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50【逢瀬③】

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 スマートフォンの画面には、見慣れぬ携帯番号が表示されていた。
『誰だろう?』と首をひねりながら通話ボタンをタップした、その刹那。

「あ、おはようございます!」

 私が『もしもし』と応対するよりも素早く、受話器から飛び出してきた張りのある声に、ドキンと鼓動が跳ね上がった。

「……飯島さん?」

「はい、飯島です。お休みの所に、すみません」
「あ、いいえ。おはようございます。昨日は、お世話になりました」

「いいえ、こちらこそお世話さまでした。それでですね、実は、高橋さんの荷物を預かっていまして」
「はい?」

 私の荷物を、飯島さんが預かっている?

 どうして飯島さんが?
 と言うか、荷物って?

 訳が分からず目を瞬かせていると、飯島さんが説明をしてくれた。

「ほら、昨日のパーティで、高橋さん受付に荷物を預けたでしょう? 受付の女の子が良く知っているで、俺が高橋さんと話していたのを思いだして、忘れ物があるって連絡してきたんですよ」

 そう説明されて、ハッとした。
 そう言えば、ブティックの紙袋に着替えを入れて受付に預けたんだった。それを受け取らずに帰ってきてしまった。

 ああ、なんてドジ。
 いくら急なパーティだったからって、舞い上がるにもほどがある。

 こうして連絡を貰うまでものの見事に、すっかりそのことが頭からすっ飛んでいた事実に、思わず唖然。

「あ、ああ、すみません。こちらこそ、お休みなのに、わざわざお手数をおかけしてしまって……」
「いえ、良いんですよ。気にしないで下さい。むしろこうして電話をする口実が出来て、俺的には、ラッキーってなもので」

 カラカラと陽気な笑いに引きずられて、思わず笑みがこぼれた。

「そう言って頂けるとありがたいです。でも、どうしましょう。どこに取りに伺えば良い……って、ああ、私、車を会社に置いてきていて、バスで伺うことになるので少し時間がかかりますが……」

 答えの代わりに、飯島さんは質問を返してきた。

「高橋さん、今日、予定は空いてますか?」
「え?」

「今日、何処かに出かける予定は、ありますか?」
「あ、ええ。別にないですけど……」

 着替えを受け取りに行ったら、後はのんびり家の中でゴロゴロとしていよう。久しぶりに、撮りためたテレビドラマの鑑賞会をしてもいいし、ネットサーフィンで暇をつぶしてもいい。

 なんて、今日の予定とも言えない予定をつらつらと考えていたら、「それは、良かった」と、更に陽気な答えが返ってきた。

「はい。別に予定はないので、飯島さんの都合さえよければ今から取りに伺いたいんですが。あの、それで、どこに行けば?」

 少しの沈黙の後、意を決したように、飯島さんは口を開いた。

「高橋さん」
「はい?」

「高橋さん。予定がないなら、天気も良いし今からデートしませんか?」

「は、はいっ!?」 

 飯島さんはさらりと私の質問をスルーして、至極明るい声音で、大きな爆弾発言を投下した。


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