とある少女の異世界奮闘記+α

輝国 飛鷹

文字の大きさ
17 / 69
試練・精霊契約編

第15話《虚ろな少女》

しおりを挟む
 

      4



  俺は今、あのカオスから帰還して、マリナーラと一緒に下校している。
  学校を出るまで気づかなかったが、俺は今、あの丘から見えたガラス張りのドームの中にいるのだと言われた。たしかに空を見上げれば、太陽の苦い放射線は遮られ、ちょうどよい適応の斜熱が降りかかる。
  最近異常気象で死にそうな俺たちにとっては勿体ない環境であった。是非とも日本国民の皆さんをここに一度ご招待したい。
「アヤノンちゃんは、『モール都市』は初めてなのですか?」
  彼女は唐突に、しかしトクトクの人形のように歩きながら尋ねてきた。
「モ、モールとし? なにそれ芸名?」
「売れなさそうな芸名なのです。そうじゃなくて、この都市の名前なのです」
「へぇ…………ここモール都市っつーんだ」
「…………アヤノンちゃん。ホントに何も知らないのですね」
「う、うん…………」
  そりゃあ異世界の人間ですから、ね?
  と、つい口に出しそうになるのをどうにか抑えた。あまり騒ぎ立てたくないし、隠した方がいいだろう。
「アヤノンちゃんは、どこに住んでいたのですか? モール都市ここを知らないなんてアリぐらいなのです」
「い、田舎だったんだよ田舎。ホント閉鎖的なところのね!」
  とっさに嘘をついた。みえみえだろうが。
「相当な田舎なのですね………。分かりました。私が色々と教えてあげるのです!」
  この少女にはみえみえではなかったらしい。俺はひそかにラッキーだな、と思った。
  俺が小心者でいると、マリナーラは自慢気に語ってくれた。

  ここモール都市は人口約4500万人の大都市で、世界からあらゆる商品、農作物、科学技術、ファッションを取りそろえた、別名『世界マーケット』と呼ばれているところらしい。
  面積の細かな数値は存じないが、広さは東京の何倍もありそうだった。
  俺たちが今歩いている『モールB号線ごうせん』という国道付近は、繁華街の聖地で、向いて北西の方向には繁華街が集合している。
  いまは昼の1時らしい。人が多そうだ。そこまでは目視でだいぶ距離がある。
「そうだ!」
  もう驚いた。いきなりマリナーラが声をあげた。何か合点した様子だ。少女はこちらに向き直り、
「アヤノンちゃん、今日はお昼まだでしたよね?」
「あ、………そういえばそうだね、………」
「なら、一緒にあそこに行くのです!」
  指を指した先に有ったのは、俺が見つめていた繁華街のそれだった。マリナーラは俺の手を取り、無理やり引っ張った。

  樹木に挟まれたモールB号線をしばらく突き進み、途中の三手の分かれ道で左のモールB-1号線に入った。
  そこからでもすでに見たことのない料理店があるのだが、マリナーラは見向きもせず、ただまっすぐ。目的地はあの繁華街の中のようだ。というか、有無を言わせない彼女の性格に、俺は少し戸惑っている。
「ちょっ………自分で歩くからいいよっ………!」
「そうなのですか?」
  ならば、と言わんばかりに俺は急遽きゅうきょ突き放された。バタンと尻餅をつく。
「い、いきなり放さないでよ………」
「ご、ご免なさいなのです………」
  うーん、何か調子が狂う。
  とにかく俺は立ち上がった。
「繁華街に行くの? 俺今日金持ってきてないよ?」
  それ以前に、今俺は『野口先輩』すら持っていないのだ。
「大丈夫なのです! 今日はアヤノンちゃんと親しくなる記念日! 私が奢るのです!」
「記念日って………」
「さぁさぁ、行くのですよ~!」
「あ、ちょっ………待てよ、速い速い!」
  モールB-1号線をさらに奥へ。その先は繁華街と接続されていた。

  俺の印象は、どこか懐かしい感じの………そう、現代で言えば、商店街アーケードの、あの雰囲気。あれがさらに拡大して、巨大な一つのショッピングモールになったような………。
  いや、これだと分かりにくいな。とにかく商店街アーケードということだ。ただし、今みたいに店にシャッターがしかれてるような現状は全くなくて、どの店も好きなだけ繁盛しているように見える。
「ほらほらアヤノンちゃん! こっちなのですよー!」
「いや、………マジで………速いからっ………!」
  俺をおいて、マリナーラはさっさと中へ入っていく。俺は見失わないよう、何とか足を速めた。
  ホントに走るのはキツい。何故なら俺は刀を腰からぶら下げているからだ。それにもとよりそれほど体力のない俺には、この女体化した体は、ある意味コントロールしずらいのだ。まぁもっと言えば、胸にぶら下げたこのプルんとしたヤツが邪魔で………。
  おっと、走りながら鼻血が出てきた………!

  そんな時である。

  俺は視線をそらしていたため、バタンと通行人と衝突してしまった。
  作用反作用により、互いに正負の力が働き、そして尻餅をついた。本日二度目だ。
「いったたた………あ、すいません! 大丈夫ですか!?」
「……………」
  相手は、虚ろな目をした女の子だった。目元にはクマができていて、けどそれとは関係なしに青い髪が透き通るように美しい。若干日本人のハーフを思わせるその均整な顔立ちは、俺の心を若干揺らがせた。
  少女は何もしゃべらない。口も開かない。ただボーっと上の空。
  これは怒ってるなぁ――――と、そう認識した。
「あの…………ホントすみません! 俺が前を見てなかったばっかりに…………」
「………………、」
「あのー…………?」
「………………はっ!?」
 少女は今気づいたように、目を見開いた。虚ろの瞳に光が戻ってきていた。
  ということは、今まで無意識だったということなのか………?
  少女はビックリした顔で、俺からスリスリと離れていき、すぐに立ち上がって去っていってしまった。
「え? …………あっ、これって…………」
  唖然と立ち尽くす俺の視界に、何かが入り込んだ。すぐ右下。アスファルト状の歩道の上に、目立つ赤色のハンカチが。
「これ………きっとあの子のモノだよな………」
  サッと手に取り、再び視線をもとに戻した。

  少女の姿はもうどこにもなかった。

「………どうしよっかな。このハンカチ………」
「何がどうしたのです?」
「うわっ!?」
  背後からの不意討ち。俺は何故かくるりと回転して再び尻餅を。本日三度目だ。尻が痛い。流石に涙目ものである。
「………っ。マリナーラ。いきなり声かけんなよ。驚いたじゃないか」
「アヤノンちゃんがいつまでも来ないのが悪いのです。私、繁華街を5周するくらい待ってたのですよ?」
「落ち着けよ。てかあの短時間で5周ってやベーなお前」
「なに、魔法を使っただけなのです」
  たしかにマリナーラの手元には例の魔法書がある。ちなみに【初級】レベルのやつだ。
「魔法だなんてずりーぞお前。どおりで速いわけだ」
「ちなみに使った魔法は、『ナンバー761,スピードランニング』なのです!」
「英会話のセールス商品にありそうな名前だな」
「これは、秒速、分速、時速、マッハ関係なしに、その人の平均のスピードの数値をたった1だけしかあげられないザコ魔法なのです」
「うん、地味にスゴいなそれ。なに、これで初級編なわけ? 結構体力数値をあげてるような………」
  これは地味に素晴らしい。しかしそのスゴさを等の本人は理解してないようだ。無垢な瞳を傾げているだけである。
「あ、ほらアヤノンちゃん!」
  手をいきなり握られた。少しドキッとする。
「早く行くのですよ! そうしないとお昼ご飯遅くなっちゃうのです!」
「分かった分かった! 分かったから引っ張るなっ!」

  今日はとりあえず、この少女に振り回されそうである。
  俺は例のハンカチを落とさないよう、とりあえずバックの中にしまい込んだ。

  



  

  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

《カクヨム様で15000PV達成‼️》悪魔とやり直す最弱シーカー。十五歳に戻った俺は悪魔の力で人間の頂点を狙う

なべぞう
ファンタジー
ダンジョンが生まれて百年。 スキルを持つ人々がダンジョンに挑む世界で、 ソラは非戦闘系スキル《アイテムボックス》しか持たない三流シーカーだった。 弱さゆえに仲間から切り捨てられ、三十五歳となった今では、 満身創痍で生きるだけで精一杯の日々を送っていた。 そんなソラをただ一匹だけ慕ってくれたのは―― 拾ってきた野良の黒猫“クロ”。 だが命の灯が消えかけた夜、 その黒猫は正体を現す。 クロは世界に十人しか存在しない“祝福”を与える存在―― しかも九つの祝福を生んだ天使と悪魔を封印した“第十の祝福者”だった。 力を失われ、語ることすら封じられたクロは、 復讐を果たすための契約者を探していた。 クロは瀕死のソラと契約し、 彼の魂を二十年前――十五歳の過去へと送り返す。 唯一のスキル《アイテムボックス》。 そして契約により初めて“成長”する力を与えられたソラは、 弱き自分を変えるため、再びダンジョンと向き合う。 だがその裏で、 クロは封印した九人の祝福者たちを狩り尽くすための、 復讐の道を静かに歩み始めていた。 これは―― “最弱”と“最凶”が手を取り合い、 未来をやり直す物語

九尾と契約した日。霊力ゼロの陰陽師見習いが大成するまで。

三科異邦
ファンタジー
「霊力も使えない。術式も出せない。 ……西園寺玄弥、お前は本当に陰陽師か?」 その言葉は、もう何度聞いたか分からない。 霊術学院の訓練場で、俺はただ立ち尽くしていた。 周囲では炎が舞い、水がうねり、風が刃のように走る。 同年代の陰陽師たちが、当たり前のように霊を操っている。 ――俺だけが、何もできない。 反論したい気持ちはある。 でも、できない事実は変わらない。 そんな俺が、 世界最強クラスの妖怪と契約することになるなんて―― この時は、まだ知る由もなかった。 これは―― 妖怪の王を倒すべく、九尾の葛葉や他の仲間達と力を合わせて成長していく陰陽師見習いの物語。

異世界きたのに、冒険者試験で詰みました。

アセチルサリチルさん
ファンタジー
【追放もざまぁも無双もない。あるのは借金と酒と笑いのみ!】 お父さん。お母さん。 あなたたちの可愛い息子は―― 異世界で、冒険者になれませんでした。 冒険者ギルドでのステータス鑑定。 結果は「普通」でも、 固有スキルは字面最強の《時間停止》 ……なのに。 筆記試験ではギルド創設以来の最低点。 そのまま養成所送りで学費は借金三十万。 異世界初日で、多重債務者です。 ……なめてんのか、異世界。 ここで俺たちパーティのイカれたメンバーを紹介するぜ! ケモミミ用スキルが初日で無駄になったバカ、タクヤ。 魔力制御が全くできない厄病神のバカ、リーシャ。 実は厨二病で呪い装備しか愛せないバカ、オルファ。 そして――スキルで時間を止めても動けないお茶目な俺、ユウヤ。 うーん! 前途多難! これは―― 最強でも無双でもない。 理不尽な世界で、借金と酒と事故にまみれながら、 なんだかんだで生き延びていく話。 追放? ざまぁ? 成り上がり? そんなものはございません。 あるのは、 愛すべバカどもが織りなすハートフルな冒険譚のみ。 そんな異世界ギャグファンタジーがここに開幕!

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

最弱弓術士、全距離支配で最強へ

Y.
ファンタジー
「弓術士? ああ、あの器用貧乏な最弱職のことか」 剣と魔法が全てを決める世界において、弓は「射程は魔法に及ばず、威力は剣に劣る」不遇の武器と蔑まれていた。 若き冒険者リアンは、亡き叔父から譲り受けた一振りの弓「ストーム・ウィスパー」を手に、冒険者の門を叩く。周囲の嘲笑を余所に、彼が秘めていたのは、世界をナノ単位で解析する「化け物じみた集中力」だった。 リアンの放つ一矢は、もはや単なる遠距離攻撃ではない。 風を読み、空間を計算し、敵の急所をミリ単位で射抜く精密射撃。 弓本体に仕込まれたブレードを操り、剣士を圧倒する近接弓術。 そして、魔力の波長を読み取り、呪文そのものを撃ち落とす対魔法技術。 「近距離、中距離、遠距離……俺の射程に逃げ場はない」 孤独な修行の末に辿り着いた「全距離対応型弓術」は、次第に王道パーティやエリート冒険者たちの常識を塗り替えていく。 しかし、その弓には叔父が命を懸けて守り抜いた**「世界の理(ことわり)」を揺るがす秘密**が隠されていた――。 最弱と笑われた少年が、一張の弓で最強へと駆け上がる、至高の異世界アクションファンタジー、開幕!

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

処理中です...