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シンディとリアは入り組んだ道の突き当たりで、座り込んで身を寄せあっていた。
これは悪手である。
隠れて魔物を遣り過ごすにしても、逃げ場を確保していなければ追い詰められた状態になってしまう。余程腕に覚えのある者でも、好んで選ぶような真似はしない。
「お前ら、マイナス2点な」
「先生~」
シンディとリアの無事を確認し、アーヴィンが告げると、シンディはくしゃりと顔を歪めて、まだ乾いていない頬の上に新たな涙の道筋をつける。
足を負傷していると聞いていたが、リアのそれは軽い捻挫のようだった。
アーヴィンは腫れ上がったリアの足首に触れる。
女生徒どころか彼を知っている者は全て好意を抱いてしまうという、秀麗なる青年の手が素足を撫でるのを、リアは緊張した面持ちで見つめていた。
少しそばかすの浮いた頬が赤く染まっているのは、泣いていた所為ではないだろう。
アーヴィンの手のひらから魔力が注がれるのを感じる。
その温かさに鼓動が高鳴り、胸の奥がキュッと切ない悲鳴を上げるのが分かった。
「痛むか?」
「っ、いえ、もう大丈夫です。有難うございます!」
「こら。元気なのはいいが、大声は出すな。お前は更にマイナス1点だ」
「あ、狡い」
「何だ。お前もマイナスされたいのか? 変わった奴だな」
「そっちじゃなくて」
唇を尖らせて自分の額を示すシンディ。
その前にリアがアーヴィンにされたデコピンのことを言っているらしい。リアの方は幸せそうに自分の額を撫でていて、アーヴィンは溜め息をつく。
「ほら、戻るぞ」
「……はい」
「はぁい」
立ち上がったアーヴィンに素直に従うリアと、仕方ないといった風に従うシンディ。
後退出来ない道の先に現れたオークに、アーヴィンは。
「戦えそうか? 経験値稼ぎたいなら……」
「戦えないです。先生頑張って下さい」
「――」
念のためと確認すれば、シンディから急かすような返答があり、リアは無言で頷く。
「甘やかしてもいいことないんだがな」
ポツリと呟き、向かって来たオークを軽く仕留めてみせた。
生徒二人を守りながらでも、アーヴィンの歩調は変わらなかった。すっかり見学気分のシンディを時折脅かしてやりながら進んでも、十分とかからずに離脱してしまう。
一仕事終えたとアーヴィンは安堵し、シンディとリアは名残惜し気にダンジョンを振り返る。
そこへ、待ち構えていたかのように駆け寄って来る姿があった。
「シンディ、リア~!」
二人の仲間たちである。人数が多いのは、友達が混じっているからと思われる。
そして生徒に混じってイヴリンが慌てた様子で来るのを見つけると、後頭部に手を回して頭を掻く。
「す、すみませんっ。アーヴィン先生が生徒の迎えに行ったと知って、メリリースが後を追ってダンジョンの中に入って行ってしまったとリズィーから報告がありました!」
「はああ? またあの問題児か。ったく、腹も減ってるってのに面倒臭いな」
「そう言わずに」
「今日のダンジョンならば、あいつ一人でもどうにかなるんじゃないですかね?」
「そんな呑気なこと言わないで下さい」
イヴリンがアーヴィンの腕を引くと、それを見ていた女生徒たちが騒ぎ始める。
「お前ら、さっさと戻れ」
声を掛けながらそっとイヴリンの手を外す。
「何処まで潜ったかわからない分、厄介なんだよな……」
いくらダンジョン内の魔物がアーヴィンにとって容易過ぎるものであっても、生徒一人をさがし出さなければならないとなると、面倒でしかない。
「冒険者やってる方が楽だったかもな」
アーヴィンは盛大に溜め息をつきながら、本日三度目となるダンジョンに入ったのだった。
(終わり)
これは悪手である。
隠れて魔物を遣り過ごすにしても、逃げ場を確保していなければ追い詰められた状態になってしまう。余程腕に覚えのある者でも、好んで選ぶような真似はしない。
「お前ら、マイナス2点な」
「先生~」
シンディとリアの無事を確認し、アーヴィンが告げると、シンディはくしゃりと顔を歪めて、まだ乾いていない頬の上に新たな涙の道筋をつける。
足を負傷していると聞いていたが、リアのそれは軽い捻挫のようだった。
アーヴィンは腫れ上がったリアの足首に触れる。
女生徒どころか彼を知っている者は全て好意を抱いてしまうという、秀麗なる青年の手が素足を撫でるのを、リアは緊張した面持ちで見つめていた。
少しそばかすの浮いた頬が赤く染まっているのは、泣いていた所為ではないだろう。
アーヴィンの手のひらから魔力が注がれるのを感じる。
その温かさに鼓動が高鳴り、胸の奥がキュッと切ない悲鳴を上げるのが分かった。
「痛むか?」
「っ、いえ、もう大丈夫です。有難うございます!」
「こら。元気なのはいいが、大声は出すな。お前は更にマイナス1点だ」
「あ、狡い」
「何だ。お前もマイナスされたいのか? 変わった奴だな」
「そっちじゃなくて」
唇を尖らせて自分の額を示すシンディ。
その前にリアがアーヴィンにされたデコピンのことを言っているらしい。リアの方は幸せそうに自分の額を撫でていて、アーヴィンは溜め息をつく。
「ほら、戻るぞ」
「……はい」
「はぁい」
立ち上がったアーヴィンに素直に従うリアと、仕方ないといった風に従うシンディ。
後退出来ない道の先に現れたオークに、アーヴィンは。
「戦えそうか? 経験値稼ぎたいなら……」
「戦えないです。先生頑張って下さい」
「――」
念のためと確認すれば、シンディから急かすような返答があり、リアは無言で頷く。
「甘やかしてもいいことないんだがな」
ポツリと呟き、向かって来たオークを軽く仕留めてみせた。
生徒二人を守りながらでも、アーヴィンの歩調は変わらなかった。すっかり見学気分のシンディを時折脅かしてやりながら進んでも、十分とかからずに離脱してしまう。
一仕事終えたとアーヴィンは安堵し、シンディとリアは名残惜し気にダンジョンを振り返る。
そこへ、待ち構えていたかのように駆け寄って来る姿があった。
「シンディ、リア~!」
二人の仲間たちである。人数が多いのは、友達が混じっているからと思われる。
そして生徒に混じってイヴリンが慌てた様子で来るのを見つけると、後頭部に手を回して頭を掻く。
「す、すみませんっ。アーヴィン先生が生徒の迎えに行ったと知って、メリリースが後を追ってダンジョンの中に入って行ってしまったとリズィーから報告がありました!」
「はああ? またあの問題児か。ったく、腹も減ってるってのに面倒臭いな」
「そう言わずに」
「今日のダンジョンならば、あいつ一人でもどうにかなるんじゃないですかね?」
「そんな呑気なこと言わないで下さい」
イヴリンがアーヴィンの腕を引くと、それを見ていた女生徒たちが騒ぎ始める。
「お前ら、さっさと戻れ」
声を掛けながらそっとイヴリンの手を外す。
「何処まで潜ったかわからない分、厄介なんだよな……」
いくらダンジョン内の魔物がアーヴィンにとって容易過ぎるものであっても、生徒一人をさがし出さなければならないとなると、面倒でしかない。
「冒険者やってる方が楽だったかもな」
アーヴィンは盛大に溜め息をつきながら、本日三度目となるダンジョンに入ったのだった。
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