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第2章 汗と涙の、オトナのお仕事ライフ
14 暗雲垂れ込める初面接①
しおりを挟むゴールデンウィークが過ぎたばかりの、五月の大安吉日。月曜日の午後。
あいにくの、降り出しそうな曇り空の下。私は、愛車の白い軽自動車を相変わらずの亀並のトロトロ若葉マーク運転で、後続車に迷惑をかけながらも気分良く走らせていた。
今の気分を一言で表すなら、『どっきどっき・わっくわっく』。白天使茉莉と黒悪魔茉莉が、仲良くオクラホマミキサーを踊っていそうなかんじだ。
大きな期待とそれと同じ質量の不安で、私の小さな胸は高鳴っていた。でもやはり、期待の方が大きいかもしれない。なんと言っても今から、篠原茉莉の人生20年で、初めての『会社の面接』があるのだ。
目指すは、『株式会社 FUDOU』。この面接に、今後の生活がかかっている。
確かに、プレッシャーはある。でも、私のやる気モードは、絶好調。未知なる世界への挑戦。現代の女は、どんどん社会に出なくちゃ、だ。
婚約を破棄された件は、正直言えばかなり辛かったし、大きなダメージを受けた。結局、父には、面と向かって婚約破棄されたことを言えずに、手紙で伝えることにした。
『高崎さんとは、別れました。ごめんね』
たったそれだけの、短い手紙。
大好きな人に、大好きだった人に、私よりも大切な女性が存在した。その上、その女性のお腹の中には、既に新しい命が宿っているという衝撃すぎる事実。
ただでさえ会社のことで心労が重なっているはずの父に、更に追い打ちをかけるようなことは教えたくなかった。でも、正式に婚約を交わしている以上、黙っているわけにもいかなかったのだ。
理由を書かなければ、父は、自分のせいだと自分自身を責めるかもしれない。そういう懸念はあった。それでも、まだ結果のみを伝えた方が、よけいな心の負担をかけずにすむような気がした。
あの別れの夜。端的に事実だけを記した短い手紙を食卓の上に置いておいたら、翌朝、手紙の最後に『分かった。』という、父からの更に短い返事が書かれていて、この一件は終わりを告げた。
深夜に家に帰ってあの手紙を読んだ父が、怒ったのか悲しんだのか、私には分からない。でも翌朝、顔を合わせた父は、そのことについては一切触れなかった。その気づかいが、ありがたかった。
そして、私の方はと言えば。数日間は思い出して枕を濡らしたりしたけれど、今はもうすっかりさっぱり、未練はない。未練なんか、持ってる暇なんかない。
返って新しい事にチャレンジする活力にもなった。そう思える。
――よしっ。後顧の憂いは無し。前進あるのみ。
私は、これから仕事に生きるのよっ!
履歴書は今までで一番丁寧な文字で心を込めて書いたし、ヘアもメイクも服装も美由紀伝授の『これで面接はバッチリ!』モードで完璧だ。
後は、笑顔でハキハキ面接あるのみ。
万が一、事故渋滞や道路工事で肝心の面接時間に遅れたら目も当てられない。だから、美由紀によれば『茉莉の運転なら三十分くらいで付くはず』の道のりを、余裕を見て二時間前に家を出てきた。いくら何でも四倍の時間的余裕を見れば、間違いないはず。
面接は午後四時からで、今は二時半。もう既に家を出てから三十分が経っている。事故渋滞にも、道路工事にも引っかからなかった私はスムーズに車を走らせてきた。
「もうそろそろ、だよね?」
ぼそりと呟き、私は、会社へ曲がる道の目印だと言うコンビニエンスストアを探した。目の前に広がっているのは市街地から少し外れた、ちょっと寂しい風景。その中を真っ直ぐ延びる広い二車線道路を、たかたか車を走らせる。
これだけ見通しの良い、建物の少ない道路。コンビニに限らず、何か建物があれば目に付いたはず。でも今まであったのは、ファミリーレストランと何かの工場みたいな建物。それに、ゴルフショップと大型ホームセンターくらいだ。後は、空き地や畑、それに青々した田んぼが広がっている。
――場所的には、この辺のはずだよ……ね?
本当に、こんな所に会社があるの?
少し不安になってきたとき、進行方向左側にお目当てのコンビニを発見して、ほっと胸を撫で下ろす。
あそこで、会社のことを尋ねてみよう。
私は、コンビニの広い駐車場に車を滑り込ませた。
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