引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis

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第8章

第220話

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 シュターデル獣王国を出立してから、既に二週間ほどが経った。色々とあった行きとは違い、帰りは何事もなく、平穏そのものだった。順調にウルカーシュ帝国領へと入り、北の辺境都市ハリアンを抜けて、無事にメリオス付近まで戻ってこれた。
 俺の目の前には、メリオスの城門がそびえ立っている。メリオスの北門には、ハリアンからだけでなく、メリオスとハリアンのと間にある村や町、帝国内の様々な場所を巡ってきた商人など、多種多様な人々が並んでいる。俺もその列に並び、自らの順番が来るのを、大人しく待つ。

〈この人の並びから予想するに、十五分くらいはかかるか〉

 人の並ぶ量から、かかるであろう時間を計算し、その時間内で暇を潰せるものを考え、それを実行しようとした時、衛兵の一人が俺に向かって駆け寄ってきた。

「カイルさん、でしょうか?」(衛兵)
「はい、そうです。俺が何か?」
「メリオス領主、フォルセ・メリオス様の命によって、あの依頼を受けた冒険者の方々は、最優先で城門を通す様に言われております。それと、お帰りになられた際には、寄り道せずに、真っ直ぐに冒険者ギルドに向かう様にと、伝言を授かっております」(衛兵)
「なる程、分かりました。復唱させていただきますが、城門を抜け、寄り道せずに冒険者ギルドに向かう。間違いはありませんね?」
「はい、間違いございません。では、私の後に付いてきてください」(衛兵)
「了解です」

 人々の並ぶ列から抜けて、衛兵さんの後に続いて前に進む。列に並ぶ人々は、衛兵の後に続いて歩く俺を見て、何事かと騒めく者もいれば、静かに観察しながら、何かがあると見抜こうとする者もいた。その中でも、目聡い一部の商人たちの中には、帝国貴族にも見えず、記憶の中の帝国要人の顔とも一致しない事から、何か特別な依頼を受けた冒険者か、領主と個人的に親しい者ではないかと、非常に鋭い予想をしていた者もいた。
 城門に到着すると、いつもと変わらず、不審物を持ち込んでいないか調べられた後、無事に城門を通り抜ける事が出来た。ここまで一緒だった衛兵さんに、ここ最近のメリオスの様子を聞き、変わった事がなかったかを情報収集する。

「毎日無事平穏、とまでは言わないですよ。だが、大きな事件もなかったですね。勿論これは、メリオス全体、都市として考えた時の答えです。都市に住む全ての人が、平和に暮らせていたかというと、正直分からないです。カイルさんと親しい人たちに関しては、ご自分で確かめていただいた方が、確実だと思われます。……お力になれず、申し訳ありません」(衛兵)
「いえいえ、大丈夫ですから。そんなに気にしないでください」
「それと、メリオスを含めたウルカーシュ帝国全体で、領主様を筆頭とした行政府、教会や神殿、各ギルドなどが協力して行う、天星祭てんしょうさいというお祭りが近々あります」(衛兵)
「天星祭?」
「故人への思いを馳せながら、皆で楽しく語り合って過ごすというものです。公園などの場所に露店が立ち並び、陽気な音楽をかなで、それに合わせて舞い踊ったりなど、様々な事を行います。さらに、各ギルドが主催して行う、様々なもよおし物もありますので、カイルさんの様に初めて参加される方でも、十分に楽しめる祭りだと思いますよ」(衛兵)
「へ~、そんな祭りがあるんですね。教えてくださって、どうもありがとうございます」
「いえいえ。それと天星祭の影響で、都市内が慌ただしかったり、人の流れが増えたりと、普段の様子とは違ってきますので、注意しておいてください。特に飲食関係のお店は、天星祭に出店を出す所もあるので、開店時間や閉店時間が変わっている可能性がありますので、気を付けてくださいね」(衛兵)
「なる程、色々とありがとうございます」
「では、これで失礼します」(衛兵)

 親切な衛兵さんは、短く敬礼をした後に、駆け足で城門に戻っていった。背中を向けて駆けて行く衛兵さんに向かって、心の中で改めてお礼を伝える。
 
〈故人への思いを馳せながら、皆で楽しく語り合って過ごす、だったか。あやふやな記憶だが、メキシコか何処かの風習に、その様な祝祭があった様な気がするな。……そういえば、ハリアンの街並みは、都市全体で行うお祝い事でもあるのかと思う程、色々な装飾などが施されていたな。あれは天星祭の為に、都市全体で準備していたのか〉

 そんな事を思いながら、冒険者ギルドに向けて歩み始める。メリオスの街並みは、ハリアンの街並みと同じように、色々な装飾が施されており、シュターデル獣王国に向かう際とは、ビックリするほど様変わりしていた。その中でも面白いのが、各家庭などで、装飾が色々と違う所だ。
 一般家庭の家などでは、控えめな装飾で済ませているが、商売をしている家々では、通行人の目を引くような、華美な装飾を施している。そして、貴族の住んでいる家々では、華々しくはあるが、見る者を感心させる様な、上品で、洗練された装飾が施されている。
 各家庭の装飾を見て楽しみながら、足を止める事なく進み続けていると、気付けば冒険者ギルドの近くまで来ていた。久々に見る、メリオスの冒険者ギルドも、ギルドの特色を表すような、武骨で、シンプルな装飾が施されている。それを一通り眺めてから、冒険者ギルドの中に入っていく。
 冒険者ギルド内は、朝方にも関わず、珍しく冒険者たちがいない。もしかしたら、天星祭の影響は、冒険者たちにも及んでいるのかもしれない。そんな静寂の中、ゆっくりと受付まで進んでいく。受付に座っている職員の中に、見知った顔がいたので、その人の受付に向かう事にする。

「あら、カイルさん。お久しぶりですね」(アレット)
「はい、お久しぶりです。依頼の関係で、シュターデル獣王国に行ってまして。久々に帰ってきたら、街並みが様変わりしていて、とても驚きましたよ」
「天星祭に参加されるのは、初めてでしたっけ?」(アレット)
「ええ、初めてです。しかも、国家規模のお祭りなんですよね?そこまで大きいお祭りは経験したことがないので、とても楽しみにしています。それに、冒険者ギルドでも、何か催し物をするんですよね?」
「はい、そうですよ。ただ基本的には、子供向けの催し物や、一般の方向けの催し物が多いです。なので申し訳ないのですが、カイルさんからしてみれば、つまらないものになる可能性が高いです」(アレット)
「あ~、なる程。冒険者ギルドや冒険者に、悪い印象を抱く人も、まだまだ多いですからね。印象改善と共に、冒険者の仕事がどういったものなのかを、知ってもらおうといった所ですか」
「そうなります」

 未だに、冒険者の事を快く思っていない人も、一定数いるのは事実だ。そういった人たちは、質の悪い、素行の悪い冒険者たちに、嫌な思いをさせられた人たちが主だ。
 だが冒険者ギルドも、何の行動も起こさず、手をこまねいているわけではない。冒険者ギルドにも、獣王家の影の者たちの様に、表を支える、裏の者たちが存在する。そういった裏の存在が、様々な情報を収集し、悪質だと判断された場合、最悪、冒険者証の剥奪、冒険者ギルドからの追放など、非常に重たいものが課せられる。そして、その情報は帝国各地の冒険者ギルドに共有され、特例措置などがない限り、二度と冒険者登録をする事は出来ない。
 だが、素行の悪い冒険者の数が、素行の良い、真面目な冒険者よりも圧倒的に多いため、いたちごっこになってしまっているのが、苦しい現状の様だ。

「それよりもカイルさん、何かギルドに用があったのでは?」(アレット)
「おっとそうでした。ギルドマスターは、今ギルド内にいますか?」

 アレットさんが、俺の質問に答えようと口を開く。だがその前に、新たな人物が口を開いた。

「カイル、戻って来たか。こっちだ、直ぐにでも報告を聞きたい」(メリオスギルドマスター)

 冒険者ギルドの二階から、ギルドマスターが降りてきて、そう俺に声をかけた。
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