ワケあり上司の愛し方~運命の恋をもう一度~【完結】番外編更新中

水樹ゆう

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159【真実㉓】

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 まだ眠りきらない真夜中の街を縫って、車は家路へとひた走る。車を走らせている間も、私たちはマニアックな話題で盛り上がった。

「子供の頃、薄暗い工場の中で上がる溶接の火花の色が、好きだったんだ。あれって、下手な花火より綺麗だと思わないか?」
「あ、分かります、それ!」

 思わず、答える声に力がこもる。

 この仕事に就いてから初めて工場に行ったとき目にした、溶接の際に放たれる、独特の火花。

 浮かび上がる、陰影。
 幻想的ですらある、あの一瞬。

 とても綺麗だと、美しいと思った。

「青白いっていうか、青紫っていうか、群青?」

 あの、素晴らしく綺麗な、青のグランデ―ションを表す言葉が見つからない。

――ああ、表現力の乏しさが悔しい。

「独特な色合いですよね、私も好きです、溶接の火花」
「だろ?」
「はい!」
「しっかし……」

 前方に視線を固定したまま、運転手の課長は愉快気に笑う。

「はい?」
「いや、こういう話題で盛り上がれるカップルも、珍しいんじゃないかと思ってな」
「……そ、そうですね。かなりマニアックですよね。あははは」

――カ、カップル言いましたか、今?

 さらりと放たれた言葉に、ドキドキと早まる鼓動。
 深い意味などないと分かっているけど、私の心臓はいちいち律儀に反応をする。内心の動揺を悟られまいと、思いつくまま話題をふった。

「あの課長」
「うん?」
「そう言えば、風間さんって不思議な人ですよね。ぜんぜん探偵さんには見えないのに、『名探偵』ってかんじで、頼もしいっていうか」
「ああ」

 課長は、少し、苦笑交じりの笑みを浮かべる。

「それ。『名探偵』だの『頼もしい』だのって、今度あいつに会っても、ぜったい言うなよ」
「え? どうしてですか?」
「調子に乗るから」

 きっぱりと断言する課長の横顔は、どこか優しい。

「風間さんのこと、お好きなんですね」

 こみ上げる笑いを隠し切れずに言うと、課長は不本意そうにむうっと眉根を寄せた。

「俺に、そっちの趣味はないぞ?」
「そういう意味じゃないですよ」

 課長の反応に気を良くした私の、からかいモードが、むくむくと勢いを増す。

「『ああ、良いお友達なんだなぁ』『男の友情っていいなぁ』って、見ていて羨ましいって思ったので」

 ニッコリ、満面の笑みで答えれば、いつもはあまり顔色を変える事が多くない課長の耳が、赤く染まっているのが見えた。

「……それ、言ってて、恥ずかしくないか?」
「はい、ぜんぜん」

――照れてる、照れてる。

 思わずニヤニヤ笑いを浮かべていたら、「なんだよ?」と、不機嫌そうに、だけど不機嫌じゃないってわかる低い声が飛んでくる。

「何も、言ってませんよ?」

――やだ、どうしよう。

 すっごく、楽しいんですけど。



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