とある少女の異世界奮闘記+α

輝国 飛鷹

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試練・精霊契約編

第21話《突入前のおふざけ》

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      *


  繁華街に入り、車の存在を確認した。あまり速く走ってはいない。このスピードなら見失わずに済むだろう。
  午後ということもあり、繁華街は再び混雑している。その中を分け入って行くのは、状況とは裏腹に骨が折れた。何度も衝突し、転びそうになりながらも、後を追った。
  車はY字の分かれ道の右に入った。しまった………と下唇を噛み締めた。
  俺は左の歩道から後を追っていたが、車はこちらとは別方向に進んでしまったのだ。このままでは見失ってしまう。俺は歩道から車道に勢いよく飛び込み、その軌跡を辿っていった。
  車のスピードが速くなってきた。車体との距離が徐々に広まっていく。
「はぁ…………はぁ……………くそっ!」
  息が………つらい。呼吸器官が上手く作動しなくなり、足の筋肉から力が抜けていく。
  ダメだ………車に追いつけない。
  車体はもう1つの点と化してしまっている。このままじゃあ………

「お~いアヤノンちゃーん、なのです~!」

  ………マリナーラ?
  かすれた意識の中、知っている声が聞こえた。すると足の筋肉が急に引き締まり、楽に走ることができるようになったのだ。呼吸器官も徐々に回復していく。これなら………いける!
  そして何とか車との距離は一定になった。
  正面からの風がいつにも増して強くなる。
「こいつは…………いったい…………」
「『ナンバー761、スピードランニング』………なのですよ。忘れましたか?」
  風に乗った俺の横に並列して、マリナーラが走っていた。
「マリナーラ!? どうしてここに!」
「昨日手伝うといったはずなのですよ。アヤノンちゃんが必死に走っているのを見かけて、ついてきたのです」
「そうだったのか……………」
「今、私の唱えた魔法で、きっと楽に走れてるはずなのです。なんで走ってるのか知りませんが………」
「目前の車、見える?」
「え………あはい、遠くですが見えるのです。それがなにか?」
「俺………見たんだ。あの車に無理やり女の子が連れていかれる瞬間を」
「それって………誘拐なのです!?」
「分からない………けど、何かイヤな予感しかしないんだ………」
「そういえば、精霊は見つかったのですか?」
「いや、変なひとに捕まって時間潰された」
「それは災難で…………あ! あの車、右の建物に入っていくのです!」
  俺たちは悟られないよう、なるべく距離を取り、
「アヤノンちゃん、向かいの方に隠れるのです」
「わかった」
  援助魔法によりすぐに追い付いた俺たちは、相手が中から出てくる前に、向かいの路地に身を潜めた。薄く翳りのあるそこは、身の存在感を圧倒的に縮小させるのに最適だったのだ。
  ガタっと運転席から誰か出てきた。
  出てきたのは、あのカモメ男である。眉を鋭く尖らせ、随時周囲をキョロキョロと見張っている。
  次に出てきたのは、あのハンカチの少女だ。口にはガムテープを、手には手錠を、さらに黒服の付き添いときた。これでは逃げれるわけがない。
  カモメ男は黒服にアイコンタクトをとり、建物の中に入らせた。建物は古く、壁には亀裂が入っている。無人だということが伺えた。
  カモメ男はまだ中に入らない。いや、入れないといったところか? えらく辺りを気にしている。もしかすると俺たちの気配を察知しているのかも。
「あのカモメ男がリーダーかな………黒服の奴ら、あいつに従ってるぽいし………あれ、どうしたマリナーラ?」
  隣のマリナーラの様子がおかしかった。一時のまばたきさえ忘れて、ただひたすらガン見である。
「………あのカモメ男、指名手配犯なのです」
  唐突だった。俺は思考が追い付かない。
「そうか……………………え、指名手配犯?」
「なのです。人身売買の」
「人身………売買!?」
  一方。
  カモメ男はようやく懲りたのか、一息ついて中に入っていった。
  人気ひとけのなくなった路地で、マリナーラの顔にはさらに翳りが増していて。
「指名手配犯………通称『カモメ』と呼ばれている男らしいのです。今日、先生からの連絡事項で知らされたのです。あの男が国道B―1号線あたりに潜伏している、と」
「じ、じゃあ………俺が見た光景って………」
「きっと………人身売買の生の現場だったのですよ」
「…………!」
  俺は絶句してしまう。
「それにさっき連れていかれた女の子…………首からプレートを提げていたのです」
「プレート…………?」
「『商品ナンバー213』………しっかりとそう明記されていたのです」
「商品………人身売買のか! ということは、今の状況って結構マズいんじゃないのか………!?」
「かなりマズいのです。買い手に引きとられるまさにその瞬間か………もしくはたった今から監禁されるところか………そのどっちかだと思うのです」
「……………」

  言葉にならなかった。

  人身売買――――。
  それは俺の世界でも行われている、卑劣でみにくい犯罪だ。身寄りのない女性や子供達を誘拐し、それを気に入った買い手に買い取らせ、金を儲ける。最近では、親自身が子供を売りさばくという恐ろしい現状すらある。

  俺は今、異世界でその光景を目の当たりにしているのだ。

「これから………どうするのです」
  俺のやることは決まってる。無言で立ち上がり、表舞台に出ようとした。
「待つのです」
  マリナーラに引き留められた。俺のほっそりとした腕を、力強く掴んで。
「アヤノンちゃん、どうするつもりなのです」
「決まってるだろ。あそこに乗り込んで、あの子を救いだす。………そんでもって、あのカモメ男をぶっ飛ばす」
「アヤノンちゃんがやる必要はないのです。ここは警察に通報して…………」
「もちろんそれも大切だ。けど、もしこれが『引き渡し』だとしたら、警察が来る前に逃げられるかもしれないだろ。だから行かないと」
「でもだからって―――」
「………マリナーラ、あの子の表情、見たか?」
  俺は質問をなげかける。マリナーラは表情を硬くした。
「あの子の顔を見ればわかる。あの子はこの状況に怯えて、“助け”を求めてるんだ。声にならない“助けて”という言葉を、あの子は発しているんだ。それなのに、なにもしない奴がいるか?」
「アヤノンちゃん…………本気、なのですね?」
「………当たり前だろ。俺は人を見捨てるほど、人間辞めちゃいないよ」
「……………」
  そこでマリナーラを手を、俺は軽く振り払った。
「本音を言えばさ………不安しかないよ? 俺には今魔法力が無いし、突っ込んだところでこてんぱんにされるのがオチなんだろうけど………、だからといって、俺はここから見て見ぬふりをするのはゴメンだ」
「……………」
「俺は………たとえ魔法力がないとしても、それでも行くよ。マリナーラは………どうする?」
  マリナーラはどう思っているのか。できれば面倒ごとに巻き込みたくない………。
  だが、マリナーラはそれでも、納得したようにため息をついた。
「………ほんっと、面倒な子がやってきたものなのです」
「…………マリナーラ?」
  きびすを返すと、魔法書を抱えた一人の少女が立ちあがっていた。
「分かりましたアヤノンちゃん。それなら私もついていくのです。もうやけくそなのです」
「お前…………」
「まぁ、やっぱり? 連れていかれた子が心配ですし、魔法が使える私が居て越したことはないのです。別にアヤノンちゃんが心配とか、そんなんじゃないのです」
  そっぽを向いて、少しツンツン気味に言った。少しかわいいなぁと思ってしまった。いわゆるツンデレか?
「ありがとよマリナーラ。お前がいれば心強い」
「うぅ………なんなのですかあなたは! 女の子なのに男の子みたいなことしか言わないし、変人なのです変人!」
「いだだだ!? 髪引っ張んな髪を! てかそこ今さら突っ込むか!?」
「みーんなずっと気にしていたのです! もうモヤモヤだらけなのです!」
  マリナーラは相当気にかかっていたようだ。まぁ周囲から見れば、俺の口調は相当クセがあるように見えるだろうが、それはマリナーラに対しても言えることだと思うぞ。
   髪を引っ張る、その淡く白い肌の手を力量で跳ね返し、
「はいはい、変人でわるかったですね。………そういえば、ジェンダーくんたちはどこだ?」
「む、無視しないでほしいのです!」
  待ってろ………今助けに行くから。
  中に囚われた少女に、俺は心からそう呼び掛けた。


      *


「えぇー!? 人身売買の現場に突入する!?」
  女子と相違ないジェンダーは、その容姿と声、素振りを最大限に活かした反応をした。これが意図的じゃないのだから驚きだ。
  電話の相手はマリナーラである。別々にアヤノンを探していたのに、どうすればそのような展開になるのだろうか。
  タブレット端末のマリナーラは、少々怒っていた。
『ごめんなさいなのです。アヤノンちゃんのワガママに付き合うことになっちゃったのです。ジェンダーくん、アツナガくん。悪いですが、警察に連絡を入れてくださいなのです。私のところからだと、電波がなんか届かないのですよー』
「えっーと…………マリナーラちゃん、どうしたのさ。 なんで怒ってるんだい?」
  アツナガは鋭く指摘する。
  しかし端末に映ったマリナーラは随時笑顔である。
『別に。アヤノンちゃんにちょーっとムカついてるだけで、私はこの通りニコニコなのですよ!』
「………変なマリナーラちゃん。アヤノンちゃん、いったい何をしたんだろう?」
「さ、さぁ…………?」
  もう二人は混乱気味である。そこ時端末から、別の声が混じってきた。
『なんだマリナーラ、連絡は取れたのか? 俺の悪口は後にしてくれ』

「あ………アヤノンちゃんの声だ」

『悪口じゃないのです! 嘆いているのです!』
『なんで嘆くんだよ。自分から一緒に行くって言ったじゃん』
『そ、それは………あ、アレなのです。おやつのプリンが落ちてその、あの、メロンパンなのです!』
『意味わかんねーよ………。まったく、ほら行くぞ』
『あ、私のタブレット返すのです! 取り上げないでほしいのですー!』
『はいはい、それじゃあジェンダーくん、アツナガくん。後は任せたよ』

  ピッ。

  連絡はそこで途絶えた。
「………マリナーラちゃん、青春してる。ね、アツナガくん?」
「あぁ………そうだね」
  二人は太陽の直射日光にも負けない、深い翳りを漂わせて、ただ一言。

「……………僕、彼女できるかな?」
「……………できるよ、きっと」
  
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