前世で僕を裏切ったはずの恋人が、生まれ変わっても離してくれない

めがねあざらし

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13、繋がれた命と選択(後)

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「……それでも」

 顔を上げた先に、カイオスの金色の瞳があった。
 そこには、炎のような熱と氷のような静けさが同時に宿っている。

「それでも、僕は〝今の僕〟を選ぶ」

 短い一言が、夜気を切り裂いた。
 カイオスの瞳が、微かに揺れる。

「リアン……」

 胸を押さえる手に、自然と力がこもる。

「僕は、海に還りたいわけじゃない……でも、人間であることを選ぶのが正しいとも思えない」

 それでも——。

「僕は……この世界で生きる」

 はっきりとした言葉が、夜の海に落ちていく。

「僕の心は、〝海〟と〝人〟の間にある。でも、どちらでもない〝僕〟でいたい」

 その言葉に、人魚はゆっくりと微笑んだ。

「……そうか」

 深い海底を思わせる穏やかな声音で頷く。

「それがお前の選択なら、それを尊重しよう」

 張り詰めていた胸が、ほんの少しだけ軽くなった。

「……ありがとう」

 寄せる波が夜の静けさを揺らし、白い飛沫が足元に触れる。
 人魚はリアンの肩に手を置いた。その手は潮の冷たさと、不思議な温もりを同時に伝える。

「では、お前に祝福を授けよう」

 額に指先がそっと触れる。
 瞬間、淡い青の光がリアンの全身を包み込み、深い海の匂いが肺いっぱいに広がった。

「この先、お前がどんな道を歩もうとも……お前の中の〝海〟は、お前を裏切らない」

 瞳が見開かれる。

「……!」
「お前の選択を、私は祝福する」

 波の音が、祈りのように静かに響いた。
 その光景を、カイオスは何も言わず、ただ見守っていた。

 ——そして、次の瞬間。
 人魚は音もなく水に身を沈め、白銀の髪が水底の闇に溶けていく。
 まるで、最初からそう定められていたように。

 リアンは、そっとカイオスを振り返った。

「カイオス……」

 彼はリアンの手を取り、強く握り込む。

「お前が……お前でいる限り、私はお前の隣にいよう。けれど、もう縛りはしない……」

 その低い声に、胸の奥がじんわりと温かくなる。

(そうは言っても、僕はもうあなたに……縛られているけれど)

 リアンの唇から、小さな苦笑が落ちる。

 いつの間にか、東の空が白み始めていた。
 海の色が、夜から暁へとゆっくり移ろっていく。
 リアンは波間から一歩を踏み出した。冷えた海水が足首を伝い、夜風が濡れた肌を撫でる。

「……帰ろう、カイオス」

 振り返ると、カイオスはまだその場に立ち尽くしていた。
 濡れた髪が頬に貼りつき、衣服から雫がぽたり、ぽたりと落ちる。息は白く、指先まで冷え切っている。

(……この冷たさの中で、ずっと僕を……ほんと、馬鹿な人だ……)

 小さくため息をつき、彼の手を取った。
 冷たいけれど、確かにそこにある温もり。

「王宮に戻るのでしょう?」
「……ああ」

 短く、けれど迷いのない頷きが返ってきた。
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