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マルコシウス、風呂に入る
しおりを挟むなんだって自分は自分の庭に降ってきただけの人間にここまで手間と金をかけているんだろう、と思いながら滋ヶ崎はマルコシウスの髪にシャワーをかけた。コンディショナーのぬめりが残らないよう髪の生え際を念入りに洗ってやると、気持ちよさそうに目を細めるブルーグレーの目が鏡越しに見えた。
連れ帰ってきてからのマルコシウスはおとなしかった。よほどショックだったのか、時折啜り泣くだけであとは滋ヶ崎にされるがままになっている。
(気味悪いな……)
泡立てたボディーソープで、上書きするように全身を撫でていく。展示されているときから思っていたが、思っていた以上に華奢で、筋肉がついていない。白く柔らかい体は女性というよりまだ子供のようで、少し力をかけるだけで簡単に折れてしまいそうだった。
淡い色の乳首の上を撫でたとき、「ん」と小さな吐息が聞こえた。聞こえなかったことにして、軽く勃っている包皮の中や足のつま先まで泡で撫でてやる。
「ほら、これでいいだろ」
全身の泡を流すと、マルコシウスの両手が恥ずかしそうに滋ヶ崎の両肩に伸びてきた。濡れるからやめてほしいんだが、とシャツを着たままの滋ヶ崎が思っていると、白く形のいい尻が甘えるように揺れた。
「……な、中も……」
「調子乗んなよ」
言いながらも風呂場の壁に手をつかせ、突き出した尻の間に指を入れる。指を這わせると、ボディーソープより粘度の高い愛液が指先に触れた。
(うわ、すげ……なにこれ、こいつの体質? 異界人ってこんな尻穴してんの? 便利っちゃあ便利だけど……)
とろとろと濡れた窄まりに指をあてる。案の定、軽く力を籠めるだけでぬるりと先端が飲みこまれた。
「あっ、はぁ……ん」
小さく声が聞こえ、マルコシウスの肩が震える。
「なに、お前これ気持ちいいの?」
「ん、な、ことっ……あぁ……ない、です」
軽く中をかき回しているだけなのに、びくびくと白い肩が揺れる。面倒くさくなってきた滋ヶ崎は「ああそうですか」と柔らかい穴を広げて中を適当に洗い、物足りなさそうな顔をしているマルコシウスを風呂から上げた。
ずっと着ていた白い服は人攫いに捕まった時にどこかへいってしまったので、代わりに滋ヶ崎のパジャマを着せる。大分だぼついているが、展示されていた時に身に着けていた布切れ一枚よりはマシだ。
髪の毛を乾かし終わったころには、すっかり夜になっていた。
「何か食うか? ……食えるか?」
ぴったりと横に座って離れないマルコシウスに滋ヶ崎が聞くと、口元に手を当てたマルコシウスは何を思い出したかまた泣きそうな顔になり、小さく首を振った。
「じゃあもう寝ろ」
これにも首が振られる。もう好きにしろ、とスマホを取り出した滋ヶ崎がメールチェックをしていると、視界の端でこくりこくりと金髪の頭が舟を漕ぎはじめた。手を止めて横を見ると、すでに焦点が定まっていないブルーグレーの目に、徐々に瞼が下りてきているのが見えた。ふっと意識が飛びそうになる瞬間に、驚いたように頭が上がる。
3回ほどそれを繰り返したのちに、ごんっと大きな音を立てて額がちゃぶ台にぶつかった。
「おい、寝ろよ」
何が起こったか分からない、という顔で目をぱちぱちさせているマルコシウスを肘でつつく。特にやりたいことがあるわけでもないだろうし、邪魔なのでさっさと寝てほしい。
「やだ」
「はー?」
「ひとりは……やだ」
「はあー??」
面倒くさいことこの上ない。滋ヶ崎が睨みつけていると、またマルコシウスの目が潤むのが見えた。ぎゅう、と服の裾を引っ張られる。
「……あーもー!」
マルコシウスを引っ付けたまま二階へ上がり、すっかり彼の部屋になってしまった手前の一室を開ける。布団を敷いてやってそこにマルコシウスを押し込むと、隣の自分の部屋からもう一組布団をその横に運び込んだ。
「これで文句ねーかクソが!」
「……はい」
半ギレで隣の布団に潜り込むと、布団の中を移動してきたマルコシウスが滋ヶ崎の腕に抱きついてきた。はふ、と安堵したような声を漏らし、二の腕に顔を押し付けながら目を閉じる。
寝息が聞こえてくるのに、時間はかからなかった。
「……」
寝たならいいだろう、と滋ヶ崎は腕を引き抜こうとした、が、しっかりと抱かれた左腕はちょっとやそっとでは抜けそうにもない。このやろ、と強めに引っ張ると「うぅん」とマルコシウスが薄目を開けた。
(畜生め!)
諦めた滋ヶ崎は、腕から力を抜いて目を閉じた。マルコシウスは食欲がないかもしれないが滋ヶ崎は腹が減ったのである。消さないで欲しい、と言われたので部屋の電気は煌々とついたままで、それもまた寝にくくて腹立たしい。
マルコシウスが何やら呟きながら、滋ヶ崎の腕を抱きなおした。だが何といったものかは分からなかった。
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