ワケあり上司の愛し方~運命の恋をもう一度~【完結】番外編更新中

水樹ゆう

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可愛い部下の愛し方【課長視点】

15 再会⑭

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 夢を見ていた気がする。

 ひどく、懐かしい夢。

 俺はまだ能天気な大学生で、最近出会った気になる女の子をからかっていた。

 すぐに顔を真っ赤にしてムキになって言い返してくる、その様子が可愛くて。

 姿を見つけると、ついついちょっかいをかけに行ってしまう。

 平穏で。当たり前に続くと信じていた、幸せな日々の夢。

 そんな夢から俺を現実に引き戻したのは、スマートフォンの着信音と、俺が夢に見ていたご本人様のほとんど絶叫に近い叫び声。

「や、や、谷田部課長ーーーーーっ!?」

 俺は、パチリと目を開けた。

 見えるのは、自分が抱えているビビットオレンジの花柄のクッションと、コタツの脚?

 慌てた様子で歩み寄ってくる気配にゆっくりと視線を移せば、驚きで顔を真っ赤にしている梓と目が合った。

「……あ、ああ。おはよう」

 低血圧のせいでやや血の巡りが悪い脳細胞で、のろのろと今の状況を把握しにかかる。

 そうか。昨夜は、梓が俺の歓迎会で酔っぱらって、タクシーで部屋まで送って。また吐くんじゃないかと心配で明け方までベッドわきで様子をみて。大丈夫そうだと判断して、洗面器やらタオルやらをかたずけて。

 ちょっと十五分位仮眠するつもりで居間のソファーで横になって、そのまま寝入ってしまったようだ。寝ころんだまま腕時計に視線を走らせれば、午前九時を回ったところ。

 今日は、六歳になる娘の真理が、東京の実家から遊びに来る日。もうそろそろ帰らないと、待たせてしまうことになる。

 ノロノロと起き上がった俺は、何かを言いたげに傍らで口をパクパクさせている梓に向かって言った。

「スマホが鳴っているよ」

 思い出したように、ハッとした様子の梓は床に置いてあった自分のバッグからスマホを引き出し、画面を確認すると、ぴきっと動きを止めた。

 すぐにワタワタと一人で百面相をしたあと、意を決したようにスマホを耳にあてる。その姿が、夢の中の彼女と重なり、思わず口の端が上がる。

「ア、アハハ……、何とかね。醜態晒しちゃって、ゴメンね美加ちゃん」

 どうやら、電話の相手は、昨日の歓迎会の幹事をしてくれた佐藤さんのようだ。俺は、自分のビジネスバックから手帳を一枚破り取ると、『用事があるから、帰ります』と書いて、なにやら楽し気に電話中の梓の肩をトントンと叩いて目の前にかざして見せた。

「え、あのっ!」

 梓は驚いたように目を丸めたが、俺は右手を軽く上げて別れの挨拶をしたあと、足早に部屋を後にした。

 パタリとドアが閉まり、彼女が追ってこないことに内心ガッカリしている自分に気付き、苦笑いが出てしまう。

 まだ、そんなことを期待しているのか?

 まったく、しょうもない。

 ふと見上げれば、五月の空が、俺の未練など取るに足らない些事さじだといわんばかりに、気持ちよく晴れあがっていた。


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