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11【再会⑪】
しおりを挟む「ああっ……」
やってしまった。
お酒を飲んで正体をなくすなんて、こんなこと初めてだ。それも、よりによって、谷田部課長の歓迎会の席でやらかすなんて、最悪すぎる――。
頭を抱えて、肺が空っぽになるくらいの、今までで最大級・特大のため息を思いっきり吐き出す。
でも、それで自分がやらかしたことが帳消しになるはずもなく、私はベッドの上で、ズキズキするこめかみとムカツク胃袋をギュッと抱え込み、反省モードに突入した。どん底まで沈みきった心は更に穴を掘って、奈落の底に落ちていく。
――しばらく、酒は飲むまい。
少なくとも、谷田部課長の前では、金輪際飲むまい。
そう、固く心に誓う。
ああ、それにしても。私ってつくづく、進歩がない。大人の女ぶりっこしてみたところで、中身は十八、九の女の子のまま、何の変わり映えもしていないじゃないの。
「ああ、もうっ……」
月曜日にどんな顔をして谷田部課長に会えば良いんだろう? と途方に暮れる頭の片隅で、私は別のことを考えていた。
少しは、怒ってくれるんだろうか、あの人は?
それとも、やっぱり大人然とした態度で、笑って見せるんだろうか?
たぶん、きっと。何事もなかったみたいに笑う……ような気がする。
二日酔いのせいばかりじゃなく、なんだか、無性にムカツク。
自分の所業を棚に上げてむかっ腹を立てていると、何処かでスマホの着信音がなった。
ま、まさか、谷田部課長からじゃない……よね?
そんな考えが頭を過ぎったけど、そもそも私のスマホの電話番号を彼が知っているはずはない。そう思い直して、鳴り続けるスマホのありかを探し、重い体を引きずるようにベッドから降りた。たぶん、ハンドバックの中だと思うけど、寝室には見あたらない。
私の部屋は、六畳間の寝室と八畳のDKの二間しかないから、残るは隣のDKのみ。ガラリと、DKへ続く木製の引き戸を開けて一歩足を踏み入れた私は、目の前の光景に『ピキッ』と全身見事に固まった。
え……、ええっ?
なに、なんなの、これは!?
ごくり。
あまりにも予想外な目の前の光景に、私はその場に固まったまま、大きな音を立てて唾を飲み下した。
――もしかしたら私はまだ眠っていて、これは夢なのかしれない。
じゃないと、こんな状況、理解不能だ。
私愛用の、淡いイエローの二人用ローソファー。その上で、ビビット・オレンジの花柄クッションを抱え込んで、誰かが窮屈そうに眠っている。ソファーからはみ出した長い手足は、大柄な男性のものだ。
って、この状況で、ここで眠っている人間なんて一人しか居るはずがない。
夢じゃない、 夢じゃない!
全部、丸ごと、現実だあっ!!
「や、や、谷田部課長ーーーーーっ!?」
あまりの衝撃に、口から滑り出した言葉はワントーン跳ね上がり裏返った。
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