51 / 211
50【逢瀬③】
しおりを挟むスマートフォンの画面には、見慣れぬ携帯番号が表示されていた。
『誰だろう?』と首をひねりながら通話ボタンをタップした、その刹那。
「あ、おはようございます!」
私が『もしもし』と応対するよりも素早く、受話器から飛び出してきた張りのある声に、ドキンと鼓動が跳ね上がった。
「……飯島さん?」
「はい、飯島です。お休みの所に、すみません」
「あ、いいえ。おはようございます。昨日は、お世話になりました」
「いいえ、こちらこそお世話さまでした。それでですね、実は、高橋さんの荷物を預かっていまして」
「はい?」
私の荷物を、飯島さんが預かっている?
どうして飯島さんが?
と言うか、荷物って?
訳が分からず目を瞬かせていると、飯島さんが説明をしてくれた。
「ほら、昨日のパーティで、高橋さん受付に荷物を預けたでしょう? 受付の女の子が良く知っている娘で、俺が高橋さんと話していたのを思いだして、忘れ物があるって連絡してきたんですよ」
そう説明されて、ハッとした。
そう言えば、ブティックの紙袋に着替えを入れて受付に預けたんだった。それを受け取らずに帰ってきてしまった。
ああ、なんてドジ。
いくら急なパーティだったからって、舞い上がるにもほどがある。
こうして連絡を貰うまでものの見事に、すっかりそのことが頭からすっ飛んでいた事実に、思わず唖然。
「あ、ああ、すみません。こちらこそ、お休みなのに、わざわざお手数をおかけしてしまって……」
「いえ、良いんですよ。気にしないで下さい。むしろこうして電話をする口実が出来て、俺的には、ラッキーってなもので」
カラカラと陽気な笑いに引きずられて、思わず笑みがこぼれた。
「そう言って頂けるとありがたいです。でも、どうしましょう。どこに取りに伺えば良い……って、ああ、私、車を会社に置いてきていて、バスで伺うことになるので少し時間がかかりますが……」
答えの代わりに、飯島さんは質問を返してきた。
「高橋さん、今日、予定は空いてますか?」
「え?」
「今日、何処かに出かける予定は、ありますか?」
「あ、ええ。別にないですけど……」
着替えを受け取りに行ったら、後はのんびり家の中でゴロゴロとしていよう。久しぶりに、撮りためたテレビドラマの鑑賞会をしてもいいし、ネットサーフィンで暇をつぶしてもいい。
なんて、今日の予定とも言えない予定をつらつらと考えていたら、「それは、良かった」と、更に陽気な答えが返ってきた。
「はい。別に予定はないので、飯島さんの都合さえよければ今から取りに伺いたいんですが。あの、それで、どこに行けば?」
少しの沈黙の後、意を決したように、飯島さんは口を開いた。
「高橋さん」
「はい?」
「高橋さん。予定がないなら、天気も良いし今からデートしませんか?」
「は、はいっ!?」
飯島さんはさらりと私の質問をスルーして、至極明るい声音で、大きな爆弾発言を投下した。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
957
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる