イトムシ    〜 幼少期〜

夜束牡牛

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歓迎します3

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○○○○○

 ヒノデは小石丸館から帰り、馬を預けいつものように庭から入ろうとした時、芝の上のキイトを見つけ異変に気が付いた。汗が背を落ち、指が冷たくなる。すっとまわりから音が消えた。

「っキイト!」

 母親の本能から走り出し、イトムシの本能から、喉へと糸が上がって来る。
 息子は真っ青な顔をし、耳と目を硬く塞いでいた。世界の感覚から逃げている、そう感じたが、ヒノデはすぐに動けなかった。迷ったのだ、これは明らかに『歓迎』に伴う儀式で、イトムシならば誰でも経験する世界の裏側、しかしこんなに酷かったか? 自分の時は、ただ一人で世界の裏側から帰ってきたはずだ。
 突然キイトの喉が鳴り、顔色が白くなり始めた。

(このままでは、死んでしまうっ)

 イトムシとして何か順序があったかもしれない、しかしそんなことは考えられなかった。キイトの両手を強く握ると、耳から手を離し、何度もキイトの名を叫んだ。

「かあさん」

 キイトが小さく鳴いた。声が擦れていた。

(喉が、胃液と糸詰まりで焼けてしまった。御加水を飲ませないと、吐糸管が腫れてしまう)

 ヒノデはキイトを抱き上げ、大窓へと歩きだす。

「母さん……」

 もう一度呼ばれ、息子の目を覗き込んだ。少しずつ顔色は戻り、目の具合もだいぶいい。
 ヒノデはキイトを労わり、自分の精神の夜へと息子の目を招き入れ、癒し甘やかした。

「どこか痛い?」
「どこも痛くない。母さん……ごめんなさい」

 驚き目を見開いた、なぜこの子は謝ったのだろうか? もしかして、どこか頭を打って混乱しているのかもしれない、それとも何かいけなかったのか。

「服、汚しちゃって」

キイトは気まずそうに身を縮ませた。

(なんだ、そんなこと。気にも留めていなかった)

 幼い子を、安心させるために瞬きを送る。

「そんなこと、重要ではないわ。キイトが無事で本当によかった」

 そう告げると、館へと入った。

 台所ではシロが食事の準備をしていたが、ヒノデと抱き抱えられたキイトを見ると、飛び上がって出て来た。
 キイトは、驚きで飛び上がる人間を初めて見たので、こんな時でなければ、可笑しくて笑っていただろうに、とぼんやりと思った。

「まぁ! 坊ちゃん、真っ青な顔をして、どうしたのです? やっぱり、無理にでもお部屋に連れ込めばよかったわ、なのに私ったら……警備もいるし、なんだか、お側にいてはいけない気がするしで、あぁ、神様。いったいこの子が何をしたと言うのよ。ヒノデちゃん大丈夫?あなたも顔色が悪いわ。すぐに医者を!」
「ただいま。シロさん」

 ヒノデが言うと、慌てていたシロも返事をする。

「はい、おかえりなさい。ヒノデちゃん」

 キイトがもぞもぞと動き出し、ヒノデの腕から降りようとするが、ヒノデはそれを抑え込みぎゅっと力を入れ抱き直した。

「医者はいらないわ。御加水を飲んでから、お風呂に入ります。お風呂から出たら、消化の良い食事を下さい。誰が来ても今日はもう会いません。館に住人以外は入れないで。その桃、御加水に漬けてあるの? 素敵、一口頂戴」

 シロはテーブルの桃を指で摘まむと、御加水を滴らせながら、ヒノデの口へと入れた。次いでキイトの口にも一つ。そうしてシロは、人間よりも――自分よりも口数の少ない、主人の意向を読み取り、力強く頷いた。

「わかったわ、ヒノデちゃん。ついに私の出番ってことね!」

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