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試練・精霊契約編
第16話《“仲間の問題は、クラスの問題”》
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中に入ったのは、いかにもファミレスっぽいところだった。
若い女の店員が近づき、
「2名様ですか?」
と尋ねてきた。
「いえ、待ち合わせがいるので」
「そうですか、では、ごゆっくり」
顔馴染みなのか、流れるような対応に、俺は首を傾げる。
「マリナーラ、待ち合わせって?」
「クラスの子なのです。よくここで集まってワイワイガヤガヤするのが日課なのです」
連れられて来てみれば、すでに知った顔がコーラを飲みつつ居座っていた。
「あれ、お前はたしか………」
「やぁ福本さん。君もここに来たのかい?」
そう言ったのは、隣席のオダ・アツナガである。何故か金属バットを胸に抱えているが。
「アツナガくん。きょうは早いのですね」
「いやー、今日も多目に素振りでもしようかなって思ったんだけど、気が変わってさー」
す、素振り………?
「あ、アヤノンちゃんは知らないのですよね。アツナガくんはとりあえずいつもバットの素振りをする、いわゆる“変な人”なのです」
「変な人は傷つくよマリナーラちゃん。けど、そうだなぁ。毎日無心でバット振ってたら、やっぱりそうなっちゃうのか………」
「アツナガ。お前野球部?」
「え? 違うよ。なんで?」
「なるほど、“変な人”だな」
「…………?」
ボケ顔のアツナガをほっといて、俺とマリナーラは彼と向かい合う形で座った。
「いつもこのメンバーなわけ?」
俺は座るとすぐさま尋ねた。
「いや、まだいるよ」
そう答えたのはアツナガである。
「あと一人かな。多分福本さんは見かけてない顔だと思う。今日は僕とマリナーラちゃんぐらいとしか話してないでしょ?」
「そうだね。今日はなんだか濃密な1日だなぁ」
「そういえば福本さん校長室に呼び出されてたよね? なに言われたの?」
「ああ、実はな………」
「あ、いたいた」
俺の話を遮って、可憐な顔立ちの少女がこちらにやって来た。
マリナーラの表情が和んだ。
「ジェンダーくん。やっと来たのですね」
…………、え、『くん』?
「いやぁごめんよ。ちょっと急用が重なって………」
そう言ってにこりと顔作りするそれはやはり女だ。でも、『くん』?
「あ、君は今日の転校生だよね? 名前は、えっと………『アバズレ』?」
「『アヤノン』な。どんな間違いだよ」
「ご、ごめんよアヤノンちゃん! そう怒らないで! ね!?」
やっぱり………顔が女子だ。眉を少々吊り上げ、涙目で猫のように抱きついてくるこの素振りは、まさしく女子!
「な、なぁ………マリナーラ」
「はいなのです!」
隣のマリナーラは羨ましそうに見てくる。
「この子ってさ………“おとこ”、なの?」
「な、なに言ってるのですかアヤノンちゃん!」
「そ、そうだよね!? やっぱ女の子だよね!」
「“おとこのこ”に決まってるじゃないですか!」
「なわけねーだろ! だって見ろよこれ。素振りも顔付きも声も何もかも女子だよ、パーフェクトガールだよ!」
「でもジェンダーくん、ついてるですよ?」
ヒ、ヒァァァァァ!――――と、俺は驚愕を露にする。
「い、いや! 俺は信じないぞ! これがあの『男子』だなんて………」
「? アヤノンちゃん、勘違いしてるのです」
「な、なにを?」
マリナーラはスケッチブックを取り出す。
さらにネームペンで、デカデカと書き出した。それを俺に見せつけてくる。
「『男の子』、ではなくて、『男の娘』、なのです」
「そ、そっちのほう!? え、マジで?」
再び視線をジェンダーくんへ。ジェンダーくんはすでに俺から体を離しており、アツナガの隣に座っていた。
「うん、僕は『男の子』なんだ。ごめんね、アヤノンちゃん………」
「なんで謝るの………?」
「こらこらジェンダーくん。表記が違うですよ。“男の娘”でしょ? まったく、いつになったらあんたは一人前の“男の娘”になるんだい?」
「なんでお母さん口調? 一人前の『男の娘』ってなに?」
「あ、店員さん。『シャプレの手羽先』をお願いするのです」
「こらこら無視すんな。え? 何なのこのノリは?」
いつのまにか変な注文をしたマリナーラは、手元のお茶で喉を潤した。
アツナガは出されたおしぼりで、何故かバットをフキフキしながらいった。
「それよりも、話をもとにもどそうよ。福本さんは、何の用で呼び出し喰らったんだい?」
マリナーラは怒り狂った表情に変異し、コップでガタンとテーブルを叩きのめした。
「どうせあの校長の変態プレイなのです。アヤノンちゃんの蒸れたパンツをスーハースーハーしてたに決まってるのです!」
「だからされてねーっつーの!」
なおも否定はするが、彼女に俺の声は届かなかった。ジェンダーくんが耳打ちをした。
「マリナーラちゃん、校長先生を何故か目の敵にしてるみたいだから、少し話題をそらした方がいいよ」
「お、おう……………」
俺はマリナーラを現実に連れ戻すため、校長から言われた『魔力』のことについて話した。途中、全員がある一点で同時に驚いた。
「それは………深刻な問題だね」
アツナガはいつのまにかバットを放り出していた。
「魔法力基礎テストって、たしか下手すれば赤ちゃんでもできるって噂を聞いたよ。てことは、アヤノンちゃんはまだ生まれたて、なんだね…………」
ジェンダーくんが神妙な顔付きでそう言い放った。
「いやジェンダーくん。その理論はおかしい。俺もう16歳だぜ?」
「え!? じゃ、じゃあアヤノンちゃんはほぼ魔力なしの一般人ってことに…………」
「魔力少ねーんだよ、悪かったな!?」
「魔力が少ないっていうのは、ちょっと語弊があるのです」
普段にない顔付き。目を鋭く尖らせ、少女は魔法書を覗いていた。
「魔法力は誰にでも差別なく、一定量はあるらしいのです。だから私も、アヤノンちゃんも、アツナガくんも、ジェンダーくんも、皆みんな同じなのです」
「じゃあなんでこんなことに………」
「問題はおそらく………『リード力』にあるのです」
パタン、と彼女は魔法書を閉じた。
「『リード力』ってなんだよ?」
「『リード力』というのは、体の内に眠る魔法力を外界に取り出す力のことなのです。これが弱いと、魔法力はちょっとしか取り出せないのです」
「じゃあ、俺に魔力がほぼないってのは………」
「その『リード力』が不足してるからなのです」
そうしてる内に、注文の品がやって来た。それは『シャプレの手羽先』というらしい。茶色のソースに塗られたそれが、俺を一瞬惑わせる。
「なに、これ…………」
「『シャプレの手羽先』なのです」
マリナーラはいつも通りに戻っていた。
「いやシャプレってなに? 新種の幼虫?」
「モンスターなのです。おいしいですよ?」
そう言うので、俺は一口頬張った。
「うん………なんか複雑な味だ………」
獣特有の生臭さに加えて、ソースの濃厚な香りと風味がそれを相殺しようと奮闘している。しかしそこから生まれてくるのは、すべてがブレンドされた、意味のわからない味…………。
「ふむ、アヤノンちゃんのお口には合わないのですね」
しかしマリナーラは珍獣ハンターかのように、赤い瞳をちらつかせながら、無情に食らいついていた。
気づけば喰っているのはマリナーラただ一人だった。
「二人は食べないのか?」
ジェンダーくんは可愛らしく首を横に振った。
「僕はプロのシェフが作った、『ラッチングミートソーススパゲッティ』しか食べないから………」
「贅沢だなおい」
「まあ僕は嫌いじゃないんだけどね」アツナガが言う。
「ほら、いつ合コンに行くか分からないじゃないか。それで口臭くさいとか言われたらたまったもんじゃないからね」
「学生のうちに合コンなんか行かねーだろ」
俺は口直しに、冷たい水を口に含んだ。飲み干すと同時に、さっきのミステリアスな味が去っていく。
「とにかく、俺はこれから3日間の間に、その精霊とやらを探して、精霊契約をしないといけないんだ」
「じゃないと退学かぁ………これはキツいね」
アツナガは再びバットを取り出す。いっそのことずっと持っとけばいいのに。
「仕方ないさ。やるからには絶対見つけ出してやる。いきなり退学になって笑い者になりたくないからな」
「それなら…………」
食事を完了した珍獣ハンターは言った。
「私たちから先生に、公欠扱いにしてほしいと頼んでおくのです。だからアヤノンちゃんは、ずっと血眼に探せるのですよ」
「え、いいのか?」
「きっと大丈夫なのです! もし断られても、力でねじ伏せるので安心するのです!」
「いや安心できねーよ!」
ジェンダーはクスクスと笑った。
「アヤノンちゃん。頑張ってね? 僕たちも授業終わったら手伝うから」
「そんなのわるいよ。これは俺個人の問題だし………」
「“仲間の問題は、クラスの問題”」
アツナガは格言口調で言った。
「これは僕たちY組のクラス目標だ。だからこれはクラスの問題なんだ。ぜひ力を貸させてくれよ」
「そうか………? そりゃあ、ほんと、ありがとう」
俺がクソ真面目に頭を下げると、三人は高らかに笑い声を挙げた。
俺はちょっぴり嬉しかった。
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※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。
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