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第三章 幸せへの道
48、上條桜 8 (桜 side)
しおりを挟むそして問題は次々に起きた。
昔の良太を知る男が現れた、しかもアルファ。
俺は、誰にもなびかない良太がそんな男といるのが許せなかった。ある日、忍から良太がアルファ寮への入出許可証を取ったというのを聞いた。それを知った俺はそのアルファを調べた。
なんの変哲も無い男だ。では、なぜ? 焦る俺はいつもより早めに寮に戻り良太を待った。
そして問い詰めると、その男は良太の小学生時代の友人だったという。良太は母親を亡くしその学校を辞めた、だからそれ以来の再会だという。
昔の良太を知る男。
俺の予想では、良太の調べられなかった空白の数年間をそいつは知らないのではないか? きっと彼は今の良太を驚いたのではないだろうか。
アルファへ対する不思議なくらいの警戒心と人を信じない心。
そんなのが子供の頃からなのだろうか? もし違うのであれば? 良太の子供時代の性格を知るなら、その男に話を聞きたい。
幼い頃の良太の話を。俺の知らない良太を見てきたなら許せないが、今は俺のものであることを示そう、いや、通常のアルファなら、もう良太の匂いで誰のものかわかっているはず。
それなのに部屋に入れるのは下心ではなくて、本気なのか? まずいな、すぐに手を打とう。
翌朝、そのアルファを問い詰めた。
やましい気持ちでは無く、本当に心配しているというのが伝わった。良太が急に居なくなって心配したが、子供の力ではどうしていいかわからずそのままだった、だからこの学園で見た時は驚いたと。
そしてやはりだが、良太の変化に当初は気づかなかったのだそうだ。それほど、幼い頃とは雰囲気が変わっていたらしい。だが話していくと、すぐに昔の良太が見え隠れしていたと。活発で元気なガキ大将のような子供時代、想像もつかない。
そんな雰囲気を、俺には見せてない昔の姿を、今現在この男に見せたのか! これからも友人として付き合っていくと言われたので、俺は寮には呼ぶなと命令した。少し訝しげられたが、生徒会長命令に背けるわけがない。
だが、心配でそれからも良太の行動を見張ると、その友人アルファと楽しそうに昼ごはんを中庭で食べていた。周りも少し驚いていた。俺の匂いがついている良太と二人きりになるアルファがいるのと、笑わない優等生、良太の笑顔に。
良太は学園であんな風に笑うことはない、微笑むくらいはするけど、あんなに声を上げて。俺の前でも見たことない。
俺は悔しくて、憎くてたまらなかった。
その時ちょうど、忍といたからなんとか耐えた。忍が寸前のところで止めてくれたから。一人で居たらあの場でフェロモンを出して、あの男を狙って意識を混濁させただろう。改めて自分の独占欲を感じた。
俺は急いで手を打った。
良太にはアルファの部屋には行くなと言ったけど、外で会われてしまったら取り締まる理由が見つからない。俺は懇意にしていたオメガ、いわゆるセフレだった男を呼び出し、彼を誘惑するように命令した。
付き合って束縛し他の人間を近づけるなと。
そのオメガは俺に従順なので、すぐにその男を誘惑し、その日のうちに堕としてくれた。良太の元友人は男気のある雰囲気だったが、オメガの方が一枚上手であり、発情誘発剤を使用し無理やりラットを起こさせて体を繋げた。もちろん番防止首輪はつけていたので番にはなっていない。
オメガは初めてを奪われたと泣いて、ずっと好きだったと告白したらしい。そのオメガ、俺の手垢が付いていて初めてじゃないけどな?
彼は責任を感じて、ハニートラップだとも知らずにそのオメガと付き合うことになった。その夜、良太を見ると少し寂しそうだった、せっかくの心許せる友人がもう会えないと言ってきたのだから、そうなるだろう。
ごめんな、良太。でもその隙間は俺が埋めてやる、いや、俺しか入れないようにしてやるからな、寂しいなんて思いは絶対させない。そう誓った。
良太への独占欲が日に日に高まる。
良太は多少、いや、だいぶ鈍いのでその独占欲にも気づかない。
俺の束縛は、ベータにはわからないアルファの考え方だと捉えていて特に気にすることもなく、まあ性格的に興味のないことはどうでもいいという観点からであろう、ベータがアルファを理解する必要がないと思い、肝心なところや俺の愛の囁きは完璧にスルーする。
そうすることで余計な苦悩を感じないようにする、今までの人生であみだした処世術なのだろう。寂しいが、勘づかれて避けられるよりは良いのか? それでも俺なりに精一杯のアピールをしていた。
しかし、その独占欲が公衆の面前で発揮する時が来てしまった。
良太は生徒会のオメガに、俺と付き合っているのだろうと言われて完全否定した。
隠しきれない、というか隠してない保護欲をみんなは見ていたから、生徒会ではもう二人は付き合っている認定だったのだ。
今までそういう目で見られていたのさえ、気づいていなかったようだ。それも可愛いなと思っていた。
問題の夏休みまではまだ少しあるし、周りは気にせず、じっくり落としておこうと思っていたところだった。しかし完全否定した後、自分には彼女がいると言った。
俺は衝撃を受けてしまった。
顔も知らない婚約者のことをそんな風にいうのか? 確かに婚約者はアルファ女性だった。もしかしてもう対面は済み、付き合いが始まっていたのか!?
わからない。
すぐに問い詰める必要があるので、俺はアルファのフェロモンを出し、みんなを退出させた。俺のフェロモンを感じた生徒会役員たちはこの話を誰にも広めないだろう。
良太の話を聞きつつも、俺は怒りを抑えきれず、もうダメだと思った。
そんな調査報告はあがっていない。だが聞けば相手はオメガだと!? しかも毎週会っていた!? そういえば俺のアルファフェロモンを嫌がる人間が岩峰の家にいると言っていた、だが息子はまだ三歳、アルファフェロモンがわかるはずがない。だとすると岩峰の家にいる家政婦か? 全くのノーマークだった。良太も年頃の男だ、恋人がいないなんて、なんで思ってしまったのだろう。
今まで少しずつフェロモンを浴びせてきたが、俺は怒りに任せ、初めて動けなくなる程の量を良太へ向けた。もう時期は来たのだ、今夜発情を促す。
本当は同意をとって、少しずつ俺を意識させ番にしたかったが、そんなことは言っていられなくなった。
良太が意識を失うと、抱きかかえ生徒会室を出た。そこで待機していた忍にも良太のフェロモンを感じ取れたらしい。
そうだろう、良太は今、オメガになった。
そして、今夜俺のオメガになる。簡単に発情期中のことを頼んでおいた。前々から忍には言っていた、良太のオメガ化と共に番にすると。
学園には運命の俺と過ごし、ベータからオメガへ変化した突然変異型であったと言っておけと。
そして発情休暇に入ったら、それとなく生徒たちに噂を流しておくように指示した。ここの生徒は、運命という話が好きだ。この学園に今在学中で運命の番はいない。
だからこそ、みんなの憧れになる。
そう、良太が番という事実を否定した時、それを隠せなくなるように、社会的にも認められている、学園という檻を作るのだ。
二人の部屋へ戻ると、良太はまだ、ぼうっとしていながらも発情はしていない。
今のうちに食事を与え、発情で疲れるだろう体を弛緩させるためにゆっくりと風呂にもいれた。
そして風邪薬だと言い、発情促進剤を飲ませた。良太が眠たそうなので少し休ませるよう、ベッドに寝かせた。
眠りに就いた良太を確認すると、俺は良太の発情に備え水や食料など準備に取り掛かった。
次に目覚めた時、良太は発情する。
楽しみだ、ああ、やっとこの時が来た。
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