旧転生者はめぐりあう

佐藤醤油

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5部 10歳後半

5.42 侍女エリン1

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 エリンは、シドニアの王城で働く侍女だ。

 学園の高等学校を卒業後、王城で働く侍女の試験に合格し、そのまま勤めて2年。
現在18歳。
男爵家の長女として生まれたが、貴族とは名ばかり。

 親は王都から少し離れた領地で文官をしている役人。特に高位の役職でもない。いつまでたっても下位の文官だった。なので、裕福な家ではなかった。
当然だが、婚姻関係を結んだところで優位になる家柄でもなかったので、婚約者などいるわけも無い。

 母親は、それなりに良家出身だ。
父は割りとハンサムなほうだ。学生時代に、母が父の事を気に入り、結婚したらしい。

 私は、頭脳は母親、顔は父から。良いところを受けついだ。
しいていうなら、私はチビだ。スタイルも良いほうではない。

 なので、なんとか学園で爵位の高い貴族に魅入られ、嫁入りできればとも思っていたが、かっこいい男子や、条件の良い男子は、すでに婚約が決まった状態で学園に来ている。
入学してすぐに、すでに勝負は終わっていたことに気がついた。

 結局学園にいる間は勉学に励み、学園生活は女子ばかりの中で楽しんだ。

 そして卒業の頃になり、自分の進路で悩んだ。そこで、王城の侍女の募集を発見し、応募する事にした。
王城の侍女として働けば、給金がもらえる。場合によっては、王妃から良い縁談を紹介されることもあるらしい。相手が非常に立場が上の場合は、一時的に王の妾とした後、降嫁されることもあるらしい。

 まあ、そんな事は稀ではあるが、普通に王城で勤めれば、適齢期になれば王妃に気に入られたい貴族からの見合いが引切り無し、縁談は事欠かないと聞く。
そんな事を夢見て王城の侍女試験を受け、成績が良かった私は、見事合格。

 現在侍女見習いを卒業し、一人前として働き出していた。

 侍女になりたての頃は、離宮のほうへ配属された。元王妃の方が、私を見かけて新人の受け入れ先になっていただけた。子供のエミリア様に似ていると可愛がって頂けました。エミリア様は、姿絵でしか見たころがありませんが、髪と目の色が一緒なだけで、とても似ていると言い難く、その体型は全く違うと言っても良い。
エミリア様は背も高く、スタイルも抜群。何を着てもとてもすばらしく着こなせていたそうですが、私はチビ。ですが、元王妃はそこが良いのよと、気にせずいろいろと教えて頂けました。

 どうやらエミリア様の子供の頃に似ているらしい。
私はすでに大人なのに、ぐすん。


 正式な侍女になると、2妃様付きの侍女に組み込まれましたが、2妃様と元王妃様はよく一緒にお茶会を開かれ、とても仲が良かったこともあり、同じように私もひいきしてもらえていました。事あるごとに、私が指名され2妃様の面倒を見ていました。


 そんな中、シドニアは今週から戦争が始まり、王城内は何時に無く騒がしい状態でした。まだ小競り合いの状況ですが、すでに死者も数名で始めていた。それが今朝から一変し、ついに戦争が始ったという知らせが届いた。王城の中は、兵士が右往左往していた。

 さすがに、現段階では後宮まで影響は無い。ただそこらかしこで兵士へお別れを言う侍女達いる。なのでそれなりに騒がしかった。

 そんな中、今日の昼食も終わり午後の仕事をしている最中だった。


 たまたま王城の外を見たら、大きな鳥が飛んでいった。

 上に二人乗っているのが解った。
なぜか、そのうちの1人が子供っぽく、とても気になった。

 それから1時間ほどたっただろうか、王城の庭にその大きな鳥が降りた。

 丁度、私がいた部屋は、たまたまその様子が見えるところにいた。どうやら王城の一番高い見張り塔から、この鳥がグランスラム帝国の兵士を全滅させる様子が見えたらしい。
たしか、1時も経っていない。あっという間に全滅させている。

 英雄様と言う声が聞こえて来た。

 私達も、どんなすごい勇者だろうと、他の侍女達と一緒に上から覗いた。

 大人の男性が1人と子供が1人。皆は、大人騎士の方を英雄様だ。
ダンディで素敵な方と言っているが、私は違うような気がした。
 もう1人の子供の方が英雄ではないだろうか。なぜなら、大きな鳥に指示を出しているのは、騎士の方ではなく、子供の方だ。

 彼らは王城の中に入って行き、見えなくなった。そしてすぐに、今夜彼らが王城に宿泊するから侍女を決めると連絡があった。

 騎士の部屋と、子供の部屋の侍女係り争奪戦となった。
私は、誰も希望しない子供の方の面倒を見ると立候補した。

 当然だがそこは誰も希望しなかったため、私の要望はあっさりと認められた。

 私は数名のくじで外れた侍女達を連れて急いで部屋を整理。
 
 部屋に来る直前に、王妃様から宿泊者の情報が来た。ジルベール・クロスロード様。年は10歳。

 ラルクバッハ王国の伯爵家の子供ですが、王女2人と婚約したばかりで、将来は公爵位を継承する予定と記載されていた。
10歳で王女2人と婚約、そして公爵位の決定。これはすごい人なんだと、会うのが楽しみだった。

 王との謁見が終わると、ジルベール様はすぐに部屋へ案内されてきた。少年は、割とかっこいいタイプの子だった。成長すると、とてもハンサムになるだろうと思われた。

 とりあえず、夕食まで時間があるので、湯浴みを進めた。
他の、侍女を連れて体を丁寧に洗う。10歳と言っていたが、とても筋肉質で子供に思えない立派な体つきだった。

 そして着替えを準備しようと、こちらの国の服を出したが、ジルベール様が、突然何も無い空間から服を出して、どれが良いと聞いてきた。空間魔法を使えるとは、すごい。

 驚いていもしょうがない。
ここは私の得意分野。用意してあった服と、ジルベール様が取り出した服を組み合わせ、着替えさせ、髪型も整え、全体的にコーディネイトした。

 すると、ジルベール様、鏡の前で姿を確認し始めました。
あ、もしかして気に入らなかったのだろうか、緊張します。

 私のほうを向いて、
「どうですか?」とにっこり笑って来ました。
 ああ、良かった気に入っていただけみたいだ。

緊張が解け
「はい、とても良いと思います。お気に召して頂けたでしょうか?」と聞いてみた。

「はい、とても」と答えが、良かった。

 その後、ジルベール様と少しお話をした。

 高貴な方なのに、私に対して、気さくに受け答えしてくれます。
そして話がすごく面白い。

 本当に10歳とは思えないほど賢く、受け答えの一つ一つが感心させられた。

 そして、楽しい時間はあっという間に過ぎ、ジルベール様が食事に行く時間になりました。すると「突然ですが、」で始まり、私を侍女として国に来て欲しいと誘われた。

 私は、すごく喜んだ。が、そこは異国の地。
しかも、王女2人と婚約をした人。もしかしたら、この年で女の扱いに手馴れていて、本当は私をただの妾として誘っているだろうか。
少し不安にもなり、どうしようと一瞬迷う。

 しかし、私の結論は、すぐにでた。自分の感を信じることにした。


 とりあえず、しっかりとした自己紹介をしていなかった事を思い出し、エリンと名を伝え「考えておきます」と無難な答えを伝えた。

 私の中では行く事は決定している。こんな小さな子の妾などとは考えていない。
私は、最初に会った時に、この人が主人だと思ってしまった。なぜかは解らない。

 さあ、王妃様にこのことを伝え、王城をやめさせてもらう許可を貰わなければならない。

 ジルベール様が、食事に言っている間に、まずは侍女長へ話を通し、今日の夜に急ぎで私の担当である、2妃様に会えるようにしてもらった。

 ジルベール様が、食事を終え、眠るのを確認したら、王妃様の部屋へ行き、相談に行った。
王妃様は「でかした」と大喜びだった。やはり、本当の英雄は、あの子だったらしい。
ジルベール様は、剣の腕前は騎士団以上。それだけではなく、爆発的な魔法の才能の持ち主で、魔法の腕前は、宮廷魔道士が束でかかっても勝てないほど。
そして、聖獣を操り、空間魔法も使える。

 王妃様が言うには、明後日に王妃様達を連れて、ラルクバッハ王国に戻るそうだ。それからさらに、1週間後に王妃様達を連れて戻ってくるそうなので、私をラルクバッハ王国に連れて行くならその時になるだろうと。

 王妃様達が、ラルクバッハ王国に旅立った後、親元へ帰る許可を貰いました。1週間でラルクバッハへ旅立つ準備をするよう、言われました。本当は、もう少しゆっくり準備をさせたいけど、相手側の気が変わらないうちにさっさと済ませたいそうだ。

 実家は、馬車で2日ほどなので、十分間に合います。馬車は、王妃様が準備をしてくださるとの事。
今回は、国の英雄に侍女を渡すので、王様からかなりの支度をして頂けるだろうとの事でした。

 そして二日目の朝、王妃様達を連れて、ジルベール様は、ラルクバッハ王国に帰ります。
1日目に声をかけて頂いて以降、その後、返事を催促される様な事が無かったため、返事を保留したままでした。

 このまま諦めて帰りそうだったので、思い切って、自分から迎えが何時になるか聞いてみました。
すると「異国での勤めですが、大丈夫なのですか?」
「王妃様からも許可を頂き、もう、退職願は出ました。ジルベール様からのお誘いなら、断る理由もありません。ぜひお使えさせてください」と正式に返事をしました。
 すると、出発の準備が必要だろうからと、アイテムボックス2個と、マジックバックと言う空間魔法がかけられた収納できる魔道具を貸していただきました。予想外の対応に、腰が砕けそうでした。

 マジックバックは、国宝級の品です。それをポイと貸していただけるとは、この方は私が思っている以上にすごい方かも知れない。さあ、1週間後に向けて、準備をしなければ。

 恐らく、もうシドニアに戻ることは無いのだろう。
アイテムボックスもあるので、実家においてある物も全て持ち出せそうだ。

 ジルベール様たちが出かけた後、昼過ぎにはすぐに馬車が用意され、私は実家に向けて出発した。
用意された馬車は、高位の客人用の馬車だった。
 嫁に行くわけではないが、降嫁の儀式とほぼ同じ待遇だった。
 王妃様から指定で、途中の宿泊もかなりの高級宿。2日後に実家に到着。

 実家には先に帰ると早文を出してあったが、実家の前に停止した高級な馬車を見て、どこの高位の方が来たのかと、近所中の人が集まってきた。
王都での英雄騒ぎは皆が知っていた。私が、彼の侍女としてついていく事になったと言うと、家族のみんなも信じられないと言う顔をしていた。

 それを無視し、もうシドニアには戻って来れないかも知れないからと、実家においてあった思い出の品を全部アイテムボックスにしまって行くと、皆がそのような魔道具を与えられた事に驚き、本当の事とようやく理解してくれた。最後にマジックバックを見て皆が驚愕していていた。

 お菓子や、果物など、生ものでも時間経過が無いという事で、私の好きな物を沢山持たせてくれた。極めつけは、母親の作ったいつものシチューをたっぷりと暖かい鍋ごと渡された。

 その日の夜は、家族そろって大パーティが開かれた。
実家には、2泊の予定だったので、しっかりと親孝行もしてから、王城へと戻った。

 王様からも、激励を受け、何かあったら売ってシドニアに帰ってこいと、かなりの高級なネックレスを頂きました。シドニアの高位侍女だけが持てる王家に関わる関係者の証となるペンダントを貰いました。
ラルクバッハ王家に嫁いだエミリア王妃の妹である公爵夫人とも会いました。
 公爵夫人からはエミリア王妃への、手紙を受け取った。

 公爵夫人から、あらあら、私の子供に似ているわねと、12歳の女の子と並べられたのは少しだけショックだった。それも、殆ど同じ身長だった。公証値155cm実測153cmがばれた。
でも、さすがに12歳の子に胸は負けてませんでしたので、まあ、セーフです。

 なんだかんだと忙しく過ごした1週間が過ぎ、王妃様方の帰還と入れ違いで、私はラルクバッハ王国へと旅立った。


---------------専属侍女とは

 専属侍女は、公爵家以上の後継が10歳前後でつける専用の侍女の事で、主人のために様々な事を行う。代表的なところでは、スケジュールを把握し、あるイベントの服の事前手配、プレゼントなどの案を作り主人と内容を決め手配する。参加者のリスト、挨拶希望の順番、挨拶の文面などなど。勿論、毒味をする前に匂いなどで事前確認、献立の栄養バランスの確認も行う。
 ジルベールは好き嫌いもなく、アレルギーも無いので献立の確認は楽だ。

 そして、それらの仕事は結婚すると状況が変わってくる。一部の仕事は結婚した妻がやる。
男性の執事が雇われると、さらに一部の仕事がなくなる。

 専属侍女は10年の契約になっており、10年後に奥さんなどと状況を再確認し、専属侍女に主人との子が出来ていれば大抵はそのまま妾になる。そうでなければ侍女長となり主人以外の男性と見合いをし結婚をする。
もしくは、契約の更新を終了しそのまま辞める。
最後に暫定的に1年毎に専属侍女を延長する事もある。
が大半の専属侍女の最後はこの3つのどれかだ。

 専属侍女は、妻と会う時間や相手もある程度調整する事が可能だ。専属侍女が片側の妻にだけ肩入れすると、大半は10年を期にもう片方の妻から辞めさせられる事もある。

 現王の専属侍女は、10年の契約後は侍女長となりその5年後に侯爵家の後妻となり侍女長を辞めた。
彼女は、エリンの教育に呼ばれ、指導をしてくれる。

 例外としてルカ王子の1代目の専属侍女は、専属侍女になって1年後に妊娠初期が発覚し、もめた。
後宮にしかいない専属侍女に他所の男と会う事など不可能だ。当時10歳の王子がすでに子を作ったのかと言う話が出たが、相手は王子の剣の先生だった。結局、これは王子が手引をするのを手伝っていたのも解り、揉める事なく専属侍女を辞めそのまま侍女を退職し嫁に行った。

 現ハイルデン公爵の専属侍女は、妾になってますが子供はいません。奥様2人と仲が良くて、どこかに行かれるのが寂しいと奥様からの願いで妾になってます。妾は、普通は別の棟など妻から離れた部屋に行きますが、この方は妻の近くに部屋があり堂々と存在する珍しい妾でした。この方もエリンの教育に来てくれます。妻とも仲良く暮らしている事が評判となり、家にいるよりも侍女教育で出かける事が多いほど大変忙しい人です。

 専属侍女の仕事に性のお相手は、含まれません。ただし主人に恋心を抱いていけない決まりもありません。
専属侍女である間は、主人以外の男性と直接話すことはありません。家の中のコックや執事と話をしますが、1対1では話しません。1対1が許されるのは主人だけ。
 逆に主人も結婚前に1対1が許される女性は専属侍女だけ。主人と婚約者は移動中の短時間なら1対1が許されてます。

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