ワケあり上司の愛し方~運命の恋をもう一度~【完結】番外編更新中

水樹ゆう

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68【親友③】

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 お昼時の社員食堂は、いつものごとく賑やかなざわめきで溢れていた。

 長方形のアイボリーのロングテーブルがずらずらと並ぶ、シンプルな社食の一番奥まった角の席。私と美加ちゃんは、他の社員から少し離れた内緒話には最高のポジションに陣取り、今日のランチ・メニューの味噌カツ定食を平らげた後、食後のコーヒーを飲みながらOLの憩いのひと時の『おしゃべりタイム』を満喫していた。

 美加ちゃんにとっては、興味津々の週末パーティの結果報告を、私から聞き出す絶好のチャンスなのだ。

「本当は金曜の夜に、よっぽど電話しようかと思ったんですよー。でも、もしも課長と良い雰囲気に突入してたら、お邪魔虫になっちゃうし、土日は私が彼氏とお泊りデートで電話できないし。もう、気になって気になってぇ」

 場所柄をはばかってか、向かい側に座った美加ちゃんは私の方に顔を寄せて声を低めた。
 それでも、瞳にはキラキラリンと、期待と妄想と言う名のお星様が輝いている。

「あ、あははは……。彼氏とお泊りデートだったの、素敵ねぇ」

 何とか話をそらそうと話題を振ってみるけど、さすがは美加ちゃん。こんなに美味しいネタを見逃してはくれなかった。

 かくかく云々と。
 課長の婚約者候補嬢のことはあえて触れずに、私がパーティの二次会で飯島さんから告白されたこと。忘れ物をして土曜日に遊園地デートをする羽目になり、おまけに課長親子と鉢合わせしたことを順を追って簡単に説明すると、美加ちゃんは、驚き半分納得半分と言った微妙な表情を浮かべて、綺麗に整えられた眉根を寄せた。

「へぇ、飯島さん、とうとう告っちゃったんですかぁ。それにしても、課長と先輩の関係を、一目見ただけですぐに見抜くなんて、大ざっぱな朴念仁に見えて意外と鋭い奴だったんですねぇ、あの色黒のお人」と、しきりに感心していた。

 とうとう?

 その言葉の意外さに驚いて、まじまじと相変わらず素敵に可愛らしいその顔に見入ってしまう。

 もしかして。

「……美加ちゃん。飯島さんの気持ちを、その、知っていたり……するの?」
「はい、ばっちり知ってますよー」

 美加ちゃんは事もなげにニコニコと、一見天使のような、その実少し人の悪い『小悪魔スマイル』を浮かべた。

――な、なんで、当の本人の私が知らないことを、美加ちゃんが知っているの?

 いくら『社内恋愛情報通の美加ちゃん』でも、取引会社の現場監督さんの片恋情報まで網羅もうらできるとは思えない。

 メイク技術ばかりか、読心術もマスターしているんじゃないでしょうね、この

 声もなくポカンと間抜けに口をあけて驚愕の眼で見つめていたら、美加ちゃんはペロリと舌を出して種明かしをしてくれた。

「ほら、あたしも何度か飯島さんの担当工事をしたじゃないですか?」
「うん。二回……くらいだっけ?」
「おお、さすがあずさ先輩! 後輩の工事の担当監督まで把握はあくしてるー」

 ヤンヤヤンヤと手を叩く真似をする美加ちゃんの様子に、苦笑してみせる。

 もちろん、いくら一番の古株とはいえ、工務課全員のお仕事情報を把握している訳じゃない。美加ちゃんは私が新人教育した子だから、自然と気になって見ているから覚えているだけ。

「全部じゃないけど、まあ、美加ちゃんの工事は覚えているわね。で、その二回がどうしたの?」

 人見知りをしない美加ちゃんと、『一見』人当たりが良い飯島さん。打ち解けて、プライベートな話をしたとも考えられる。もっとも、それなら飯島さんの興味は美加ちゃんに行きそうなものだけど。

 なんでまた私なのだろう?
 何度となく、ループしては、そこで思考が止まる。

『あなたはきっと、自分の良さを分かっていないんですよ』

 飯島さんは、ああ言ってくれたけど、どんなに考えてもやっぱり分からない。

「飯島さん、あたしと初めて会ったとき、なんて挨拶したと思います?」
「え? えーと、初めまして?」

 でしょう、一般的には。

「そう、初めまして。そこまでは良いんですけど、その後ですよ問題は」

『高橋さんは、お元気ですか? 今は、どちらの現場に? 彼女の仕事ぶりは見事ですよね。ちなみに、今、彼氏とか、居たりしませんよね?』と、あの邪気のない好青年スマイルで質問攻撃をしたのだとか。

「あたしも、あんなに分かりやすい人、初めてでしたよ。でも、何度も先輩と組んで仕事をしているのに、良くも今まで黙っていましたよねー。押しが強そうに見えて、意外とヘタレくんなのね」

「あ、あははは……」

 たしかに、変に押しは強い。

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