オ・ト・ナの、お仕事♪~俺様御曹司社長の甘い溺愛~【完結】

水樹ゆう

文字の大きさ
60 / 138
第4章 ファーストキスは助手席で

60 シンデレラ・ナイト①

しおりを挟む

 社長の本性を知り、一気に天国から地獄へと突き落とされたその翌日。いつもなら昼食は節約のために手作りのお弁当なんだけど、今日ばかりは特別だ。

 正式採用祝い。
 というよりは、やけ食いの色合いが大分濃い。

 大学の学食で、本日のおすすめメニューの和風ジャンボハンバーグ定食をぺろりと平らげた私は、美由紀に、たまりにたまったグチを聞いて貰っていた。

 とにかく、この胸の奥にわだかまり続けているモヤモヤーっとしたものを、誰かに分かって欲しい。じゃないと、ふくらみ過ぎた風船みたいに破裂しそうなんだもの。

 ようは、ストレス解消。
 優しい心の友の美由紀ちゃんは嫌な顔もせずに、むしろ楽しげに私の長い話に相槌あいづちをうってくれている。

「へえ。で、今夜は、お食事接待に、およばれなわけだ」
「およばれ……って言うのとはまた違うと思うけど」

『接待』かぁ。
 どんな感じなんだろう?
 やっぱり、お客様に『お酌』とかしたりするんだろうか?

 お座敷だと嫌だなぁ。
 正座でどのくらい座っていられるか、あまり自信がないし。

 ううう。憂鬱だーーー。

「でも、一緒に食事をするんでしょ?」
「うん、まあ、そうみたいだけど」

 スポンサーって言ってたから、大事なお客様だよね?

 ああ、気が重いなぁ。
 それにしても、どうして、お供が『私』なんだろう?

 ピカピカの新人社員の私を大切な接待の場に連れて行って、社長にどんなメリットがあるんだろう?

 疑問ばかりが浮かんでは消える。

「じゃあ、オシャレしていかないと、だね」
「え、面接のときに着たパンツスーツで行こうと思ってるんだけど、ダメかな? 社長もスーツでって言ってたし」
「うーーん。そうだねぇ」

 美由紀は腕組みして何やら考えを巡らせたあと、ニッコリと満面の笑顔で言った。

「接待だし、『地味ぃな』パンツスーツでいいと思うよ」
『地味ぃな』のイントネーションに、何かひっかかるものを感じたけど、美由紀も太鼓判を押してくれたことだし、よし。今日は、パンツスーツで出社することにしよう。

 そして、夕方四時。

「亀子さん、行って来るね!」

 リビングのサイドボードの上。九十センチ水槽の水の中でびろーんと手足を伸ばし、卍の形で眠っているミドリガメの亀子さんに声をかける。

 にょーんと顔を水面から出して、『はい、行ってらっしゃい~』と言うみたいに、私に視線を向けてくるそのしぐさに思わず頬の筋肉がへにゃりと緩む。

 本当、亀さんって、癒し系。
 よし、今日も、頑張るぞっ!

 亀子さんに見送られて、お気に入りのネイビーブルーのパンツスーツに身を包んだ私は、張り切って会社――、緑の稲穂の真ん中にそびえたつ、灰銀の巨塔。

 我が職場、ラブホテル・クロスポイントへと、張り切って向かった。

 ちなみに、父はこの時間はまだ会社にいて帰ってくるのは私より少し早いくらいの、たいていが日付が変わった午前一時頃。それでも朝はいつも通りに会社に行くのだから、睡眠時間は毎日三、四時間くらいしか取れない。

 私の睡眠時間も、似たようなものだけど、合間を見て仮眠を取れる私と違って働きづめの父の健康が、少し心配だ。唯一、顔を合わせるのは朝食の時。

『今が踏ん張り所だ。もう少しすれば、暇になるから』と、笑って言う父の顔には、はっきりと疲れの色が見て取れる。

――お父さん、あんまり、無理しないでね……。

 車を走らせながら、ふと脳裏をよぎった、父の一回り小さくなったように感じる後ろ姿に、そっと語りかけた。



しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

駆け引きから始まる、溺れるほどの甘い愛

玖羽 望月
恋愛
 【本編完結済】 番外編更新中  雪代 恵舞(ゆきしろ えま)28歳は、ある日祖父から婚約者候補を紹介される。  アメリカの企業で部長職に就いているという彼は、竹篠 依澄(たけしの いずみ)32歳だった。  恵舞は依澄の顔を見て驚く。10年以上前に別れたきりの、初恋の人にそっくりだったからだ。けれど名前すら違う別人。  戸惑いながらも、祖父の顔を立てるためお試し交際からスタートという条件で受け入れる恵舞。結婚願望などなく、そのうち断るつもりだった。  一方依澄は、早く婚約者として受け入れてもらいたいと、まずお互いを知るために簡単なゲームをしようと言い出す。 「俺が勝ったら唇をもらおうか」  ――この駆け引きの勝者はどちら? *付きはR描写ありです。 本編完結済 番外編掲載中です。 エブリスタにも投稿しています。

デキナイ私たちの秘密な関係

美並ナナ
恋愛
可愛い容姿と大きな胸ゆえに 近寄ってくる男性は多いものの、 あるトラウマから恋愛をするのが億劫で 彼氏を作りたくない志穂。 一方で、恋愛への憧れはあり、 仲の良い同期カップルを見るたびに 「私もイチャイチャしたい……!」 という欲求を募らせる日々。 そんなある日、ひょんなことから 志穂はイケメン上司・速水課長の ヒミツを知ってしまう。 それをキッカケに2人は イチャイチャするだけの関係になってーー⁉︎ ※性描写がありますので苦手な方はご注意ください。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 ※この作品はエブリスタ様にも掲載しています。

【完結】エリート産業医はウブな彼女を溺愛する。

花澤凛
恋愛
第17回 恋愛小説大賞 奨励賞受賞 皆さまのおかげで賞をいただくことになりました。 ありがとうございます。 今好きな人がいます。 相手は殿上人の千秋柾哉先生。 仕事上の関係で気まずくなるぐらいなら眺めているままでよかった。 それなのに千秋先生からまさかの告白…?! 「俺と付き合ってくれませんか」    どうしよう。うそ。え?本当に? 「結構はじめから可愛いなあって思ってた」 「なんとか自分のものにできないかなって」 「果穂。名前で呼んで」 「今日から俺のもの、ね?」 福原果穂26歳:OL:人事労務部 × 千秋柾哉33歳:産業医(名門外科医家系御曹司出身)

花に溺れ恋に純情~僕様同期御曹司の愛が私を捕らえて離さない~

美凪ましろ
恋愛
「――狂いそうなくらいに、きみが好きだ」  三途の花と揶揄される私、川瀬花子。にこりともしないことで有名で、仲のいい同期もいない。  せっかくIT系大手企業に入って頑張って三ヶ月もの研修に耐えたのに配属されたのはテスターのいる下流の部署。  プライドが傷つきながらも懸命に働いて三年目。通勤途中に倒れかけたところを同期の御曹司・神宮寺恋生に救われ――。  恋に、仕事に奮闘し、セレブとの愛に溺れる、現代版シンデレラストーリー。

龍の腕に咲く華

沙夜
恋愛
どうして私ばかり、いつも変な人に絡まれるんだろう。 そんな毎日から抜け出したくて貼った、たった一枚のタトゥーシール。それが、本物の獣を呼び寄せてしまった。 彼の名前は、檜山湊。極道の若頭。 恐怖から始まったのは、200万円の借金のカタとして課せられた「添い寝」という奇妙な契約。 支配的なのに、時折見せる不器用な優しさ。恐怖と安らぎの間で揺れ動く心。これはただの気まぐれか、それとも――。 一度は逃げ出したはずの豪華な鳥籠へ、なぜ私は再び戻ろうとするのか。 偽りの強さを捨てた少女が、自らの意志で愛に生きる覚悟を決めるまでの、危険で甘いラブストーリー。

憧れていた敏腕社長からの甘く一途な溺愛 ~あなたに憧れて入社しました~

瀬崎由美
恋愛
アパレルブランド『ジェスター』の直営店で働く菊池乙葉は店長昇格が決まり、幹部面談に挑むために張り切ってスターワイドの本社へと訪れる。でもその日、なぜか本社内は異様なほど騒然としていた。専務でデザイナーでもある星野篤人が退社と独立を宣言したからだ。そんなことは知らない乙葉は幹部達の前で社長と専務の友情に感化されたのが入社のキッカケだったと話してしまう。その失言のせいで社長の機嫌を損ねさせてしまい、企画部への出向を命じられる乙葉。その逆ギレ人事に戸惑いつつ、慣れない本社勤務で自分にできることを見つけて奮闘していると、徐々に社長からも信頼してもらえるように…… そして、仕事人間だと思っていた社長の意外な一面を目にすることで、乙葉の気持ちが憧れから恋心へと変わっていく。 全50話。約11万字で完結です。

15歳差の御曹司に甘やかされています〜助けたはずがなぜか溺愛対象に〜 【完結】

日下奈緒
恋愛
雨の日の交差点。 車に轢かれそうになったスーツ姿の男性を、とっさに庇った大学生のひより。 そのまま病院へ運ばれ、しばらくの入院生活に。 目を覚ました彼女のもとに毎日現れたのは、助けたあの男性――そして、大手企業の御曹司・一ノ瀬玲央だった。 「俺にできることがあるなら、なんでもする」 花や差し入れを持って通い詰める彼に、戸惑いながらも心が惹かれていくひより。 けれど、退院の日に告げられたのは、彼のひとことだった。 「君、大学生だったんだ。……困ったな」 15歳という年の差、立場の違い、過去の恋。 簡単に踏み出せない距離があるのに、気づけばお互いを想う気持ちは止められなくなっていた―― 「それでも俺は、君が欲しい」 助けたはずの御曹司から、溺れるほどに甘やかされる毎日が始まる。 これは、15歳差から始まる、不器用でまっすぐな恋の物語。

極上Dr.の甘美な誘惑―罪深き深愛の果てに-(旧題:sinful relations)

雛瀬智美
恋愛
*タイトルを極上Dr.の甘美な誘惑―罪深き深愛に溺れて-に変更いたしました。 メインキャラの設定の見直しのため、随時、加筆修正版&次話を更新していきます。 「もう会うこともないだろうが……気をつけろよ」 彼女は少し笑いながら、こくりと頷いた。 それから一緒に眠りに落ち、目覚めたのは夜が明けた頃。  年上男性×年下少女の重ねる甘く危険な罪。両片思いのすれ違いじれじれからハッピー甘々な展開になります。 階段から落ちたOLと医師のラブストーリー。

処理中です...