ローズゼラニウムの箱庭で

riiko

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第四章 番

84、夏休み 7

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「わ――、海、広い、大きい!」

 俺は感動していた。海水浴場はシーズン中ということもあり人で溢れていた。でもこれぞ夏休みって感じで嬉しかったし、海がずっと広がっていて驚いた。

「はは、なんかの歌みたいだな。子供みたいにはしゃいでくれて嬉しいよ、連れてきた甲斐があった」
「あっ、すいません。実物初めてで……。感動しちゃって」
「気にするな。そんなに素直に喜ぶ良太を見られて、俺も感動しているところだから」
「ふふ、先輩ありがとうございます。本当に嬉しい」

 二人で用意されたパラソルの下に座って少し話をしてから、海に入ろうと手を繋がれて水際まで歩いた。その間も先輩は周りの女性から憧れの目で見られていた。

 そりゃそうだ。こんな肉体美を見せてつけやがって! いつもよりもさらに何割り増しだってくらいカッコいいじゃないか。そんな男を見ない女はいないだろう。明らかにオメガという男の子も羨ましそうに俺を見ていた。オメガだったら俺がこの人のつがいだとか、わかるのかな?

 隣にいるのが何故か完全防備している付き人? 迷子の子供? そんな風にしか見えない俺だ! かたや俺のつがい様は、今日も立派な肉体美をさらしている。

 先輩は昨日、俺たちはつがいには見えないって言っていたけど、今の格好はともかく普通の服装だったら男同士で手を繋いでいる時点でそんな心配ないじゃないか?

 先輩の俺を見る目の熱さから、俺はやっぱり恥ずかしくて、先輩を見られない。手を引かれているのが精一杯だった。アルファの奴隷くらいに見られている可能性もあるかな……。

「良太どうした? 下ばかり見ていたら海が見えないよ?」

 先輩がいつもの距離で俺を覗き込んできた。周りに人がいるのにそのままかがんで、チュって軽いキスをした、驚いて思わず先輩の目を見た。

「!」
「ああ、ごめんね。なんか可愛くて我慢できなかった。海を歩く良太もとても素敵だよ。あぁそんな真っ赤な顔して、ここはいろんな人がいるんだよ? 可愛い顔をよそで見せないでねっていつも言っているだろう」

 くすって笑って何事もないかのように、いつもながら理不尽なことをさらりと言ってくる。

「…だったら、外でそういうことやめてください。恥ずかしい」
「ふふ、気をつけるね。嫌じゃなくて恥ずかしいだけなんだね、良かった」

 周りの人も見ている。こんな極上アルファが平凡な俺にキスをしているんだから、俺、この海で誰かに刺されてしまうんじゃないかなって不安になる。周りからの俺への目線が怖いもん。

 そんなことを思って歩いていたら、砂浜に海の水が入るところまで移動していた。そして初めての海に足を入れてみた。

 もちろん、先輩に手を繋がれながら。だって、怖いじゃん? でも、ゆっくり一緒に水の中に入って先輩が俺のビビりを笑いながら、それでもちゃんと付き合ってくれた。ちょっと冷たくてひんやりしたけど、外の暑さと海のぴりっとした感じが気持ちいい。

「は――。すごい、僕、海に入った……あっ、波があたる……」

 思わず握りしめている手に力を入れて、先輩を見上げて感動を伝えた。押し寄せる波の白に俺はビクってなった。そしたら先輩は俺をギュって両腕で掴んで抱え上げた。

「大丈夫だよ。ほら、怖かったらこうやって俺が抱っこしてあげるから」
「あっ、恥ずかしい。僕、子供じゃないし大丈夫ですよ、あっ」

 と言いつつも不安定なところで抱っこされて怖くてしがみついた。俺から抱きしめる形になってしまったら、先輩が首元にチュってして俺をしっかり受け止めた。

「可愛いな、良太は本当に可愛い。俺のつがいでいてくれてありがとう」
「先輩……」

 こんな海のど真ん中で抱っこされて、抱き合って、極上のアルファがオメガの首にキスをする。って、恥ずかしい! ドラマのワンシーンさながらな演出! こんな公衆の面前でイチャイチャしなくてもいいじゃないか!

 俺が海にビビっているからだろうけど、でも、先輩は目立つんだからどうしたって隣にいる俺にも人様の視線はくるわけで。ここで動揺してはいけない! 俺は平常心を保った……つもりだが、赤い顔はほっといてもらおう。

「先輩、もっと先まで歩いてみたいです。降ろして?」
「ふふ、赤い顔は日に焼けたからじゃないよね?そんな顔をいつまでも他の奴に見せられないから、そろそろちゃんと海を楽しもうか」
「そ、うですよ。外で恥ずかしい、先輩も海を楽しみましょう」

 それから初めての海水浴を楽しんで、浜辺に戻ると濡れた足に砂が絡むのが不思議な感覚でそして砂も暑くて。おどおどしていたら、先輩が俺をお姫様抱っこしてパラソルまで戻った。

 どこまでも恥ずかしい。降ろしてって言ったけど、良太の足に何かが刺さったりしたら大変だって言って降ろしてくれなかった。やっぱり周りからの憧れのような目とか耐えきれなくて、俺は先輩の胸に顔を埋めて耐えた。そしたら先輩は満足したのか、可愛い可愛いって連呼してゆっくりと歩いていた。

 パラソルに戻って、先輩に足を拭かれて、周りに見えないようにさっと濡れた上着を脱がされて、フワっとした薄手のパーカーを被された。自分はさっとタオルで拭いただけなのに、俺のことは丁寧に扱う。至れり尽せりだった。

 俺の身支度が整うと、ホテルの人かな? きちんとした格好の人がとっても豪華なジュースを運んできた。今まで飲んだこともないような美味しい飲み物だった。楽しいな、海、すごい、すごい、そんな感動したような顔をして座っていたら先輩に笑われた。

「良太は何も喋ってないのに、何考えているか今すごくわかったよ。喜んでくれて良かった」
「あっ先輩、あれ、何? 人もたくさんいるし、なんか楽しそう」
「ああ、ビーチバレーしているみたいだね」
「ビーチバレー? あっ、それテレビで見たことあります! 楽しそう!」
「そうか、良太は興味あるのか」
「僕は運動からきしダメなので、やりたいとは思いませんが、見ているのは凄く好きです。かっこいいし」
「……よし、行ってみるか」

 先輩は何か考えているようだったけど、俺は連れて行ってもらえることに喜んだ。今度はビーサンも履いているし、ちゃんと歩いた。でも手を繋ぐのは必須のようだ。そしてそこにたどり着くと、目立ちすぎる先輩に視線が集まる。

 そして数分後、なぜか先輩がチームに入れてもらって、ビーチバレーをプレイしている。

 「……なぜ」

 俺は観客席に座り、それを眺める。

 でもカッコいい、そしてなんでもできるなって感心した。

 先輩が汗を流して炎天下の中プレイをしている。そんな必死な姿を学園で見たこと無かったから新鮮だったし、俺は見惚れてしまった。周りの声援も凄い。先輩はゴールが決まる度に俺に向かって笑顔で手を振る。俺もそれに答えて軽く手を振ってみる。そうすると周りに座る女の子達も一斉に、手を振り黄色い声援だ。

 みんな自分に微笑みかけてもらったと喜んでいた。女の子って可愛いなって、俺は優しい目で見ていた。その視線に気が付いた一人の女の子が話しかけてきた。

「あのアルファめちゃくちゃかっこいい! 君も彼を見にきたの?」
「えっ、あっ、ビーチバレー見にきた」

 水着の女の子に俺はドキドキしてしまって、思わず曖昧すぎる返しをした。水着ってよく見たら、いやよくは見てないけど下着のような形? 女の子の下着は知らないけど。これは好きな子がそんな姿を晒していたら、男はそわそわするだろう。それにしても、俺は男、先輩は俺を女と勘違いしてないか? 女の子の水着姿と違って、どう考えても男の水着なんてやらしくもなんともない。

 隣の女の子と話している時もふと先輩のことを考えていた、そしたらプレイ中にもかかわらず先輩が俺に向かってきて、そのまま座っている俺の手を引いて、キスをした。

「へ?」
「あともう少しで終わるからね、浮気しないで待っていてね」

 俺を抱きしめたまま、隣の女の子にも微笑みかけて優しく話していた。

「俺の恋人、女の子に免疫ないからあまり刺激しないであげてね」

 その子はもちろんです! そう言って、むしろ先輩に話しかけられて大満足そうだった。そして先輩はありがとうって言ってビーチコートに帰った。

「君の彼氏だったのね、君、可愛いもんね」
「………」

 女の子にまで可愛いって言われて、俺は少しヘコむ。一生女の子を抱くことはないんだろうなって、オメガの自分を自覚したところだ。

 それに先輩、恋人って言っていた。

 なんか恥ずかしい。俺のオメガとか、つがいとかって 、なんか所有物みたいで嫌だったけど、恋人ってなんだかくすぐったい。俺はかなりドキドキしていた。隣の女の子へのドキドキと全然違う。

 なんだろう。
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