旧転生者はめぐりあう

佐藤醤油

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6部 グランスラム帝国編

6.4 シーラリア1日目

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 昨日は到着するなり戦闘が始まり予想外の展開だった。
 今日も昨日の混乱が終わったわけではないので、朝から大変だ。
 昨日の夜のうちに馬車が着き、奥様とお嬢様は各家に送り届けられたそうだ。
 サイパポールさんは、昨日の盗賊と反乱を起こした人達、それに無関係な人を夜通し選別をしてくれた。
 盗賊50人に内部の兵士から80名も造反が出ていた。
 80名の兵士の中で、確実に怪しいのに最後まで認めていない兵士が5名。朝からその5人に会う。
 鑑定でチェックすると5人の内の1人が子爵家の御曹司。2人が男爵家の御曹司。最後の2人が平民卒の兵士だ。
 とりあえず気楽な平民兵士と会う。
 隔離した別部屋に連れて行き、自白させると予想通り他のメンバーからの強制。認めなかった理由は家族に害が及ばないようにするため。魔法も使えないし特別なスキルも無い。本当に普通の兵士。いかどちらかと言えば下位の兵士。家族への害もないし今後僕に忠誠を誓い、僕の為に働くなら無罪にすると言ったらすぐに誓ってくれた。帝国だと従属の首輪らしいが、現段階では犯罪者ではなく、契約魔法が込められた腕輪にした。従属の首輪は奴隷のマークでもあるので、使いたくなかった。 勝手に都市から逃げる事は出来ないが、もっと自由度のある腕輪を付けて貰った。これで裏切って悪いことをしたら腕が無くなる。
 さて残りの3人は貴族だ。まずは意図を聞く。
 だが3人とも理由は簡単だった。3人ともグランスラム帝国に忠誠を誓っている。
 判決を出すために、一族全員に呼び出し状を出すことにした。
 担当した兵士が、「呼び出した後で全員殺すのなら毒薬を用意しましょうか?」と聞いてきた。
 一度暴れた兵士には処罰が必要だが、個別に意見を聞いて、グランスラム帝国に戻りたいなら戻そうと思っていると告げた。
 逃がせば、責めてきますと言っていたが、別にこんな人が何人で襲ってきても僕にとっては問題ない。と言うと納得した顔をして出て行った。
 僕は平和に物事を進めたいのだけどな。

 まだ午前中だ。朝のうちに兵士全員を集めた。
 そして自己紹介。
「私がこの領地を治めることになったジルベール・クランロットだ。これからは私の部下になるわけだが、君たちは聖獣がいなければ私を倒せると思っているものも多いだろ。こんな子供に良いように使われるものかとそんな事を考えている皆にチャンスをやろう。
今この場で私を倒してみろ。倒せたものが部隊長だ。爵位もくれてやる。さあかかって来い」
 みんなが一様に驚く。そして隣通しでどうするどうすると言い合っている。
待ちくたびれた。
「来ないならこっちから行くぞ。全員で倒しに来ないとあっという間に全員伸びるぞ」
「馬鹿にするなー」と数名が襲い掛かってくる。
 殴ってくる腕をつかみ投げ飛ばす。蹴り放つ足をつかみ放り投げる。次から次に投げ飛ばす。後半は剣を振りかぶってきたが、速度が遅すぎる。軽くよけて転ばす。一瞬にしてこの場にいた300名の兵士が全員倒れた。
「さてみんな倒れたな。つまり、誰も勝てなかったわけだ。私の強さを理解したか。ということで、これからは私に言う事を聞いてくれるな」
 言ってから周りを見渡す。ゆっくりと体を起こす者達は、全員があきれた顔で僕を見る。だが誰も反論する者はいないようだ。
「では、そこ。お前は私の部下だ。言うことぉ聞かなければならない。では私が民を殴ろうとしている。その時お前はどうする」
「え。それは領主様のするとおりに」
「馬鹿者。違う。良いか、お前達が守るのは民だ。私の言うことは聞かなければならないが、私が民に手を上げたならお前達は民を守れ。民が困っていたら手を貸せ。民が苦しんでいたら助けろ。民が襲われていたら救え。私がお前達に命令する内容はそれだ。良いか。覚えたな」
「は、はい?」
「なんだ。変な返事をするなどうした質問でもあるのか」
「えっと民を守れば良い。それが最優先の命令。で合っていますか」
「ああそれで間違いない。それとそこの青い服を着て立っているやつとヒゲづらの男。お前達は武道をやっていたな」
「はい。やっております。師範代まで習得しております」
「うむ。お前たち二人だけは、別格だった。これから班を別けて全員を鍛えろ。お前達に教育は任せる。全員をもう少し強くしろ。こんなに弱くては民を守れんぞ。良いな」
「はい」
 皆が一斉に返事をした。僕はさっさとここを出て行く。与えられた執務室に入って、ふーと一息。いやー。超恥ずかしかった。言うことを聞かせるためとはいえ、ちょっとやりすぎたか。執務室担当の執事がお茶を持ってきてくれ、とりあえず小休憩。
 ミレールさんを呼び出し、一緒に食料庫に行く。そして、報告書に合わせて不足分の食料を降ろす。
 執務室に戻ると、予定通りこの地の農業学者を集まっていた。
「よく来てくれた。今日の用事だが、私が何種類かの貴重な種を持ってきた。これをこの地で栽培してもらうつもりだ」
 そうして、種の特徴を説明する。シーラリアは南側なので気候が良い。持ってきた植物は、高く売れる甘味を中心にしている。麦は、嵐に強い少し背の低いタイプ。種類を増やすことで災害時の影響を減らすことが目的だ。農業は元々、水さえあれば大丈夫だ。学者に井戸の不足がないかの調査と、効果的な水路の設計を頼んだ。シーラリアの周りの農業村の改善を頼む。
 シーラリアは元々工業を中心にしていた10万都市だ。戦争の影響で特に物資が足りない。元々の向上も壊れて使えない建物が多い。
 これから時間があるだけミレールさんと都市内の工業地帯を案内してもらう。酒豪するまで、どこをどう改造して立て直すか決めておかないと復活がそれだけ遅れる。急いで仕事をしなければ。
 僕とミレーユさんは、夜になるまでは沢山の工場を見て回った。

 そして夜になると領主館で貴族達の集まりがあった。
 まずその場で、僕の自己紹介。
 そしてミレールさんに伯爵位を渡し、行政官として正式に任命した。
 初心表明をしたわけだが、いつになく長々としゃべってしまった。慣れないことをするとダメだな。
 挨拶で守りの観点や監視体制を含めて若干の領地の変更はあるが、貴族所有の領地を奪う気は無い。役場と防衛隊の見直しを早急に行うこと。都市部においては最優先で工業の立て直し。農村部は育てる種類から含めて改善を行う事を約束した。
 漁場については明日にでも荒らしている魔物の退治を行う。

 そして最後にこれより5日以内に前の治世での罪を全て告白する事。
 告白した分は、不問とする。罪は問わないが贖罪は各自が行う事を宣言する必要があると伝えた。
 そして、自分の話をする。グランスラムの兵士を数千人殺した事。戦争なので罪には問われない。罪にならないからとなにもせずに放置するのは違う。贖罪は必要だ。
 この地は、今までのシドニアとの戦いで傷ついた人々が一番多い。だからこの地を救うためにこの地に来た。
 もちろん手の届く範囲しか救うことはできない。この領地の民ですら全員を救うことはできない。自己満足でしかない。所詮、子供のやることでしかないのかも知れない。
だがやらないよりはやったほうが良い。そう思っている。
 民のために民が明日を迎えられるように。
 私はその勤めを果たす。
 今回は戦争で失われた食料を保管するために大量の食料を持ってきた。
 崩壊した工業を立ちなおすために魔道具も持ってきた。
 物流を改善するためにアイテムボックスも沢山持ってきている。
 新しい種も持ってきた。
今日からこの地は生まれ変わる。人の命を奪う土地から平和の地へと変える。この地を豊かにしこの地で暮らせるようにする。
それが亡くなった人々に対する私の贖罪だと思っている。
 あなた方の小さな罪を問わないというのは私の大きな罪を問わないための言いわけだ。 だから、あなた方の今までの罪は、問わない。
 だが、あなた方も罪に対する贖罪はやってもらう。
 そして私の贖罪にも付き合ってもらう。
 だが、これ以降の罪は許さい。それは肝に据えてくれた。
 これからよろしく頼む。

いやー、長い挨拶しちゃった。
 ふと回りを見るとみんなシーンとしちゃった。
 変な話しちゃったかな?

 挨拶が終わるとそのまま夕食会が始まる。

 このシーラリアの地は3人の侯爵と12人の伯爵、20名近い子爵に100名の男爵がいる。
子爵や男爵は役場での文官をしている家だ。
 この数か月で正規軍とそこに含まれる貴族はグランスラムへ移動した。現状は兵隊がかなり少なく、近隣の魔獣退治をする人数も不足するらしい。そのあたりの立て直しもひつなので、退役兵を再徴収して部隊を作り上げなければならない。

 先日の侯爵夫人やその子女の方達も参加していたようで私への挨拶があった。
 聖獣を操るのが40代のおっさんと言うのは最初に一緒に乗っていたラルクバッハ王国の大隊長さんだろう。
ひげ面だけど割とかっこいいダンディーなおっさんだったはずだと説明したら、国をまたいだ噂は、まともに伝わらない物ですね。といろいろな意味で、笑い話になって良かった。
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