前世で僕を裏切ったはずの恋人が、生まれ変わっても離してくれない

めがねあざらし

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10、偽りの日々、そして(前)※成人向け

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 翌日、カイオスは珍しく「外を歩かないか」と言い出した。

「外……?」
「ここに閉じ込めたままでは可哀想だろう」

(閉じ込めたのはあなただ)

リアンは、喉まで出かけた言葉を、どうにか飲み込んだ。
この機会を逃すわけにはいかない。


「……なら、少し歩きたい」
「いいだろう」

 カイオスは満足そうに微笑んだ。

 ──そして、二人は王城の庭を歩いた。

 色とりどりの花が風に揺れ、中央の噴水が陽光を受けてきらめく。
 休憩を取るための白い東屋も幾つか見える。
 けれど、リアンの目が捉えたのは、別のものだった。

「……あれは」

 視界の端に、ゆるやかに広がる蒼。
 ほど遠くない場所に、それはあった。
 王城の中庭からも見える海の気配。
 歩いて行けそうな距離に、確かにそれはあった。

「久しぶりに見たな……」

 ぽつりと漏れた呟きに、隣を歩いていたカイオスの足が止まる。

「お前は、海が好きなのだな」
「……」
「あの時も今も」

 胸の奥が、チクリと痛んだ。

(こいつは……本当に、覚えてるんだな)

 忘れたくても忘れられない過去。
 カイオスと過ごした時間が、引き剥がしたはずの記憶を否応なく蘇らせる。
 出会って、笑って、海辺で恋をして——

 それは、確かに、愛だった。
 少なくとも、あのときまでは。

「……あなたも、だろ?」

 リアンは皮肉めいた笑みを浮かべ、カイオスを見やった。

「あなただって……海が好きだったんじゃないのか?」
「そうだな」


 応える声は低く、温度を感じさせない。
 けれど、次の瞬間にはリアンの手が、カイオスの大きな掌に包まれていた。

「だからこそ——お前を二度と海に還すつもりはない」

 心臓が、どくりと跳ねる。

(〝還すつもりはない〟……?)


「お前はもう二度と……」

 彼の唇が、リアンの手の甲にそっと触れる。
 静かで、どこか悲しげなキスだった。

 リアンは、目の前の男が本当に分からなくなる。
 愛して、捨てて、またこうして触れてくる。
 何を信じ、何を拒めばいいのか——その輪郭が、曖昧になる。

「……勝手に決めるな」
「勝手ではない。お前は、私のものだ」
「……っ!」

 その言葉に、反射的に手を引こうとする。
 けれど、カイオスの掌はびくともせず、逆にその圧を強めてくる。

「……いつか、分かる日が来る」

 彼の瞳には、揺るぎない信念だけが宿っていた。
 その言葉と同時に、カイオスはリアンの顎をすくい上げた。
 戸惑う間もなく、唇が重ねられる。

 深く、濃く、まるで逃げ場を塞ぐような口づけだった。

「……っん……ぅ……」

 舌が割り込む。
 口腔の奥を探るように、緩やかに、しかし執拗に。

 リアンは目を見開き、思わずカイオスの胸を押す。だがその手は、力を失っていた。

(……いや、なのに……!)

 くぐもった吐息とともに、甘い眩暈が押し寄せる。
 キス一つで、これほど思考を奪われる自分が悔しかった。

 やがて、カイオスは唇を離した。
 糸を引くように二人の唇のあいだに銀の光がきらめく。

「……お前の唇は、嘘をつかない」

 囁きと共に、カイオスの手がリアンの腰に回り込む。
 ゆるやかに、しかし有無を言わせぬ力で引き寄せ、リアンの身体をその胸元に重ねた。

「やめろ……こんな場所で……っ」
「場所など関係ない。私の目の届くところで、お前が私を欲しがっていればいい」

 吐息が耳元に触れるたび、背筋が粟立つ。
 カイオスの指が衣の隙間から忍び込む。
 柔らかな腹部をなぞり、臍の下へ、熱を帯びた中心へと辿り着く——

「っ……や、っ、だめ、こんな……外で……っ」
「外だから、だ。誰かに見られるかもしれない羞恥の中でこそ、お前の本音が滲む」


 囁きながら、カイオスは東屋の柱にリアンの背を押しつける。
 風に揺れる草花の向こう、遠くには兵士たちの気配さえあるかもしれない。
 だが、この男の身体に包まれている今、それらすべてが霞んでいく。

「お前の反応は、私だけのものだ」

 指先が触れるたびに、リアンの喉奥からかすかな喘ぎが洩れる。
 羞恥に震えながらも、快楽の波が確かに迫ってくる。
 囁くように低く響いた声とともに、カイオスの手がリアンの太腿を這い上がる。

「や、っ、ダメ……っ」

 カイオスはその抗いを甘噛みするように受け流すと、リアンの身体を東屋の柱へと押しつけた。
 白い衣がはだけ、腰から下が風にさらけ出される。
 幕が揺れるたび、外の世界がちらついた。噴水のそばに控える衛兵たちの影さえ見える。

「……見られる、……誰かに、っ」
「なら、声を殺して啼け」

 カイオスの指が、リアンの奥へとゆっくり差し入れられる。
 そこはすでに熱を帯び、羞恥と恐怖が混じり合ったぬかるみのようにとろけていた。
 ゆっくりと、そこを撫でながら、カイオスは耳元で囁く。

「お前の中は……もう私を覚えてしまったようだ。もっと……深く刻んでやる」

 次の瞬間、衣の隙間から露わになったカイオスの熱が、リアンの入口をなぞる。

「っ……いやだ、……っ」
「黙れ。……私を、奥まで咥え込め」

 カイオスの両手がリアンの腰を支えたまま、ゆっくりと力を込めていく。
 狭い奥へと、自分のすべてを押し込めるように。

「や……あ……っ、ん、ぁ……!」

 東屋の中に響く小さな水音と、噛み殺された声。
 快楽とも、羞恥ともつかぬ涙が、リアンの睫毛を濡らしていく。
 けれどその表情を、カイオスは満足げに見つめていた。

「気づかれずに耐えきれたら褒めてやろう。……ただし、腰を振るのはお前だ」
「な、んで……そんな……っ」
「私の妃だろう。誓いの証を、誰にも届かぬ声で刻め」

 リアンは、しがみつくようにカイオスの肩に額を押しつけた。
 羞恥に塗れ、快楽に濡れながら、ゆっくりと自ら腰を動かし始める。

 口元に手を当て、声を殺すリアンの頬には、昼の陽射しではない熱が差していた。
 まぶしい光が、はだけた白肌を余すところなく照らし出す。
 そのこと肢体が──何よりも淫らだった。

 どこかで鳥がさえずっている。
 風が吹き抜け、花弁が二人の肩を撫でていく。
 それでも、彼らの交わりを止められるものは、どこにもなかった。
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