ワケあり上司の愛し方~運命の恋をもう一度~【完結】番外編更新中

水樹ゆう

文字の大きさ
6 / 211

05【再会⑤】

しおりを挟む

 時の流れというやつは、人間を変えてしまう力を持っているらしい。それを私は、元恋人の変貌ぶりを目の当たりにして、しみじみ実感していた。

 私の知っている榊東悟と言う男は、思ったことを顔にも出さずに平然としていられるような『できた』人間じゃなかった……はず。

どちらかと言えば、『感情の動きが表情直結』で、今機嫌が良いのか悪いのか、とても分かりやすかった。嬉しくなったり悲しくなったり。ドキドキ・ハラハラ。その表情が変わる度に、あの頃の私は一喜一憂していた。

 確かに、年齢的には二十歳そこそこで若かったこともあるだろうけど、あの頃の東悟から、今目の前にいる『大人然とした』谷田部課長を想像するのは、難しい。少なくとも、私には想像できない。

 ここまで完璧な『ポーカー・フェイス』は、見たことがなかった。こんな、人をおちょくって愉快そうに笑うような……ところは、確かにあったけど。

「……お人違いじゃないですか? 誰かと、勘違いなさっておられるのでは?」

 妙に、その態度にむかっ腹が立った私は、思わずつっけんどんな返事をしてしまった。

「……酷いな。俺は、一目で梓だって分かったのに。君の方は、俺のことなど忘却の彼方って訳だ……」

 いとも残念そうな声音とは裏腹に、彼の黒い瞳には悪戯盛りの少年のような好奇心に満ちた光が揺れている。

 この男は……。あくまで、人をおちょくって楽しんでいる。
 そう確信した私は、思いっきり眉根を寄せて渋面を作ると、視線を前方の信号機に戻した。

「梓……」

 その声で、名前を呼ばないでよ。古傷がズキズキ痛むじゃないの。生憎、私は自分の傷を抉って喜びに打ち震えるような、アブナイ趣味は持ち合わせていませんから!

「……あの時は、すまなかったな」

 明らかに、さっきまでと声のトーンが変わった。
 引き寄せられるように、再び向けた私の視線の先にあるのは、あの頃と変わらない真っ直ぐな瞳。
 これ以上ないくらい真剣な瞳には、さっきまでのからかいを込めた色合いは微塵も残っていない。

――な、なによ。
 こんなの、反則技も良いところじゃない……。

 長いようで、たぶん一瞬だろう視線の交錯。
 でも、その一瞬は、私の心の奥に封印したはずの何かを目覚めさせるのに、充分な時間だった。

 ザワザワと、心の奥で、ゆっくりと、何かが動き出す。
 それは、熱い予感。

 たぶん私は、この男に惹かれるのを止められない。
 あの頃のように。

 ううん。あの頃以上に、惹かれてしまう。

 そんな確信めいた予感が、高鳴る胸を過ぎった。



しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

鬼上官と、深夜のオフィス

99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」 間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。 けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……? 「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」 鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。 ※性的な事柄をモチーフとしていますが その描写は薄いです。

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

処理中です...