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11、逃亡(後)
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リアンの背後に立つ影が、ゆっくりとカイオスの視界に入り込んでいく。
白銀の髪を靡かせながら、しなやかに、確信に満ちた足取りで。
「……その声……!」
カイオスの顔が、瞬時に驚愕へと変わる。
リアンの肩越しに現れた女——その姿を、彼は知っていた。
「……お前……」
カイオスの金色の瞳が、静かに大きく見開かれる。
「あの魔女か……ネヴェリア……!」
その名を口にした瞬間、女は深く微笑んだ。
それは、何年にもわたる憎悪と嘲弄を湛えた、静かな嗤いだった。
「随分と久しぶりね、王よ。……以前は、王子だったかしら?」
その声音には、過去と現在を嘲るような、酷薄な美しさが滲んでいた。
「さあ、殺すのよ……リアン。お前の憎い相手を」
耳元で囁く甘美な声音。
だがその響きは、毒のように冷たかった。
白銀の髪が、月光を照り返しながら静かに揺れる。
リアンの手元には、再び視線が落ちる。
一振りの短剣。
——カイオスのものでありながら、今や彼の命を奪いうる刃。
「リアン、お前は騙されている!」
カイオスの声が、夜の海に割れるように響いた。
その声に混じる焦りと痛みは、確かに真実味を孕んでいる。
「……騙されているのは、どちらかしら?」
ネヴェリアが唇の端を上げる。
艶やかで、底知れぬ嘲笑を浮かべながら。
白銀の影が、リアンの背後で波のように揺れる。
(……僕は……本当に騙されているのか? 誰に……?)
リアンの思考は、海中のように鈍く揺れていた。
リアンの指が短剣を強く握る。
刃先が月光を孕んで、鋭く、冷たく煌めいた。
「リアン」
カイオスが、一歩だけ、踏み出す。
その足音が波音に紛れながらも、確かに響く。
「私は——お前を捨てたんじゃない!」
その言葉に、リアンの瞳が揺れた。
「お前を手放したんじゃないんだ! 全部……全部、ネヴェリアの罠だった‼」
「嘘だ……!」
リアンは反射的に叫んだ。
けれど、その声は確信ではなく、揺らぐ信仰のように震えていた。
「お前は僕を……裏切った……‼」
「違う‼」
カイオスの声が、波間に割れて響く。
「私は、最後までお前を愛していた! 信じていた‼」
胸の奥が軋む。
リアンの目に映るカイオスは、あの頃のカイオスと重なっていた。
過去と現在が、痛々しいほどに重なる。
彼は本当に——最後まで、自分を愛していたのか?
「聞くな、リアン‼」
ネヴェリアの声が、鋭く割って入る。
彼女の指先が、リアンの背中をなぞった。
「さあ、カイオスを殺して、すべてを終わらせなさい……お前の自由を取り戻すのよ!」
(自由……?)
リアンの胸中にざわりと風が吹く。
短剣を握る手に、再び力がこもる。
刃先が、まっすぐにカイオスの胸元へと向いた。
「リアン……‼」
カイオスの金色の瞳が、苦悶の光を宿す。
けれど——彼は微動だにしない。
差し出されたその胸元に、恐れも躊躇もなかった。
まるで——
「私は……お前に殺されるなら、それでもいい」
その言葉に、リアンの胸が焼けつくように軋んだ。
(殺せるのか……? 僕は……本当に……)
「早く‼」
ネヴェリアの声が、ついに焦りを帯びた。
彼女の指先が、リアンの額へと伸び、そっと触れる——その瞬間。
「……⁉」
視界が、にわかに黒く染まる。
思考が暗雲のなかへ引き込まれていく。
体が、自分のものでなくなる。
手足の感覚が曖昧になり、重たく、異物感を孕んでいく。
(体が……勝手に……!)
ネヴェリアが、リアンの身体を乗っ取った——。
カイオスの目の前で、リアンの瞳が虚ろに濁る。
「リアン……?」
名前を呼ぶ声に、リアンは応えられない。
口が、リアンではない誰かの声を紡ぐ。
「あははははは! これで、すべて終わりよ!」
甲高く響いたその笑いは、リアンのものではない。
ネヴェリアの声が、リアンの唇を使って、夜を切り裂く。
——振り上げられた短剣。
月光を孕んだ刃が、いま、王の胸を目指して煌めく——。
白銀の髪を靡かせながら、しなやかに、確信に満ちた足取りで。
「……その声……!」
カイオスの顔が、瞬時に驚愕へと変わる。
リアンの肩越しに現れた女——その姿を、彼は知っていた。
「……お前……」
カイオスの金色の瞳が、静かに大きく見開かれる。
「あの魔女か……ネヴェリア……!」
その名を口にした瞬間、女は深く微笑んだ。
それは、何年にもわたる憎悪と嘲弄を湛えた、静かな嗤いだった。
「随分と久しぶりね、王よ。……以前は、王子だったかしら?」
その声音には、過去と現在を嘲るような、酷薄な美しさが滲んでいた。
「さあ、殺すのよ……リアン。お前の憎い相手を」
耳元で囁く甘美な声音。
だがその響きは、毒のように冷たかった。
白銀の髪が、月光を照り返しながら静かに揺れる。
リアンの手元には、再び視線が落ちる。
一振りの短剣。
——カイオスのものでありながら、今や彼の命を奪いうる刃。
「リアン、お前は騙されている!」
カイオスの声が、夜の海に割れるように響いた。
その声に混じる焦りと痛みは、確かに真実味を孕んでいる。
「……騙されているのは、どちらかしら?」
ネヴェリアが唇の端を上げる。
艶やかで、底知れぬ嘲笑を浮かべながら。
白銀の影が、リアンの背後で波のように揺れる。
(……僕は……本当に騙されているのか? 誰に……?)
リアンの思考は、海中のように鈍く揺れていた。
リアンの指が短剣を強く握る。
刃先が月光を孕んで、鋭く、冷たく煌めいた。
「リアン」
カイオスが、一歩だけ、踏み出す。
その足音が波音に紛れながらも、確かに響く。
「私は——お前を捨てたんじゃない!」
その言葉に、リアンの瞳が揺れた。
「お前を手放したんじゃないんだ! 全部……全部、ネヴェリアの罠だった‼」
「嘘だ……!」
リアンは反射的に叫んだ。
けれど、その声は確信ではなく、揺らぐ信仰のように震えていた。
「お前は僕を……裏切った……‼」
「違う‼」
カイオスの声が、波間に割れて響く。
「私は、最後までお前を愛していた! 信じていた‼」
胸の奥が軋む。
リアンの目に映るカイオスは、あの頃のカイオスと重なっていた。
過去と現在が、痛々しいほどに重なる。
彼は本当に——最後まで、自分を愛していたのか?
「聞くな、リアン‼」
ネヴェリアの声が、鋭く割って入る。
彼女の指先が、リアンの背中をなぞった。
「さあ、カイオスを殺して、すべてを終わらせなさい……お前の自由を取り戻すのよ!」
(自由……?)
リアンの胸中にざわりと風が吹く。
短剣を握る手に、再び力がこもる。
刃先が、まっすぐにカイオスの胸元へと向いた。
「リアン……‼」
カイオスの金色の瞳が、苦悶の光を宿す。
けれど——彼は微動だにしない。
差し出されたその胸元に、恐れも躊躇もなかった。
まるで——
「私は……お前に殺されるなら、それでもいい」
その言葉に、リアンの胸が焼けつくように軋んだ。
(殺せるのか……? 僕は……本当に……)
「早く‼」
ネヴェリアの声が、ついに焦りを帯びた。
彼女の指先が、リアンの額へと伸び、そっと触れる——その瞬間。
「……⁉」
視界が、にわかに黒く染まる。
思考が暗雲のなかへ引き込まれていく。
体が、自分のものでなくなる。
手足の感覚が曖昧になり、重たく、異物感を孕んでいく。
(体が……勝手に……!)
ネヴェリアが、リアンの身体を乗っ取った——。
カイオスの目の前で、リアンの瞳が虚ろに濁る。
「リアン……?」
名前を呼ぶ声に、リアンは応えられない。
口が、リアンではない誰かの声を紡ぐ。
「あははははは! これで、すべて終わりよ!」
甲高く響いたその笑いは、リアンのものではない。
ネヴェリアの声が、リアンの唇を使って、夜を切り裂く。
——振り上げられた短剣。
月光を孕んだ刃が、いま、王の胸を目指して煌めく——。
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