ローズゼラニウムの箱庭で

riiko

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第六章 本心

129、三度目の正直 2 ※

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 先輩は、俺を後ろから抱きしめて座っている。その間も俺のうなじを舐めたり嗅いだりして、なんともくすぐったい気持ちになった。

 うなじの匂いを確認して、そろそろ発情期入りそうだなって。

「僕の発情期、マンションに籠るとか迷惑じゃありませんか? 僕、少しの間なら薬で抑えればいいし、先輩もこの時期忙しいのに、授業とか、生徒会とか、僕のせいで行けないのは申し訳ないし」

 好きだから、本当は全ての時間を独占したい。でも、最近の俺はあまりに好きを出しすぎて、ウザがられても怖いし、どうしたって発情期の最中はわがままオメガになるんだから、少しは控えめにした方がいいかもしれない。

つがいの発情中に、発情を共に過ごす以外するわけないだろう? 知らないかもしれないが、俺は結構優秀なんだよ、だから一週間まったく居なくたってなんの問題もない、ああ楽しみだな」
「ふふっ、先輩が優秀すぎる人だなんて、この学園で知らない人なんていないですよ。それにオメガに人気なスパダリ? ていうのも僕は知ってます」

 安心した。先輩は望んで俺といてくれる。

 俺は後ろから抱きしめてきている先輩の腕をぎゅっと掴んで、背中を先輩の胸にくっつけて体重を預けた。

「そんな言葉、良太がよく知ってるね。真面目な良太からそんな言葉を聞くと興奮する」
「クラスによく遊びに来るオメガの子が言ってたんです。先輩みたいになんでもできる人をスーパーダーリンって言うんだって! 恥ずかしいけど、僕にとってはそれ当てはまるからしっくりきました」
「そう言ってもらえるならもっと頑張らなくちゃな、良太のつがいとして」 

 俺はふっと笑って答えた。

「それ以上、頑張られたら僕困ります。どうかもうかっこよくならないでください。僕を不安にさせないで。先輩の弱みを握れるくらいには、先輩の弱い部分を僕も見てみたい。僕ばかり先輩に翻弄してる……」
「それは違うよ。俺は良太に好かれようと必死だし、良太が離れていかないように、俺の方が翻弄されている。誰もが知ってるんだけどね、俺の弱点は良太だよ」
「えっ?」

 俺そんなラスボスみたいな存在だったっけ? とっさに後ろを向いて、先輩の目を見てわからないという顔をしたら優しいつがいは笑っていた。

「アルファにとっての一番の弱みはつがいだよ? だから企業のトップたちは自分のオメガを一人で出歩かせない。何かあったら仕事どころじゃなくて会社は傾く。俺は良太が拐われたらきっと弱ってしまうし、まともな判断もできなくなる」
つがいを持つってすごくリスキーなんですね。リスクを背負うのは、解除をされる恐れのあるオメガだけかと思っていました」
「アルファは優秀みたいに言われているけど、つがいがいないと何にもできないダメ人間なんだよ? 良太のために頑張らなくちゃって思うけど、つがいがいなかったらやる気出なくて会社も潰していたかもね? 俺は良太に出会えてとても感謝している」

 俺は先輩の真剣な目を見て、なんて言葉を言っていいかわからなくなった。

 先輩に向き合って自分の腕を先輩の首に回してから、唇を先輩の唇に近づけて、触れ合うか触れ合わないかくらいの位置で、好きって言って。

 そのままキスをした。

 チュっとした軽いキスをしたつもりが、先輩の腕に力が入ってぎゅっと抱きしめられ、唇を離そうとしたら、逆に先輩から濃厚なキスが返ってきた。唾液を絡め、舌を吸われ、俺の気持ちのいい場所を舌でノックする。

 言葉が詰まった時、キスをする癖を覚えてしまった。

 アルファにどんな言葉をかけたら正解なのか知らないし、愛しいを表すのにキスは俺の拙い気持ちが伝えられるツールであった。それを先輩も感じ取ってくれているのだろうと思う。俺のキスにそれ以上のキスをいつも返してくれる。

 好きで、愛おしくてたまらない。

 アルファが弱いなんて嘘だ。オメガの方が絶対弱い。こんなキスを今後くれなくなるって思うだけで悲しくなって、何もできなくなるのはオメガの方だ。

 いや、惚れた方の負けかもしれない。

「良太、なんでそんなに泣きそうな顔をするの? いつもは気持ちいいって顔してくれるのに」
「気持ちいいです、でもオメガがいないとダメなんて信じられない。今だって、僕の方が弱い」
「ん?」
「先輩は初めから僕に対する態度は同じだけど、僕は先輩がどんどん好きになってくし、弱くもなってく。強がってあえて人を信じないように生きてきたのに。もし今後、先輩が僕を捨てることになったら僕はきっと……」
「捨てるなんて絶対にない。俺といることで不安になる必要なんて一つもないよ、お前はただ俺を信じて一緒にいてくれればいい。そんな切ない顔をしないで……愛してる」

 勝手に出てきた涙を、先輩が唇で拭ってくれる。

 結局、つがいのアルファに愛されればなんの不安もなくなるし、そんなこと考える暇もないくらい快楽に飲まれる。確実に先輩との別れは来るのだから、決まった未来を憂いてもしょうがない。

 今この時、この男に愛されている。

 その事実だけを受け止めて、来るべき未来など来てから悩めばいい。
 
 俺の力もふっと抜けて、そのまま先輩にもっとってねだった。ねだらなくても流れで抱いてくれるのはわかっていたが、自分も望んでいるという意思を伝えたかった。

「先輩、好き。なにも不安がなくなるくらい、僕をめちゃくちゃにして?」

 赤い顔をして、精一杯の誘いの言葉を言ってみた。先輩は了解って、いつも以上にスムーズに俺の服を脱がせ始めて少し硬さをだしていた俺のペニスを口に含んできつく吸ってきた。我慢もできずにすぐに達してしまい、先輩は口の中でそれを受け止めるとゴクリと飲み込んだ。

「はずかしい……そんなこと、しなくていいのに……」
「何度しても良太は真っ赤な顔するね? 可愛いな。発情期に入ったら良太はそんな恥じらいも見せずに、俺のこと求めてくれるんだよね。いつもの良太も控えめでとても可愛いけど、発情期の乱れた感じもたまらないな、楽しみだ」

 俺の太ももを舐めたり、撫でたりしながら、話を続けていた。恥ずかしくて、くすぐったくて、達したばかりなのにまた硬さが戻ってきてしまった。

「はん、ん。……先輩は、僕の発情期のあの醜態、嫌じゃないんですか? 僕は何一つ覚えてないけど、先輩が好きだから、また情けない姿を見せて、嫌われるんじゃないかって怖いです」
「ありがとう、俺も好きだよ。つがいの乱れた姿を嫌うアルファなんて居ないよ、俺は楽しみで仕方ない。良太の世話をできるんだ、待ち遠しいよ」

 そして俺の胸の突起を吸って乳首を立たせると、片方の手は後方に入り込みほぐしにかかってきた。

「あ、あ、ああっ、う、もういいから、お願い。早くそれ、れて下さ……い」
「くっ、良太、ベッド以外であんまり俺を煽るな。優しくできなくなるよ」
「優しくなんてしなくていいです、先輩の好きにして? ああっ!」

 そのまま床で、俺は何度も抱かれて意識を失ってしまった。

 気付いたら先輩に抱えられて、浴槽の中で抱きしめられていた。そして先輩からは、あのいつもの芳しいサンダルウッドの香り、俺を誘惑するフェロモンが出ているのを感じた。

 ああ、そろそろ本格的に発情するなって思って、風呂の温度も先輩の匂いも全てが心地よくなった。先輩の目をみて一度笑いかけてから、また眠りに落ちていった。この胸の中にいれば何をしていても大丈夫。安全だ、そう思って寝入ってしまった。

 俺の優しいつがいは、寝ている俺に何度も愛しているって言ってくれていた。

 それを子守唄のように聞いていたんだ。
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