とある少女の異世界奮闘記+α

輝国 飛鷹

文字の大きさ
22 / 69
試練・精霊契約編

第20話《罠と事件発生》

しおりを挟む


      *


  荒れた建物だった。男の背後についていきながら(正確に言えば、連れていかれてるのだが)、少女は周囲を黙視していた。
  どういう建物だったかは皆目検討がつかないが、普段から閉鎖されてる所だとは推測できた。窓ガラスにはあちこち亀裂が入っているし、ある一室では天井もろとも崩壊している。足場には空の瓶や引き裂かれたカーテンの残骸。壁際には今にも消えそうな照明。
「………結構な有り様で驚いたろ?」
  カモメの男は独り言のように言った。歩みを止めはせずに。
「この無人だった建物を、上の奴らがちょっとばかし改造して、あんな牢屋を作ったのさ。人身売買の本拠地にここを使えって言われた時は、マジかと思ったもんだよ」
「………こんなんじゃあ、外に声が漏れたりする」
「あぁ。一応こいつが有るのはモール都市の中だからな。俺のお前たちへのが外に聞こえちまう」
  愛の鞭―――皆を貶して、殺してたくせに!
  男は背後から殺気を覚えた。
「おやおや、なんだ商品ナンバー『213』? 今さら俺にたて突こうってのか?」
「………しない。どうせしたところで、また拘束されるもん」
「賢明な判断だ『213』。そんな賢いお前に質問だ。何故今までここの実情が外に漏れなかったと思う?」
「それはきっと………『消音魔法』を使ってるから」
「その通り! この建物自体に『消音魔法』をかけるのはさすがに骨が折れたよ。いくら簡単な初級魔法だとしてもな」
  階段に差し掛かり、下に降りたことで、ここは上の階だと、少女は初めてわかった。
「………外にでるの?」
「しかたねーんだよ。俺だってしたくねえ。だが客がここじゃ嫌だ、こっちの指定場所に来いってしつこくてさ」
  一階に降りても、様子は同様である。荒れ果てたそこはまさに少女にとって絶望、破滅、死を表していた。一刻もはやくここから出たくて、崩壊した出入り口に急いだ。
「おいおい、焦るなよお嬢さん。今外に出て、この悪夢を振り払ったとしても―――」
  男がなにかを言っている。構うもんか! はやくこの悪夢から―――悪夢から―――逃れたい!
  走る。栄養失調で倒れそうな体を酷使して、目前に輝く“希望”にめがけて走る。
  ゴールはもうすくだ! あと少し………その先には………きっと………、
  自由が―――
「…………っ!?」
  足が強制的に停止した。素足のそれには、術式のような帯が表面から浮き出ている。
「こ、これは…………!?」
「商品ナンバー『213』。勘違いしてもらっちゃあ困る」
「!?」
  背後からゆっくりと、ゆっくりと歩み寄ってくる男。その手元には魔法書が。
  この男は、外でもなお自分を縛り付けるというのか………!?
  男はほくそ笑みながら言った。
「確かにお前は解放される。だがそれは“プロローグ”―――幕開けだ。再びお前に闇は寄ってくる。擦り付いてくる。取りいてくる」
「…………!?」
  モール都市の表にようやく顔を出した時、少女は目の前の光景に絶句した。

  黒服を着た男たちが、何人も待ち構えていたのだ。

  その背後には粗末な輸送車が。あれはまさか………自分を運ぶための………?
「あきらめろ」
  いつの間にか、声が耳元で囁かれている。少女は顔をひきつった。
「お前にはない。永久にその体をむさぼられるか、売られるか、はたまた燃やされるか………それしかお前に道はねぇんだよ」


      9


「いいか、精霊の最大の栄養素は、『糖分』にあると言われているんだ。なぜ『糖分』なのかはというと、実はこれには色んな説が有って、まずは精霊の“故郷”と呼ばれている異世界では森羅万象の主な主成分は『糖分』であると言われていてしかしこいつは信憑性に欠けているんだけど私はそいつに賛成だ何故かと言うと色んな意味で長くなってしまうから割愛するけど精霊は私たちとはまったく細胞の構成物質がことなるわけでつまり私たちのように栄養素を摂取して消化液で分解し体に吸収されることができないというのが私の持論でけど中には精霊が単に甘いもの好きだというのもあるんだけどやっぱり私は―――」

「ちょっと、ストップストップストップ!」

  俺は『フレーベ・ザ・ワールド』を展開しようとするこの女を停止させた。
「うん、ストップするね」
「一般人と研究者の性格使い分けてる…………」
「うん、こんな長話日常からしてたら嫌われちゃうでしょ?」
「自覚してんのか…………」
  本当におかしな女である。俺は深くため息をついた。
「………で、散々意味不明なこと話してたけど、要するに精霊は、『糖分が好き』ってことだろ?」
「うん、そういうこと。ちゃんと分かってるね」
「数時間もその事だけを述べられたら誰だって分かるよ…………。けどよ、だからって…………」
  俺は仕掛けられた“罠”をじっと見据えて言ったのだ。このおかしな女に。
「これはいくらなんでも………バカにしすぎじゃね?」

  罠………それは人類が産み出した、獲物を捕らえる為の装置、さらにはメカニズムを言う。俺の世界の話になるが、ある地域では社会との関係を一切遮断し、原住民の生活を送り続けている所がある。そこでは竹や草木のみで作られた罠で、平気でイノシンも確保できるらしい。罠というものは、もちろん本体の材質も重視されるが、いかに手持ちの道具を使って罠を仕掛けるか………つまりは“メカニズム”を問われるものだ。
  メカニズムが複雑なほど、罠の“精度”というのは格段に上がる。
  だからこそ、俺は罠を仕掛けた本人に問うたのだ。

  単に人が一人分入るくらいの、ちょっと大きなダンボールを、少し太めで長い枝で斜めに支え、そこに生まれた空間に、砂糖の塊を丸々一個おいただけの、至極単純な罠で、本当に精霊がうまくかかってくれるのかどうか。

「うん、かかるよ、きっと」
「どっからその自信はわいてくるんだ? あんた精霊バカにしてんだろ」
「うん、なんてことを言うの。精霊を愛し、精霊のことをこの上なく調べ尽くしたいこの私が、どうして精霊を―――」
「だったらこの罠は?」
「……………」
  やはり無自覚ではなかったか。女はわざとこんなアホみたいな物を設置したのだ。大剣を背負ってるその存在が、ものすごく小さく見えてきた。何だか今まで付き合っていた俺までバカみたいじゃないか。
「あのさ………今まで熱弁してもらって悪いんだけど………俺はあまり時間がないんだ。あんたに訊けば、精霊が見つかるかもって思ったのに。無駄足だったのかな………」
「う、うんうん! 無駄足なんかじゃないと思うなぁ~!」
「自分を正当化すんのはやめろ。あんた、ホントに精霊の研究者かよ? 罠だってあまりにもぞんざいだし………」
「うん、失礼でしょ! 確かに私、暇だったからなんか遊び相手いないかなぁと思って、適当に熱弁を奮ったけど―――」
「おいちょい待ち。今『適当に熱弁』って言ったよね?」
「……………」
「……………」
  …………こいつ。マジぶっ殺してやろうかな?
「う、うんうんうん! そういえば私、今日午後から用事があるんだった! だから今日のフレーベ先生の授業は終了! じ、じゃーねー………」
「こら待てエセ研究者! 俺の貴重な時間返せぇぇ!」
  ………最悪だ。ほんっとに最悪だ。
  逃げ出した自称精霊研究家のフレーベ氏は、国道B号線の奥に消えた。俺は追ってやろうとしたが、流石にもうそんな事をするのもバカらしくなり、一人小さく笑った。
「…………こりゃあ、退学確定だな。精霊がいないんじゃあ、もうどうしようもねぇ」
  投げやりに浸りながら、エセ野郎が仕掛けた罠を足で蹴飛ばした。ダンボールが大きなへこみをつくってぶっ飛び、道端に転げた。
  空は俺の心中とは裏腹で、キレイで青くて、そして無であった。
「…………はぁ。今日はついてないや」
  せっかく数時間のエセ熱弁を聴いて、ここ国道B―1号線のど真ん中にしょうもない罠を設置するまでの貴重な時間は、悲しくも気化していった。掴んでも、他にそれは逃げていく。もう、起きてしまったことは元に戻らないのだ。
「これからどうすりゃあいいんだよ………もう絶望的じゃねぇか」
  頭を抱え込んだその時、俺の視界は、ある光景を捉えた。


「いや、いや! 放してぇ!」
「おい、コイツをはやく輸送車の中に放り込め!」
「ハッ。承知しました!」


  前方で、女の子が黒服の奴らに強引に車へと引きずり込まれる。カモメを頭に乗せた奇妙な男はそれに乗り込むと、車を発進させ、そのまま繁華街の奥へと消えてしまった。
「な………なんだいったい。まさか………誘拐!?」
  そういえばあの女の子は黒服に抵抗していた。だがそれよりも………
「………あの女の子。どこかで………」
  あの透き通った青い髪。俺はどこかで彼女と会ったような気がするのだ。
  それはいつ? ………昨日だ。
「そうか………あの子、昨日の“ハンカチ”の子だ!」
  昨日―――。
  繁華街に向かう途中、正面から衝突し、逃げるように去っていったあの女の子。
  クマを浮かばせ、憔悴しきっていたあの女の子。
  そして落としていった、あの血だらけのハンカチ………。
「………イヤな予感しかしねーな」
  俺は刀の存在を確認すると、車の軌跡を追った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

《カクヨム様で15000PV達成‼️》悪魔とやり直す最弱シーカー。十五歳に戻った俺は悪魔の力で人間の頂点を狙う

なべぞう
ファンタジー
ダンジョンが生まれて百年。 スキルを持つ人々がダンジョンに挑む世界で、 ソラは非戦闘系スキル《アイテムボックス》しか持たない三流シーカーだった。 弱さゆえに仲間から切り捨てられ、三十五歳となった今では、 満身創痍で生きるだけで精一杯の日々を送っていた。 そんなソラをただ一匹だけ慕ってくれたのは―― 拾ってきた野良の黒猫“クロ”。 だが命の灯が消えかけた夜、 その黒猫は正体を現す。 クロは世界に十人しか存在しない“祝福”を与える存在―― しかも九つの祝福を生んだ天使と悪魔を封印した“第十の祝福者”だった。 力を失われ、語ることすら封じられたクロは、 復讐を果たすための契約者を探していた。 クロは瀕死のソラと契約し、 彼の魂を二十年前――十五歳の過去へと送り返す。 唯一のスキル《アイテムボックス》。 そして契約により初めて“成長”する力を与えられたソラは、 弱き自分を変えるため、再びダンジョンと向き合う。 だがその裏で、 クロは封印した九人の祝福者たちを狩り尽くすための、 復讐の道を静かに歩み始めていた。 これは―― “最弱”と“最凶”が手を取り合い、 未来をやり直す物語

九尾と契約した日。霊力ゼロの陰陽師見習いが大成するまで。

三科異邦
ファンタジー
「霊力も使えない。術式も出せない。 ……西園寺玄弥、お前は本当に陰陽師か?」 その言葉は、もう何度聞いたか分からない。 霊術学院の訓練場で、俺はただ立ち尽くしていた。 周囲では炎が舞い、水がうねり、風が刃のように走る。 同年代の陰陽師たちが、当たり前のように霊を操っている。 ――俺だけが、何もできない。 反論したい気持ちはある。 でも、できない事実は変わらない。 そんな俺が、 世界最強クラスの妖怪と契約することになるなんて―― この時は、まだ知る由もなかった。 これは―― 妖怪の王を倒すべく、九尾の葛葉や他の仲間達と力を合わせて成長していく陰陽師見習いの物語。

異世界きたのに、冒険者試験で詰みました。

アセチルサリチルさん
ファンタジー
【追放もざまぁも無双もない。あるのは借金と酒と笑いのみ!】 お父さん。お母さん。 あなたたちの可愛い息子は―― 異世界で、冒険者になれませんでした。 冒険者ギルドでのステータス鑑定。 結果は「普通」でも、 固有スキルは字面最強の《時間停止》 ……なのに。 筆記試験ではギルド創設以来の最低点。 そのまま養成所送りで学費は借金三十万。 異世界初日で、多重債務者です。 ……なめてんのか、異世界。 ここで俺たちパーティのイカれたメンバーを紹介するぜ! ケモミミ用スキルが初日で無駄になったバカ、タクヤ。 魔力制御が全くできない厄病神のバカ、リーシャ。 実は厨二病で呪い装備しか愛せないバカ、オルファ。 そして――スキルで時間を止めても動けないお茶目な俺、ユウヤ。 うーん! 前途多難! これは―― 最強でも無双でもない。 理不尽な世界で、借金と酒と事故にまみれながら、 なんだかんだで生き延びていく話。 追放? ざまぁ? 成り上がり? そんなものはございません。 あるのは、 愛すべバカどもが織りなすハートフルな冒険譚のみ。 そんな異世界ギャグファンタジーがここに開幕!

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

最弱弓術士、全距離支配で最強へ

Y.
ファンタジー
「弓術士? ああ、あの器用貧乏な最弱職のことか」 剣と魔法が全てを決める世界において、弓は「射程は魔法に及ばず、威力は剣に劣る」不遇の武器と蔑まれていた。 若き冒険者リアンは、亡き叔父から譲り受けた一振りの弓「ストーム・ウィスパー」を手に、冒険者の門を叩く。周囲の嘲笑を余所に、彼が秘めていたのは、世界をナノ単位で解析する「化け物じみた集中力」だった。 リアンの放つ一矢は、もはや単なる遠距離攻撃ではない。 風を読み、空間を計算し、敵の急所をミリ単位で射抜く精密射撃。 弓本体に仕込まれたブレードを操り、剣士を圧倒する近接弓術。 そして、魔力の波長を読み取り、呪文そのものを撃ち落とす対魔法技術。 「近距離、中距離、遠距離……俺の射程に逃げ場はない」 孤独な修行の末に辿り着いた「全距離対応型弓術」は、次第に王道パーティやエリート冒険者たちの常識を塗り替えていく。 しかし、その弓には叔父が命を懸けて守り抜いた**「世界の理(ことわり)」を揺るがす秘密**が隠されていた――。 最弱と笑われた少年が、一張の弓で最強へと駆け上がる、至高の異世界アクションファンタジー、開幕!

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

処理中です...