆二がアルファだと確定した。

 主任と長い廊下を歩いている今、ここで足元から崩れそうになった。

「でも、凄い大物と! 榊副社長は若いけど、オメガ改革の案が認められてね。就任してすぐに、政府のオメガ保護法会議にも参加されている大物だよ。ちょうど前任の副社長の不正もあって、会社のクリーン計画も含めて、他社で実績のある榊氏が引き抜かれて、会社のイメージを変えたんだよ」
「そんな、人……なんですか?」

 たしか、身内の会社に転職したと言っていた。もしかして榊って……。

「あれ、そういう話は恋人同士ではしないもの? まぁプライベートな時間に仕事の話はしないか! 榊家の次男で、このたび実家の会社である我が社に入社してくれたんだよ。会長も大喜びだって聞くよ」

 主任が何も知らないからか、ただの恋人のエピソードを教えてくれるかのように、フクシャチョウという人の経歴やら、尊敬しているだとか、なんとか話しながら、廊下を歩く。

 俺の勤める会社が、創業一族……というのはもちろん知っていた。しかし工場勤務のオメガに本社の事情など知る必要もないので、前副社長の不正だとか、副社長が変わったとかいう話は知っていても、どういう人がなったかまでは興味が無いので、情報を拾ってこなかった。それが、まさかの、隆二が副社長だったなんて!

「工場に副社長が来たって、みんな驚いていてね。一応本社からの視察と一緒に、君に会う口実にしたみたいだけど。だからたくさんのアルファが今ここに来ているんだ。さすがに副社長が一人で工場視察は、ないからね」

 微笑ましそうに主任がそう言った。いや、全く持って、微笑ましい話ではない。仮に榊副社長が隆二なら、公私混同もいいところだ。というか、俺は隆二に会う決意は固まっていない。つい数日前別れを言った相手になんて、会えない。そして、自分をベータだと嘘をつき続けた相手。

「もしかして、俺に来客って、副社長……ですか?」
「そうだよ、会議室で待っている。もう許してあげなよ? アルファがあんなに折れているんだから」
「俺、今日早退します。ここで失礼します」

 やばいと思った。

 俺はこの先に行ってはいけない。瞬時に判断してその場を去ろうとしたら、もう向こうにはあいつが見えた。しかもいつも見るラフな格好じゃなくて、スリーピースのスーツをきっちりと着こなした極上のアルファとして立っている。会議室までまだ距離があるのに、こっちに向かってきた。主任が驚いていたが、俺はその場を走って逃げた。

「あっ三上君!」
「爽!」

 逃げる前に速攻でつかまる。足まで早いのかよ。ムカつく。そして主任もいるし、スーツを着た男達もわらわらと周りにいた。そんな中、俺を捕まえて抱きしめてきた。

「急に走ったらダメだ。お腹に触るよ」
「……離してください」

 俺は抵抗した。少し前なら、その胸に喜んで囲われるけど、今はそうはいかない。

「爽、会いたかった」
「……」
「つなぎ姿も可愛いね」

 抱きしめられている腕を解こうと必死にもがいたけど、全く歯が立たなかった。そしたら俺を抱きかかえて歩き出した。主任に俺のことで指示を出していた。いったい何が。

「悪いが、この子は今日付けで退職になる。三上の穴は早急に対応するように本部の人間に人員も任せるといい。今日まで僕の愛しい子の面倒を見てくれてありがとう」
「えっ……」

 抱かれていることに驚く暇もなく、俺は退職させられた。

「それから、妊娠のことはまだ内密にしてくれ。大事な榊の跡取りだから、慎重に進めたい」
「もちろんです。副社長、三上君を幸せにしてあげてください。本当にいい子なので副社長がお相手で嬉しいです。三上君も今までよく頑張ったね」

 その言葉に主任もいい人なのか、俺のことをお願している。この拉致している状況が見えていないらしい。

「えっ、ちょっ、主任!」
「爽、さあ僕の家に行こう。その前に病院かな」
「何言って……降ろしてください!」

 会社を出て車に乗せられた。今まで乗ったこともないような高級車、運転手付き。俺たちを乗せてすぐに動き出した。

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