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滋ヶ崎、競り落とす
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あっさりと3億円に入ったが、ちらほらと会場内には番号札が立っている。
3億円である。この後マルコシウスを一生働かせて元が取れるかどうかだ。誰だか知らない競合相手を滋ヶ崎は直接殴りに行きたかった。
「きれいなものは、やっぱりみんな欲しいよねえ」
小声でのんきな感想を述べる祝を睨みつける。
まあ何も知らなかったら、「あのかわいい子を助けてあげたい」と滋ヶ崎でも思うかもしれない。怖い思いをしただろうから、家に連れて帰ってお風呂に入れてあげて、その後温かいご飯も出してあげよう。そうすれば懐いてくれて、身も心も開いてくれるに違いない――おとなしいマルコシウスには、何となくそう思わせる雰囲気がある。
(まあ実際は罵倒されるんだけど)
「3億500、1000、1500、2000、2500」
ぱらり、と滋ヶ崎の前に立っていたパドルが下がる。会場内を見回す。滋ヶ崎以外、残り5本。
「3000、3500、4000、4500、5000」
もう1本、今度は左端のあたりに立っていたパドルが消えた。残り4本。
「6500、7000、7500」
残り3本。
「8000、8500、9000、9500……4億!」
残り2本。
「4億500、1000、1500、2000、2500……5000」
残り1本。
(そんなにあいつが欲しいのか)
下がらないパドルを見て、滋ヶ崎は不思議でしょうがなかった。多少なりともマルコシウスを知っている――そしてぶっちゃけ余り金がある――滋ヶ崎ならともかく、相手はマルコシウスとほぼ初対面だ。そこまで執着する理由があるとは思えない。
(正直言って、それなりに扱ってくれるなら全然譲ったっていいんだけど)
滋ヶ崎はこんなことに使うために金を稼いだわけではない。可能なら出費は避けたいのだ。
ちらりとパドルの主を見る。見たことのないスケルトンだ。まあ滋ヶ崎はスケルトンの見分けなんてつかないのだが。頭蓋骨の中で青い光が揺らめいているだけで、いまいち表情が読めない。
(ううん……)
ここで知らない相手に引くわけにはいかない。半ば意地になって滋ヶ崎はパドルを上げ続ける。
「8000、8500、9000、9500、5億、5億500、1000」
ぴくりとスケルトンの手が揺れる。こちらを睨まれたような気がした。引けや、という念を込めて横目で睨み返す。
(こっちはこれに全財産賭けられるんだぞ)
「1500、2000、2500」
もう一度スケルトンの手が揺れ――そして渋々といった様子で、パドルが下がった。
「……5億3000万円! 5億3000万円! 36番落札!!」
良く響く声でオークショニアが叫び、カンカン! と木槌が鳴る。
ふは、と滋ヶ崎は下げたパドルの番号を見た。36番。確かに自分である。1分にも満たない間のことだっただろうが、滋ヶ崎の全身はじっとりと汗をかいていた。
手早くマルコシウスの檻が運び出され、続いて黒いローブ姿の男と大きなクロヤマネコの入った檻が運ばれてくる。
「69番、70番、魔獣使いと使役魔獣のセット、良品です! 性質は大変従順、ご子息の家庭教師やボディーガードに! 最低落札価格1億2000万――」
やれやれ、と滋ヶ崎が腰を上げると、「え、もういっちゃうの?」と祝が目を見開いた。
「そりゃもう用ねえしな」
「えー、僕まだ見たいんだけど」
「……じゃあ先帰ってるから」
軽く手を振り、落札場を出て手続きに向かう。
(5億3000万……)
絶対マルコシウスには見合わない額だ。あいつのどこにもそんな価値はないし、バラ売りしても一生働かせても足が出る。ここにさらに手数料とかがかかってくるのだから余計に腹立たしい。あのスケルトンめ、と舌打ちをしながら、係員に提示された料金を通貨代わりのチップで払う。
「確認取れました、36番様ですね。ただいま商品の点検中ですので、少々お待ちください」
ホテルのような一室に通されて待っていると、しばらくして露出度の高いマルコシウスが連れられてきた。首輪に繋がったリードを受け取り、書類にサインをして引取完了だ。
「遅いっ!」
猿轡を外してやると、開口一番マルコシウスはそう言い放った。もう意識ははっきりしているようだ。
「なんで俺が助けに来る前提なんだよ……」
まずは「来てくれてありがとう」とか「勝手に家を出てごめんなさい」とかではないのか。滋ヶ崎が唖然としていると、かあっとマルコシウスの顔が赤くなった。そのまま俯いてしまう。
「だっ、な……わた、っ……ぅ……」
太腿の上で握りしめられた拳の揺れが激しくなるのを見て、滋ヶ崎は自分のジャケットを脱いだ。より高く売れるよう、ツヤツヤに磨き上げられた肩の上に掛けてやる。
「ほら、帰ろう」
首輪を外し、丁寧に整えられた髪の毛を撫でてやると、ひうっ、と変な声が聞こえた。そのまま俯いた頭が滋ヶ崎に押し付けられる。
「……こわかった」
「うん」
「ぜんぶ、みられて、それでっ、いろんなひとに、さわられてっ」
えぐっ、ひぐっとしゃくりあげる声が止まらない。
「うう……やすひろの、せい、なんですからぁ……」
「わーったよ、もう……家帰ったら風呂入ろう、な? 洗ってやるから」
滋ヶ崎のジャケットを羽織る背中に手を回す。胸に押し付けられた頭がこくり、と頷いた。
3億円である。この後マルコシウスを一生働かせて元が取れるかどうかだ。誰だか知らない競合相手を滋ヶ崎は直接殴りに行きたかった。
「きれいなものは、やっぱりみんな欲しいよねえ」
小声でのんきな感想を述べる祝を睨みつける。
まあ何も知らなかったら、「あのかわいい子を助けてあげたい」と滋ヶ崎でも思うかもしれない。怖い思いをしただろうから、家に連れて帰ってお風呂に入れてあげて、その後温かいご飯も出してあげよう。そうすれば懐いてくれて、身も心も開いてくれるに違いない――おとなしいマルコシウスには、何となくそう思わせる雰囲気がある。
(まあ実際は罵倒されるんだけど)
「3億500、1000、1500、2000、2500」
ぱらり、と滋ヶ崎の前に立っていたパドルが下がる。会場内を見回す。滋ヶ崎以外、残り5本。
「3000、3500、4000、4500、5000」
もう1本、今度は左端のあたりに立っていたパドルが消えた。残り4本。
「6500、7000、7500」
残り3本。
「8000、8500、9000、9500……4億!」
残り2本。
「4億500、1000、1500、2000、2500……5000」
残り1本。
(そんなにあいつが欲しいのか)
下がらないパドルを見て、滋ヶ崎は不思議でしょうがなかった。多少なりともマルコシウスを知っている――そしてぶっちゃけ余り金がある――滋ヶ崎ならともかく、相手はマルコシウスとほぼ初対面だ。そこまで執着する理由があるとは思えない。
(正直言って、それなりに扱ってくれるなら全然譲ったっていいんだけど)
滋ヶ崎はこんなことに使うために金を稼いだわけではない。可能なら出費は避けたいのだ。
ちらりとパドルの主を見る。見たことのないスケルトンだ。まあ滋ヶ崎はスケルトンの見分けなんてつかないのだが。頭蓋骨の中で青い光が揺らめいているだけで、いまいち表情が読めない。
(ううん……)
ここで知らない相手に引くわけにはいかない。半ば意地になって滋ヶ崎はパドルを上げ続ける。
「8000、8500、9000、9500、5億、5億500、1000」
ぴくりとスケルトンの手が揺れる。こちらを睨まれたような気がした。引けや、という念を込めて横目で睨み返す。
(こっちはこれに全財産賭けられるんだぞ)
「1500、2000、2500」
もう一度スケルトンの手が揺れ――そして渋々といった様子で、パドルが下がった。
「……5億3000万円! 5億3000万円! 36番落札!!」
良く響く声でオークショニアが叫び、カンカン! と木槌が鳴る。
ふは、と滋ヶ崎は下げたパドルの番号を見た。36番。確かに自分である。1分にも満たない間のことだっただろうが、滋ヶ崎の全身はじっとりと汗をかいていた。
手早くマルコシウスの檻が運び出され、続いて黒いローブ姿の男と大きなクロヤマネコの入った檻が運ばれてくる。
「69番、70番、魔獣使いと使役魔獣のセット、良品です! 性質は大変従順、ご子息の家庭教師やボディーガードに! 最低落札価格1億2000万――」
やれやれ、と滋ヶ崎が腰を上げると、「え、もういっちゃうの?」と祝が目を見開いた。
「そりゃもう用ねえしな」
「えー、僕まだ見たいんだけど」
「……じゃあ先帰ってるから」
軽く手を振り、落札場を出て手続きに向かう。
(5億3000万……)
絶対マルコシウスには見合わない額だ。あいつのどこにもそんな価値はないし、バラ売りしても一生働かせても足が出る。ここにさらに手数料とかがかかってくるのだから余計に腹立たしい。あのスケルトンめ、と舌打ちをしながら、係員に提示された料金を通貨代わりのチップで払う。
「確認取れました、36番様ですね。ただいま商品の点検中ですので、少々お待ちください」
ホテルのような一室に通されて待っていると、しばらくして露出度の高いマルコシウスが連れられてきた。首輪に繋がったリードを受け取り、書類にサインをして引取完了だ。
「遅いっ!」
猿轡を外してやると、開口一番マルコシウスはそう言い放った。もう意識ははっきりしているようだ。
「なんで俺が助けに来る前提なんだよ……」
まずは「来てくれてありがとう」とか「勝手に家を出てごめんなさい」とかではないのか。滋ヶ崎が唖然としていると、かあっとマルコシウスの顔が赤くなった。そのまま俯いてしまう。
「だっ、な……わた、っ……ぅ……」
太腿の上で握りしめられた拳の揺れが激しくなるのを見て、滋ヶ崎は自分のジャケットを脱いだ。より高く売れるよう、ツヤツヤに磨き上げられた肩の上に掛けてやる。
「ほら、帰ろう」
首輪を外し、丁寧に整えられた髪の毛を撫でてやると、ひうっ、と変な声が聞こえた。そのまま俯いた頭が滋ヶ崎に押し付けられる。
「……こわかった」
「うん」
「ぜんぶ、みられて、それでっ、いろんなひとに、さわられてっ」
えぐっ、ひぐっとしゃくりあげる声が止まらない。
「うう……やすひろの、せい、なんですからぁ……」
「わーったよ、もう……家帰ったら風呂入ろう、な? 洗ってやるから」
滋ヶ崎のジャケットを羽織る背中に手を回す。胸に押し付けられた頭がこくり、と頷いた。
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