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148【真実⑫】
しおりを挟む「あーあ。せっかく、理性のある大人の男ぶりっこしてたのに、誰かさんのおかげで、今までの苦労がぜんぶ水の泡だ」
どこか気抜けしたような課長の、ううん、『東悟』の声に、私は目を瞬かせた。
『理性のある大人の男ぶりっこ』
……って。
「……え?」
何を、言っているの?
「最初、社員の中に君を見つけたときは、さすがにこれは『天罰』だと思ったね。これ以上なく手酷く傷つけてしまった恋人に、まさかここで会うなんて、因果応報以外の何物でもないってね」
少し自嘲気味に口の端を上げた東悟は、今度は何かを思い出したようにクスクスと笑いだした。
「おまけに、笑っちゃうくらい中身が昔のまんまで、ついつい構いたくなって……」
――どうせ、進歩がないですよ、私は。
外身ばかりが年を取り、中身はさっぱり変りばえしていない。
自分ではよくわかっているし、反省もするけど、人から言われるとなんとなく面白くないもので。
思わずむくれながらも、まるで別人のようだと淋しく感じていた東悟がそんなふうに思っていてくれていた、その事実は、ちょっとばかり嬉しい。なんて、喜んだのも束の間。
「真面目な話、思わず手を伸ばして抱きしめたくなるのを我慢するのに、苦労したよ、俺は」
「――は、は、はいっ!?」
いきなりの爆弾発言投下に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
『抱きしめたくなる』という言葉が、脳内でエコー増幅されて右へ左へ行ったり来たり。
――何を言い出すんだ、この人は!?
い、い、いや、待てよ。
これは、またもや、からかいモードに突入か?
そうだ、そうに違いない。
そう自分に言い聞かせ、チラリと爆弾発言を投下した張本人を伺い見れば、冗談とも本気とも受け取れる表情を浮かべている。
それは、なんとなく楽しげな表情だ。
「あ、そうそう。歓迎会の夜、あれはかなりヤバかった――」
前言訂正。
どう見ても、楽しげな表情だ。
「思わず、このまま襲っちゃおうかと思うくらい、ヤバかったな。って、本当は途中まで襲いかけたの、気付いてないだろう?」
「なっ!?」
なにーーーーーっ!?
「ほんっと、昔っから、無自覚に誘ってくれるから、このお嬢さんは」
「失礼ねっ! 私が、いつ誘ったっていうの!?」
驚きすぎたせいで失調気味の言語中枢は、上司に対する敬語の成分を綺麗に吹き飛ばした。なんとか反撃を試みようと口を開け閉めするけど、上手い言葉なんか出てこない。そんな私を愉快気に見やり、敵は、更なる爆弾発言を投下する。
「その1。部屋に送り届けてヤバい雰囲気になりそうだからすぐに帰ろうとしたら、酔っ払って意識ないくせに、人の前髪をグシャグシャかき回して、ニコニコ笑いかけた」
――げっ。
『ふふん』と、勝ち誇ったような表情を浮かべて、指折り数え始めた東悟の爆弾発言は次々と投下される。
「その2。窮屈そうだからスーツの上着だけ脱がせてベットに寝かせたら、意識ないくせに『シワになるからいやっ!』とか言って、人の前で全部脱ぎだした」
――うげげっ。
「その3。『又あえて嬉しい、東悟が悲しいと私も悲しいから、笑って』なんて可愛いことを言うから、思わず襲いかけた、……ってか、キスしちゃいました、マル」
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