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『学生ラグナロク教』編
第51話《チェックメイト》
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轟轟と唸る音とともに、大地は体がぐらつくほどの振動を生じた。フィールドに2つめの亀裂をグレー=ルイスが入れた瞬間だった。
(決まりましたね……………これで……………)
勝負はすでに決まっていたのだ。今さら確認するまでもないと鼻を鳴らす。
右手から生み出された魔法変則型特殊人種の創造魔法は今も眩しく火花のようなものを散らしていた。それを直に手のひらから発生させてる本人はなにも感じないのだから不思議だ。
(まぁ…………勝敗が分かっていたのと同じくらい、どうでもいいことですがね…………)
そう、そんな事は彼には知ったことではない。興味もない。
何故そうなるのか? 何故そう決まっているのか?
そんな物事の道理を考えたことなど微塵もなかった。強いて言えば、彼の娘が遺書一つ残さず自殺したときは彼もそこまで陥ってしまったが。
「…………さて」
悪魔は口を開く。
「これで全員、私の攻撃を直で食らいましたね。これは、今ここにいる全員が私の手のひらにいるということを意味しています」
振り返り、そこで大人しく押さえられたマリナーラという名前の少女を見下す。
「諦めなさい。あなた方もこれで、『学生ラグナロク教』の信者です。私の計画を邪魔した分、たっぷりと働いてもらいますからね」
少女マリナーラはしかしなにも答えなかった。口を小さく開き、まるで悪魔でも見たかのように目を剥いている。
(今からやってくる絶望を受け入れきれないのでしょうね。残念なことです………………ん?)
しかし彼はある違和感を感じたのだ。
目の前の少女は確かに唖然としている。瞬きを忘れるくらいに。
けど、何だろうか。彼女の目は彼にではなくその背後に向けられているような……………。
ドサッ。
背後からの突然の物音。歴戦の猛者のような、地を深く踏みしめるその足音。
「─────っ!?」
きびすを返した先には、
少女、福本アヤノンがそこにしっかりと、2本足で、血を垂らしながら立っていた。
「─────ほう、面白いですねェ」
声が裏返る。興奮から来るものだろうか。いや、そんなこともどうでもいい。
今グレー=ルイスは『神経操作』の力を目の前のボロボロな少女に向けている。しかし、少女の腕を動かすどころか意識すら乗っ取れなかった。
つまりこれは、先ほどの彼の攻撃は外れたことになる。
いや、もっと細かく言えば────
福本アヤノンはその体で攻撃を回避したことになるのだ。
(…………腹が立ちますねぇ…………特にこの少女は)
不思議だった。この少女に関していえば、何故かうまくいかないのだ。
彼の信者の一人のシーナにしてもそうだ。彼女の体に『神経操作』を作用させ、侵入者を叩き潰そうとしたら逆に返り討ちにあった。
自分の能力が効かなかったのだ。あの女には。
だが他の信者や刑事でさえ思うがままに一応は操れた。なのに目の前の少女には力を作用させることすら敵わないのだ。
その時。不意にかつての娘の姿が少女と重なったように見えた。
「──っ!? ………………なるほど、そういうことですか。フレイヤ───」
独りでに話し出す男。
「お前のためにやってきたというのに───お前はそちらに付くのですね」
影になって浮かんだ少女フレイヤは必死に彼へ何かのアピールをしている。破天荒な性格の彼女だから、いつものように大きくジェスチャーをしながら、それこそ必死に。
「───気にくわない」
福本アヤノンは顔を下に下ろしたまま、何も答えない。動こうともしない。
ただ崩壊に崩壊したフィールドの上に、まさしく影のように立っているだけだった。
「───私は今、猛烈に気にくわない」
グレー=ルイスの右手と左手からかつてないほどの量の光が発生する。
ドサッと。
ついに少女は動いた。
ゆっくりと、死んだように動かしたのは、
なんと、右手の指だけ。
(………………は?)
少女は人差し指と中指をピッタリくっつけて、あと他はキレイに折り畳むと、その揃えた指先に小さな『魔法の光』が灯される。
「……………この期に及んでなにを…………」
少女の右手は止まらない。彼の哀れんだ目を払い除けるように、そのボロボロな体を動かす。
その動きを見て、グレー=ルイスはさらに困惑した。
その灯された指は突如、空中に何かの式を書き始めたのだ。
「………………?」
見たこともない式だった。何かの法則に従っているのか、それともでたらめで書いているのか分からないような、謎の式。
しかも魔法で書いているため空中にしっかりと形を保ったまま残っている。その横に続けて少女はひたすら式を書き続ける。
「…………っ 。遊んでいるのですか。ならいいでしょう。その遊び相手に、私がなってあげますよ!!!」
両手を少女に向けると、光は再び激しく集積され、今までの倍はあろうエネルギー砲が放たれた。
(これでチェックメイトです、………………!)
その時。
少女は式を丁度書き終えていた。
δ5.bd:Hnbd:HpfckWnIn
『δ5、微分魔法式』
少女がそう告げた瞬間だった。
強大なエネルギーの塊であるそれは一直線に少女へと突き刺さろうとした、
…………が、エネルギー砲は突然軌道を変え、おかしくも上へと跳ね返される形で防がれた。
「………………………………………………。はぁ?」男は声をこぼす。
どこかへ行ってしまうエネルギー砲は、終わりのない異空間の空へと直進していった。
その場に残されたのは、『呆然』という2文字。
「………………、し、死になさい、この小娘が!」
再び男は手を構える。次は右手から繰り出された巨大な剣である。それを縦に少女へと振り下ろす。
…………しかし、結果は同じ。
少女に大剣が迫った次の瞬間、魔力でできたそれはまるで分解でもされたかのように四方八方へと分散する。それもまた、数学の二次曲線のような軌道を伴って。
「ば、バカなっ!? こんなはずは……………」
今、彼の目の前に娘の自殺と同レベルの───いやそれ以上に不可解な状況が広がっている。
悲しくも、そんなところに居合わせたグレー=ルイスは不幸者といっても過言ではなかろう。
グレー=ルイスは次こそはと両手を広げる。すると死人のような少女の周りに10体ほどの巨人兵が姿を現す。どれも20メートルはありそうな、鎧を着た重装備の巨人。彼らはグレー=ルイスの魔法で具現化した怪物である。
巨人はたった一人の少女を討伐せんと、その拳を一斉に構え、巨大な軌道を得て少女に振るった。
(これはいくらなんでも防げまい…………! 下手をすれば高層ビルを素手で破壊できるような巨人を10体も用意したのだからなっ………………)
しかし、答えはただ一つ。
少女に近づいた巨人の拳はやはり二次曲線を描くように逸れ、巨人たちは体勢を崩しその場に倒れる。
先の巨大に続いて倒れこむ残りの巨人たち。当然フィールドにこれ以上の負荷がかかれば崩壊は免れない。
(しまっ─────)
だが次の瞬間。
今まで動かなかった少女が動き出す。近場に落ちていた刀を手に取り出すと、まるで素人とは思えないほどの素早くキレだらけの動きで、バサリと巨人たちを両断していく。
両断されては巨人は消えていき、その間を入って少女はさらに次の標的へと切り込む。
(そ、そんな……………私の魔法が…………効かない?)
軽く巨人をあしらった少女の刀は紫色の何かを纏っていた。
(なんなのだ……………なんなのだこの小娘はっ!?)
見たこともない防御魔法。炎のようにメラメラと燃えたぎる紫色の魔力。
そして……………それらを全て生み出したこの少女。
男は一方後退りする。
理解不能な少女がこちらへ迫って来たからだ。
「あっ…………………あぁ…………………」
声を上げて一目散に逃げたい。背中を見せてでもいい。なんならこの最上階から飛び降りたっていい。
今グレー=ルイスの中には、恐怖という感情しかなかったのだ。
「──────────────、」
その時、ふらついた足取りで向かう少女の前にいつまでもある『謎の式』が音をたてて割れた。
ガラスが割れるような音。
しかし少女の指が再び動く。
空気中に描く、その理解不能である式を、グレー=ルイスが恐れないわけがない。
「や、─────やめろっ─────」
式が完成する────。
δ6.CdIpVdbd:IgRgWn
『δ6、悪魔殺し』
少女の勝利の宣言が静かにその場に響く。
するとグレー=ルイスを取り囲むようにして、無数の魔法陣が異空間を一杯に埋め尽くす。
紫色の、夥しい数の不気味な魔法陣。その真ん中に出現した9角星。その中心を一点に目が眩むほどの光が集積し始める。
意識が眩む。
頭が痛む。
体が自由にならなくなって、その場に尻餅をつく。
もう、グレー=ルイスに『抵抗する』という選択肢はなかった。
(──────いや、ムリでしょう、これは────)
無数に現れた魔法陣から一斉にレーザー光線のようなものが放たれた。それはグレー=ルイスという男を一点に集まり─────
*
その時、ラグナロク教の本拠地であるビルの最上階は突如爆破した。
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