ワケあり上司の愛し方~運命の恋をもう一度~【完結】番外編更新中

水樹ゆう

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14【再会⑭】

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「君たちに会うなんて、奇遇だな。女性陣二人で、ピクニック?」

 ゆっくりと歩み寄ってきた谷田部課長は、憎らしいくらいに驚きの成分なんて微塵も感じさせない、いつものニコニコスマイルを浮かべて話しかけてきた。

「ホントですよね。まさか、ここで谷田部課長と会うなんて、ビックリですよ!」

 固まったままの私には気付かず、楽しげに声を上げる美加ちゃんの傍らで、私は何者かに助けを求めるように、宙に視線を彷徨わせた。

「課長、あの女の子は、もしかして?」
「ああ」

 好奇心を含んだ声音で問う美加ちゃんに、谷田部課長は静かに頷く。

「真理、おいで」

 課長に手招きされ、私達の所までトコトコと戻ってきた少女が放った言葉――。

「パパの、お友達?」

『パパ』、その単語に、脳内が一瞬にして漂白される。

 私達と課長を見比べて、不思議そうに小首を傾げる少女の仕草を愛らしいと思う余裕もなく、私はただ、課長の顔に視線を這わせるしか出来ない。

 私の視線の意味に気付いているのかいないのか。課長はやはり表情を変えることはなく、ゆっくりとした動作で腰を屈めると、少女と自分の目線の高さを合わせて微かに口の端を上げた。言葉で表すならば、それは正に『父親』の慈愛に満ちた顔だ。

「ああ。会社の同僚なんだ」
「カイシャのドウリョウ?」
「そう。同じ工務課の、佐藤さんと高橋さんだ。パパがお世話になっている人たちだから、ちゃんとご挨拶をするんだよ」

 諭すように言う優しく響く低音の声もその穏やかな表情も、私の知っているどの東悟とも違う。私は、こんな表情をした彼を見たことがない。

 あんなに大好きで、なんでも分かっているつもりだったあの頃の私。だけど、今はこんなにも遠い。

 課長の説明に納得がいったのか、少女の顔にニッコリと邪気の無いエンジェル・スマイルが浮かんだ。

 キュッと下がる目じり。

 やっぱり、この子は課長に似ている。

「谷田部真理ですっ。パパが、おセワになります!」

 少女が『ペコリ』と礼儀正しくお辞儀をするのを、私は、ドキドキと跳ね回る自分の鼓動を他人事のように聞きながら、ただその情景を目に映していた。

――ああ。たぶんこれは、天罰だ。

 私は心の何処かで、このことを予想していた。だって、成人男性の名字が変わる理由なんてそう多くはない。

『親が離婚』したか、もしくは『本人が結婚』したか――。私にだって、それくらいのことは最初に想像がついた。

 榊東悟は谷田部家の婿になって、谷田部姓になったのかも?
 ううん、きっと違う、他の理由があるんだ。

 そう自分に言い聞かせながらも、私は心の何処かで確信していた。なのに敢えて聞かなかった。『そうだ』と聞いてしまえば、私のこの思いは絶対叶わないものに変わってしまう。それが怖かった。

 だから、これは天罰。

 確かめることもせずに現実を見ようとしなかった、優柔不断で、ずるい私への天罰だ――。


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