23 / 33
22、女神の言葉と、予兆の夜
しおりを挟む
翌朝。王都に新たな風が吹いた。
王宮広場。
そこに突如として設けられた簡易の壇上で、聖女フェルミナが“新たなる神託”を語ったのだ。
「この地に試練が降り注ぎます。しかし、信仰を捨てぬ者には祝福が訪れるでしょう――女神はそうお告げになられました」
白い衣をまとい、花冠を王妃さながらに頭上に飾ったたフェルミナが、朝日を背にして手を掲げた瞬間、群衆は一斉にひれ伏した。
花を捧げる者、涙を流す者、祈りを口にする者。
まるで“新たな信仰国家”の始まりを告げる儀式のように――。
リリアーヌのもとにも、その速報はすぐに届けられた。
「やってくれたわね……」
書斎でその報告書を読みながら、リリアーヌは声を低くする。
まだ夜明けから数刻しか経っていないというのに、王都の広場にはすでに数百人の信徒が集まり、聖女の“神託”を信じて跪いているという。
「完全に民の動きを読み切ってるわ。これは偶然じゃない」
民の不安、動揺、飢え、恐れ――それを、“神託”という形で受け止めてやれば、人々は簡単に従う。
しかもそれを語るのが、王太子の正妃となる“聖女”であれば、なおさらだ。
「信仰が、ただの精神的支えではなく、政治そのものになりつつある……」
その時、使用人が慌ただしく部屋に入ってきた。
「お嬢様。王宮より、正式な通達が届きました」
リリアーヌは封蝋を受け取り、一読。
その内容に、静かに眉をひそめた。
「……聖女庁、正式に設立」
王宮が、フェルミナを“政治的な権威”として認めた瞬間だった。
形式上は“王太子の支援機関”という名目。だが実質は、フェルミナを通じて宗教的正当性を政治に持ち込む試みだ。
「一度崩れれば、あとは転がるだけ。王太子の求心力も、国王の威厳も……宗教に吸収されていく」
リリアーヌは立ち上がり、窓の外を見た。
朝の空は曇天。だが、空気はぴんと張り詰め、雨の前触れのように重い。
「まだ間に合う。でも、もう時間はないわね」
彼女は机に戻り、ペンを取る。
「フェルミナが“祝福”を語るなら、こちらは“現実”を見せてやるしかない。希望ではなく、結果を」
書き上げたのは、次なる声明。
“信仰に依存しない未来”を掲げる、民衆向けの公文書だ。
小説家であった過去を思えばこんなことリリアーヌにとって容易い。
「信じることと、従うことは違う。神が全てではなく、人がこの国を作っている――そう示すわ」
リリアーヌはペンを置き、椅子から立ち上がる。
「お嬢様」
再び扉が開き、侍女セシリアが一枚の封筒を差し出した。
「これは……?」
「シュトラール神聖王国の使者より、“非公式”に届いた文書です」
受け取った封筒には、封蝋もない。中にあったのは、たった一枚の紙。
《次なる動きは、女神の口を借りて。警戒を》
リリアーヌの瞳が細められた。
(“女神の口”……つまり、フェルミナを通して、さらに強力な“神託”が行われる――?)
そしてそれは、単なる宗教的発言ではない。
ヴェルンハルト王国の政治を“決定”づける、最後の一押しになる可能性がある。
「――そう来るのね」
リリアーヌは息を吸い込み、微笑んだ。
「お兄様を呼んで。準備を整えるわ。次に動くのは――こちらよ」
フェルミナが“神の言葉”を語るなら。
リリアーヌは“人の意志”で対抗する。
理性と秩序、そして意志の力で、物語を書き換えてみせる。
“神の娘”に敗れぬように。
嵐の前の静けさ。
だがその中で、確かに――運命の歯車は、また一つ音を立てて動き始めていた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
✨今後の更新予定✨
📅 20~23日は2回更新(12:30&22:30頃)!
💬 感想・お気に入り登録してくれると励みになります!
🔔 「お気に入り」すると最新話の通知が届きます!
📢 応援よろしくお願いします!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
王宮広場。
そこに突如として設けられた簡易の壇上で、聖女フェルミナが“新たなる神託”を語ったのだ。
「この地に試練が降り注ぎます。しかし、信仰を捨てぬ者には祝福が訪れるでしょう――女神はそうお告げになられました」
白い衣をまとい、花冠を王妃さながらに頭上に飾ったたフェルミナが、朝日を背にして手を掲げた瞬間、群衆は一斉にひれ伏した。
花を捧げる者、涙を流す者、祈りを口にする者。
まるで“新たな信仰国家”の始まりを告げる儀式のように――。
リリアーヌのもとにも、その速報はすぐに届けられた。
「やってくれたわね……」
書斎でその報告書を読みながら、リリアーヌは声を低くする。
まだ夜明けから数刻しか経っていないというのに、王都の広場にはすでに数百人の信徒が集まり、聖女の“神託”を信じて跪いているという。
「完全に民の動きを読み切ってるわ。これは偶然じゃない」
民の不安、動揺、飢え、恐れ――それを、“神託”という形で受け止めてやれば、人々は簡単に従う。
しかもそれを語るのが、王太子の正妃となる“聖女”であれば、なおさらだ。
「信仰が、ただの精神的支えではなく、政治そのものになりつつある……」
その時、使用人が慌ただしく部屋に入ってきた。
「お嬢様。王宮より、正式な通達が届きました」
リリアーヌは封蝋を受け取り、一読。
その内容に、静かに眉をひそめた。
「……聖女庁、正式に設立」
王宮が、フェルミナを“政治的な権威”として認めた瞬間だった。
形式上は“王太子の支援機関”という名目。だが実質は、フェルミナを通じて宗教的正当性を政治に持ち込む試みだ。
「一度崩れれば、あとは転がるだけ。王太子の求心力も、国王の威厳も……宗教に吸収されていく」
リリアーヌは立ち上がり、窓の外を見た。
朝の空は曇天。だが、空気はぴんと張り詰め、雨の前触れのように重い。
「まだ間に合う。でも、もう時間はないわね」
彼女は机に戻り、ペンを取る。
「フェルミナが“祝福”を語るなら、こちらは“現実”を見せてやるしかない。希望ではなく、結果を」
書き上げたのは、次なる声明。
“信仰に依存しない未来”を掲げる、民衆向けの公文書だ。
小説家であった過去を思えばこんなことリリアーヌにとって容易い。
「信じることと、従うことは違う。神が全てではなく、人がこの国を作っている――そう示すわ」
リリアーヌはペンを置き、椅子から立ち上がる。
「お嬢様」
再び扉が開き、侍女セシリアが一枚の封筒を差し出した。
「これは……?」
「シュトラール神聖王国の使者より、“非公式”に届いた文書です」
受け取った封筒には、封蝋もない。中にあったのは、たった一枚の紙。
《次なる動きは、女神の口を借りて。警戒を》
リリアーヌの瞳が細められた。
(“女神の口”……つまり、フェルミナを通して、さらに強力な“神託”が行われる――?)
そしてそれは、単なる宗教的発言ではない。
ヴェルンハルト王国の政治を“決定”づける、最後の一押しになる可能性がある。
「――そう来るのね」
リリアーヌは息を吸い込み、微笑んだ。
「お兄様を呼んで。準備を整えるわ。次に動くのは――こちらよ」
フェルミナが“神の言葉”を語るなら。
リリアーヌは“人の意志”で対抗する。
理性と秩序、そして意志の力で、物語を書き換えてみせる。
“神の娘”に敗れぬように。
嵐の前の静けさ。
だがその中で、確かに――運命の歯車は、また一つ音を立てて動き始めていた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
✨今後の更新予定✨
📅 20~23日は2回更新(12:30&22:30頃)!
💬 感想・お気に入り登録してくれると励みになります!
🔔 「お気に入り」すると最新話の通知が届きます!
📢 応援よろしくお願いします!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
122
あなたにおすすめの小説
三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します
冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」
結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。
私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。
そうして毎回同じように言われてきた。
逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。
だから今回は。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った
五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」
8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。
似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります
秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。
そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。
「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」
聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる