ワケあり上司の愛し方~運命の恋をもう一度~【完結】番外編更新中

水樹ゆう

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172【最愛⑪】

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 実質、昼食の朝食もをすんだし、食器も片付ければ、あとは――。

「よし!」

 自分に気合いを入れるように、仁王立ちになり、腰に手を当てる。

「洗濯しよう!」

 洗うのは、洋服ばかりじゃなく自分もだ。

 結局、昨夜は着替えをしただけで、あのまま寝落ちしてしまったから、蛇親父の、むせかえるようなオーデコロンとワインの混合臭が体に残っているような気がして、気持ち悪いことこの上ない。

 恐る恐る、Tシャツの胸元をパタパタとふり、くんくんと匂いを嗅いでみるが、ワインの匂いも他の匂いも嗅ぎ取れなことに、少しほっと胸をなで下ろす。

 お風呂にお湯を張ってから、脱衣所で着ている服を全部脱いで洗濯機に突っ込み、ふと、鏡に映った自分の裸身に、その胸元に視線が釘付けになる。

「っ……」

 まだ、はっきりと識別できる、肌に散った薄紅色の小さな花びらのようなアザの数々を、震える指先で、きゅっとこする。

 これは、自分の浅はかさが招いた結果。
 そのことは、忘れちゃだめだ。
 しっかりと、肝に銘じる。

 でも、それ以外の、思い出すのもおぞましい一連のあの出来事。

――あんなこと、早く忘れるんだ。

 何も、なかったんだから。大丈夫。
 私には、課長が居てくれるんだから。大丈夫。

 まるで、呪文のように、自分に言い聞かせる。

 ふと、美加ちゃんのことを思い出した。

「美加ちゃん……」

 いつだって元気ハツラツ、可愛い笑顔で。
 今でこそ、あの体験のことをおくびにも出さないけど、そんなに簡単に、忘れられるものじゃない。

 一か月半前のあの事件の時、美加ちゃんは、どれほど恐かったろう。
 どれほと悔しかったろう。

 私は、分かったような気になっていたけど、何も分かってなかった。自分が同じような体験をして初めて、それが分かるなんて。

「ああ、私って、まだまだだなぁ……」

 思わず、大きなため息が出てしまう。

 女としても人間としても、まだまだ色々と足りない。
 こんなんじゃ、課長に、愛想をつかされてしまう。

 せっかく、課長も私のことが好きだと、はっきりと言ってくれたんだから、私も課長に見合う人間に、ならなきゃ。

 そのためには、まず、できることからコツコツと。

「お風呂、入ろうっと」

 沈んでいきそうな気持ちを引っ張り上げようと、わざと元気に声を上げ、長年の相棒の黒縁メガネちゃんを外して、洗面台の上に置く。

 お風呂は、大好き。
 その日の気分で色々な入浴剤を入れたりして、リラックスタイムを楽しんでいる。

 メガネをはずしてしまうとかなり視界が怪しくなるから、読書を楽しむということはできないけど、機会があったら、『お風呂で読書』は、一度やってみたいと心ひそかに思っている。

 わしゃわしゃと念入りに、頭の天辺から爪先まで丹念に洗い上げる。

 特に、首筋と胸元は、更に念入りに。
 まるで親の敵かと思うくらいにゴシゴシと洗いまくり、気がすむまで洗うと、今度は温めのお湯にゆっくりと肩までつかった。

「ふひぃ~」

 今日の入浴剤は、ラベンダー。
 薄紫色の色も爽やかで、香りも心地好い。
 極楽極楽。

 真昼間からお風呂に入るなんて、なんて贅沢。

 お仕事をしているみなさん、ゴメンナサイ。


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